[香港 6日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国中央部に位置する河南省は、同国の経済に生じた数々のほころびの全てを一身に体現している。1億人近くの人口を抱えるこの地は、世界の「iPhone(アイフォーン)」の大半を組み立てる台湾の鴻海精密工業の工場がある一方、数々の厄介な話題を提供している。
かつて河南省は中国で最も所得が低い地域の1つだった。同省の人間と言えば誠実さに欠けるというのが中国国内での通説でもあった。しかし現在の同省の域内総生産(GDP)はオランダに匹敵する規模で、5月の幾つかの指標は見事な内容。鉱工業生産は3.4%増と中国全体の0.7%をはるかに超え、固定資産投資は1─5月で10.5%も伸びた。同省政府が目指す年間GDP成長率は7%と、中央政府の目標である5.5%前後より約1.5ポイントも高い。
ただ現地のミクロ的な状況に目を向けると、そこまで明るくは見えない。昨年は何度か大洪水に見舞われ、現在は熱波に苦しんでいる。今年4月に省内の4つの地方銀行で預金が引き出せなくなった際、何と当局は苦情を訴えに来た預金者たちに対し、新型コロナウイルス感染追跡アプリを操作して健康コードを感染者ないし濃厚接触者を意味する「赤」に変更。そうした人々は当該の銀行のある町で隔離され、その後に町からも追い出されてしまった。
何人かの当局者は処分され、代わりに新しい金融規制担当者が派遣されてきた。しかし預金者がお金を取り戻した形跡はない。この件では、2つの問題が浮き彫りになった。1つは中国国内に存在する4000近くの地銀に危機が広がっていく可能性があること。もう1つはただでさえ個人の自由を侵害する感染追跡技術が、政策の失敗を取り繕う目的で使われるということだ。
河南省の状況は、中央政府が取り組んでいる不動産需要の安定化がいかに難しいかも物語っている。同省最大の不動産開発企業、建業地産は6月、売れない住宅を農家に買ってもらおうと頭金を小麦やニンニクといった農産物で受け取る方法を提案した。河南省は他の多くの地域と同じように、巨額の借金を抱えた不動産開発企業が塩漬けにしている売れないの未完成プロジェクトがあちこちにある。地元当局に苦情を申し立てたプロジェクトの投資家もまた、健康コードを赤にされた。
中央政府としては、内陸の地方役人が統計を改ざんしたり、中央政府の決定を誤って伝えたり、感染症対策への不信感をもたらす行為に及ぶのを望んではいない。5月には河南省を含めた幾つかの地方の役人が統計改ざんのほか、企業に売上高や利益水増しを強制したとして処罰された。
国際通貨基金(IMF)は中国の今年の成長率はどんなに頑張っても4.4%が関の山だと予想している。だが習近平国家主席は6月下旬、消費を大きく冷え込ませたロックダウン(都市封鎖)やロシアのウクライナ侵攻という要素があってもなお、中国では年間成長率目標5.5%前後を達成したいと改めて表明した。それはまさに役人たちを、課せられた目標実現までの時間稼ぎのために、あるいははなから実現する気などない目標で、さまざまなごまかしに走らせることになるだろう。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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