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コラム

コラム:香港IPO市場、ゼロコロナ撤廃でも回復ほどほどか

[香港 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 香港のバンカーや政府関係者は中国の「ゼロコロナ」規制の撤廃を夢想している。中国本土の経済再開が香港資本市場の復活にとって極めて重要なのは間違いない。しかし、コロナ規制撤廃をもってしても香港が国際金融センターとしての未来を保証されるわけではない。

 12月12日、香港のバンカーや政府関係者は中国の「ゼロコロナ」規制の撤廃を夢想している。香港で10月撮影(2022年 ロイター/Tyrone Siu)

今年は新規株式公開(IPO)にとってひどい年であり、それはアジアの金融ハブである香港に限ったことではない。リフィニティブのデータによると、ニューヨークとロンドンのIPOは前年比95%以上減少し、香港の72%減よりも落ち込みが大きい。リチウム製品大手の天斉リ業など、香港で実施にこぎ着けたIPOの多くは、事前に一定額の投資を約束する「コーナーストーン投資家」に頼った。

香港はシェアも失いつつある。今年は全世界のIPOに占める比率が5%で、2018年の同時期の19%から着実に低下。ニューヨークの昨年のシェアは約40%だった。香港はすでに他の市場に上場している企業、特に米国に上場する中国企業が重複上場を計画する際には選ばれているが、初めてのIPO案件ではシェアは落としている。

<4つの脅威>

IPOの国際的ハブには不可欠な基本要件がある。(1)資金調達を望む企業(香港の場合はほとんどが海外企業)、(2)人とお金が出入りする手段、(3)株式販売の用意が整っている多数の仲介業者、(4)株式を買いたい投資家―の4つだ。香港はかつてこうした要件を潤沢に備えていたが、今では全ての面で問題を抱えている。

第1の課題である発行体の不足は今後緩和されるだろう。これまで香港取引所で実施されたIPOでは、最も規模が大きい10件のうち8件を中国本土系企業が占めている。同取引所の史美倫(ローラ・チャー)会長は先月末、香港のIPOは中国の経済再開に伴って回復するとの見通しを示した。その後中国政府はゼロコロナ政策を一部緩和し、株価が上昇した。

この株価上昇によって、少なくとも上場を望む企業オーナーにとっては香港の魅力が高まる。ハンセン指数は1年後の利益見通しに基づく株価収益率(PER)が9倍と数十年ぶりの割安な水準にある。ゼロコロナ政策が緩和され、経営者や投資家が再び海外と行き来できるようになればアクセスも改善されるはずだ。

一方、その他の問題は簡単には解消しない。世界の2大経済大国である米国と中国との間の競争激化は、中国企業が海外進出のための資金を調達する上でプラスにはならない。米大手金融機関も香港での事業拡大を正当化するのが困難になる。

中国のIPOの多くは政治的な要素を含み、米金融機関が案件を受注するのは難しい。香港の今年のIPOリーグテーブルで中国国際金融(CICC)が2年連続でトップの座に就くと見られているのも無理はない。

米上場中国企業の監査手続きに関する米中対立に解決の兆しが見えることは両国関係にとっては良いことだが、これによって約200社の中国企業が米国の証券取引所に上場し続けられるようになるかもしれないという面がある。そうなれば、こうした企業は香港上場という「プランB」が不要になる。

<誰が投資するのか>

次に誰が香港の上場株式を買いたいのかという問題がある。中国政府の規制強化や情報格差への懸念から、海外投資家は中国本土での株式購入を望んでいる。こうした流れを映し、本土市場上場で人民元建てのA株と、本土企業が香港ドル建てで発行するH株について重複上場の乖離率を示す「ハンセンAHプレミアム指数」は足元で141と、H株がA株に比べてかなり割安だ。

Breakingviewsの取材に応じたバンカーは香港のIPO市場を楽観視する根拠として、中国の大企業はいずれ海外資本が必要になると予想されること、中国企業にとって香港で上場する方が本土より早い、などを挙げた。香港取引所のチャー会長によると、100社余りの企業が香港でのIPOを準備中。6月にニューヨーク上場を廃止した中国の配車アプリ大手の滴滴出行(ディディ)が香港上場を希望するなど、有望な大型案件もいくつかある。

香港はチャー会長が指摘するように、中東や東南アジアなどからのIPO獲得を増やすこともできる。もっと多くの香港上場外国株を本土との株式相互取引制度に組み込む会長の取り組みが実現すれば、誘致しやすくなるだろう。

しかしこうした楽観論は現実の壁にぶつかっている。香港は中国への重要な国際的ゲートウェイであり、その位置付けは今後も変わることはないだろう。物流面における新型コロナの悪影響も、まもなく最悪期を脱するかもしれない。しかし投資家や企業がかつてのように香港というゲートをくぐろうとしないのなら、香港の当局者や金融関係者は志を下げざるを得ないだろう。

●背景となるニュース

*香港取引所の史美倫(ローラ・チャー)会長は11月30日のロイターネクスト会合で、100社余りの企業が香港でのIPOを準備していると明かした。同取引所は中東や東南アジアなどの市場からより多くの企業や投資家を誘致すべく取り組みを進めているという。

*リフィニティブがまとめた12月7日までのデータによると、年初来の香港取引所のIPOに伴う調達額は71億ドル。昨年は280億ドル余りだった。金額は特別買収目的会社(SPAC)が絡む案件と重複上場を除いた数字。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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