[香港 3日 ロイター] - 一世を風靡した香港の民主化運動が、その将来について自信喪失に陥っている。中国による香港への統制が強化され、支持者のあいだに広がる悲観論が重くのしかかっているからだ。
中国が香港に対する締め付けを強めるなかで、民主化を掲げる政党は主要指導者が排除されたことによる打撃を受けており、強い組織力を持つ体制寄りの陣営に押されている状況にある。
深刻さが明らかになったのは先月である。民主派は香港立法会の補欠選挙で後退し、楽勝と予想されていた3議席のうち2議席しか取れなかった。
決定的だったのは、多くの支持者が民主化グループの戦術は「対決色が強い」と反発して投票所に足を運ばず、一部が体制派候補に乗り換えたことだ。
フェンと名乗る民主派支持者の1人は、「反体制派はいつも議論のための議論をしている」と言う。そのことに苛立ちを強めた彼女は、3月11日の補選では体制派候補に票を投じたという。
公共事業関係で働く44歳のフェン氏は、「中国政府との直接対決はよい戦術ではない。もっとソフトなやり方で行かないと」と話す。政府系の仕事をしていることを理由に、彼女はフルネームは公表したくないと話した。
フェン氏のような有権者の変化は、香港の民主派政党の指導者を憂慮させている。彼らは、香港において中央政府からの影響力に対抗する唯一の武器は市民からの信託であると考えており、それが損なわれることを恐れているからだ。
民主派である公民党の党首を務める法廷弁護士の楊岳橋(アルビン・ユン)氏は、「この香港において、我々の同胞である市民が民主派を見限らないようにしなければならない」と言う。
この10年間、香港の自治に対する中国政府の干渉が強まってきたとされており、反発は高まっていた。
2014年、香港行政長官選挙の普通選挙化を求める民主化グループの抗議行動が、数ヶ月にわたって市内の広い範囲を席巻した。こうした抗議行動が排除された後、若手の民主化活動家のあいだでは、独立を求める声が高まった。
中国政府は、いっそうの統制強化でこれに対応している。
2016年、中国政府は香港の裁判所による判決に介入し、就任宣誓が無効であったことを理由として独立派の議員を失職させた。3月の補選はこの措置を受けて実施されたものである。また中国政府は、香港の鉄道駅の一部に本土の法律を適用すると表明している。
3日、体制派グループ数十名は、中国からの独立を主張するコメントをしたことを理由に、香港大学の戴耀廷教授の解任を求める意見広告を香港各紙に出稿した。
中国の治安機関の活動が香港に広がっていることも多くの香港市民を不安に陥れている。2015年には香港の複数の書店経営者が姿を消した後、中国で拘留されていることが判明し、また2017年には中国本土出身の大富豪が香港の高級ホテルから不可解な失踪を遂げるといった事件があったためだ。
一方、香港当局は、中国国歌を侮辱した者を最長3年の禁固刑に処するとの提案を行った他、体制派政治家からは、反中国的な活動を非合法化する国家治安法を求める声が上がっている。
さらに当局は、21歳の学生である黄之鋒氏など、抗議行動の指導者の拘束も始めている。
<支持の縮小>
先月の議席喪失は、民主派陣営としては補選での1対1の対決での初の敗北である。野党側がある程度の拒否権を取り戻すことに失敗したという意味で、大きな敗北だった。
民主派は今後の補選でさらに2議席をめざして戦うことになるが、補選の日程はまだ発表されていない。
民主化運動の方向性をめぐって不満が高まっていることに加え、一部の有権者は、カリスマ的な候補者が不足していること、また民主派陣営のなかでの内紛が公然化していることへの懸念を表明している。
45歳の会社員ベン・ウォン氏は、民主派の姚松炎(エドワード・イウ)候補に投票したものの、親近感はほとんど抱いておらず、単に体制主流派に反対する意味で投票しただけだ、と語る。
「うんざりしながら投票した」とウォン氏は言う。姚候補は結局、補選で議席を回復できなかった。
一般に補選では総投票数が下がるものではあるが、補選が戦われた3つの選挙区における民主派政党の得票数は、2年前の総選挙時に比べて35%も減少した。対照的に、体制派政党の得票数は12%の減少だった。
クラブのDJとして働く26歳のクリスタル・ソー氏は民主派を支持していたが、投票には行かなかったという。
「香港はもう自分の故郷と呼べるような場所ではなくなっている気がする」とソー氏はテキストメッセージで語る。彼女の年頃の若者には、外国移住を考えている人もいるという。「私たちの多くに比べて、最も勇敢な行動をとった」人物である黄氏の拘束は、特にショックだったという。
保釈中の黄氏はロイターに対し、香港が近い将来に真の民主主義を獲得するには基本的価値を守ることが大切だ、と述べた。
黄氏は香港の民主化運動について、「基礎を築く必要がある。そうすれば、決定的な瞬間が訪れたときに交渉力を発揮することができる」と語っている。
民主派にとって次の大きな試練は、予想される立法院補選、そして2019年の地方議会選挙、2020年の立法院総選挙ということになろう。
民主派のアドバイザー役である元研究者の鄭宇碩(ジョゼフ・チェン)氏は、民主派陣営にとって「真剣な自己分析」を行うべき時期が訪れていると思う、と語る。
「我々自身が問題を抱えているというだけでなく、今や我々の前に立ちはだかっているのは、きわめて高度になった機構なのだ」と彼は言う。
<中国からの圧迫>
学者・外交官によれば、体制派の陣営を支えているのは中国共産党と連携するグループである「統一戦線」で、ソーシャルグループや業界団体を通じて支持者を動員しているという。
これに対して民主派の側には、幅広い支持者層を統合するような中枢となるリーダーシップが存在しない。
また民主派グループにとっては資金調達も課題だ。メディア企業ネクストメディア(壱伝媒)グループの創業者・黎智英(ジミー・ライ)氏は依然として民主化運動にとって大きな資金提供者であり、同グループの大衆紙「蘋果日報」(アップル・デイリー)では民主化運動が好意的に報道されている。ライ氏からのコメントを得ようとしたが連絡が取れなかった。
だが、中国からの報復を恐れる他の大企業からは、なかなか資金の提供を受けることができず、個人からの小口の寄付に依存している。
対照的に、体制派の政党にとって資金調達はさほど難しくない。
地元メディアによれば、最大政党の民主建港協進連盟は2016年、中央政府高官の揮毫をオークションにかけて1880万香港ドル(約2億6000万円)を調達したという。
<選挙戦術への批判も>
体制派の有力議員である葉劉淑儀(レジーナ・イップ)氏に「統一戦線」からの影響について尋ねると、同氏が党首を務める新民党の本土系の支持者は、中国側当局者との繋がりがあるかもしれないと認めた。
だが同時に葉劉氏は、補選前には約1000人のボランティアを動員して街頭での運動を繰り広げ、有権者と直接対面して言葉を交わすなど、党による精力的な活動があったことも強調した。
「民主主義の旗を掲げるだけで勝てるわけではない」と葉劉氏は言う。彼女は民主派政党について、「民主主義の魅力に頼る、あるいは政権に対する怒りを煽るだけという古くさい戦術」に依存していると評価。「明らかに、最近ではそういう戦術だけでは十分ではない」と付け加えた。
(翻訳:エァクレーレン)