コラム：条例改正案撤回、香港政府トップの遅すぎた「白旗」

［香港　４日　ロイター　BREAKINGVIEWS］ - 香港の林鄭月娥（キャリー・ラム）行政長官がついに白旗を上げた。数カ月にわたる抗議活動の引き金になった「逃亡犯条例」改正案を正式に撤回したのだ。投資家は大歓迎し、痛手を受けていたキャセイパシフィック航空0293.HKなどを含め、企業の株価は上昇した。ただ抗議を行ってきた人々の気持ちをなだめるには、さらなる対応が必要になるだろう。

林鄭氏は６月以降、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする逃亡本条例改正案を巡って市民の反発にさらされてきた。先週の実業家グループとの非公開会合における発言の録音記録によると、条例改正を提案したことで香港に「言い訳のできない大混乱」を起こしたと認め、選択肢があるなら辞任すると話していた。同氏はその後辞任を申し出たことを否定したものの、かえって中国政府の意のままになっているという好ましからざる実態が浮かび上がった。

今回の条例改正案撤回は、ずっとそれを拒絶してきた林鄭氏にとっては驚くべき行動だったと同時に屈辱的でもある。例えばデモ参加者を正しい道を外れた子どもにたとえるような、同氏のピント外れの発言は市民の怒りを増幅させ、政治と経済の両面で混乱を助長した。７月には条例改正案の審議を中止するが、正式には撤回しないという中途半端な措置も講じた。

市場としては、林鄭氏による条例改正案撤回発表はここ数カ月で初めて出てきた良いニュースだ。中国の景気減速や米中貿易戦争に打ちのめされていたハンセン指数は４日、３．９％跳ね上がった。一部社員が条例改正案への反対を表明した問題が中国政府の逆鱗に触れ、トップの更迭につながったキャセイパシフィック航空の株価は急騰。間もなく香港のショッピングモールに買い物客や観光客が戻ってくるとの期待は、グッチの親会社ケリングPRTP.PAやＬＶＭＨLVMH.PAといった世界的なブランド企業の株価も押し上げた。

しかし残念ながら、条例改正案撤回で危機が始まった当初の緊迫感を冷やせるとしても、既に民主派らの要求は劇的に拡大している。彼らは今、警察の取り締まり姿勢に対する独立調査委員会の設置や、拘束されている１０００人を超えるデモ参加者の釈放、普通選挙の実施などを望んでいるのだ。社会的混乱の原因を調査するという提案では、それに十分に応じているとは到底言い難い。

林鄭氏の譲歩は好ましい第一歩とはいえ、事態を短期間で簡単に解決できる時期はもはや過ぎてしまった。

●背景となるニュース

＊香港の林鄭月娥行政長官は４日、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案の撤回を正式に表明した。条例改正案は、数カ月にわたる香港の社会的混乱のきっかけになった。

＊条例改正案に対する抗議活動は、その後普通選挙の実施を含めた幅広い民主化要求へと拡大している。

＊林鄭氏は先週、実業家グループとの非公開会合で香港の危機を巡り「言い訳のできない大混乱」を引き起こしたとし、選択肢があるなら辞任すると話していたことが分かった。録音された発言をロイターが確認した。

＊香港の主要株で構成されるハンセン指数は４日、条例改正案の正式撤回の報道を受け、３．９％上昇して引けた。

＊筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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