June 29, 2018 / 11:59 PM / 17 days ago

焦点:怖さより安さ、住宅高騰の香港で人気呼ぶ「事故物件」

[香港 28日 ロイター] - 香港にあるマンションの一室で、その部屋の持ち主が、暗くて狭い寝室の窓を指さした。窓は小さく、塞ぐことも簡単で、彼に言わせれば一酸化炭素中毒になるには格好の部屋だという。

この部屋では過去に1人の男性が木炭を燃やして自殺。同じ部屋を借りていた女性警察官も、首つり自殺をしたという。

「だから非常に安く買うことができた」とこの部屋のオーナーであるン・グーンラウさん(66)は言った。

広さ30平方メートル程度の狭い部屋を、ンさんが購入したのは2010年。2件の自殺が起きたことで、価格は100万香港ドル強(約1410万円)で、当時の相場より3割も安かったという。

それから8年を経て、この部屋の値段は恐らく約440万香港ドルになっているだろうと、ンさんは推測する。

地元メディアから「事故物件王」の異名をつけられたこの白髪男性は、「ホンザ」と呼ばれる自殺や殺人などの悲劇が起きた事故物件への投機で名を馳せた。こうした物件を、時には相場より4割も低い価格で購入することができた。

だがここ数年、香港不動産価格の記録的な高騰を受けて、どんな事件が過去に起きていたとしても、こうしたいわくつきの住宅は見過ごすには惜しい「お買い得物件」だと、多くの人々が考え直すようになっている。

事故物件価格は、2013年には相場よりも3割程度安かったが、ンさんによれば、今年は値引き率が1割程度にとどまっており、過去1年間で、これまでになく急速に縮まっているという。

「最近の市場はクレイジーだ。非常に多くの需要がある」と、以前はフカヒレの販売を手掛けていた事故物件王のンさんは語る。「不幸な事件のあった物件を買うことは、いまや住宅を所有するために極めて現実的な方法となっており、競争が激しい」

<手の出ない住宅価格>

アジアの金融センターである香港は、住宅価格が過去最長となる18カ月連続の上昇を記録しており、世界で最も高価な不動産市場の1つに数えられる。

UBSは昨年公表したリポートで、熟練サービス労働者であっても、20年働かなければ、香港中心部に広さ60平方メートルの部屋は購入できないと指摘した。

不動産コンサルタント会社ナイト・フランクは今月、800万香港ドル(約1億1300万円)という中間的な価格帯のマンションを購入する余裕があるのは、香港の納税者185万人のうち約2割にすぎないと見込んでいる。

今年はさらなる価格上昇が見込まれており、5人の不動産アナリストは全体の上昇率が8─17%程度に達すると予測している。

1990年代以降24件程度の事故物件を購入し、その大半を転売することで利ざやを稼いできた事故物件王のンさんでさえ、この相場上昇には驚きを隠せない。

最近の価格高騰と2回目以降の住宅購入に対する厳しい課税のため、6年間も事故物件を購入できない状態が続いているというのだ。

一輪車の愛好家でもある彼は、今のところ物件の売却を考えていない。所有物件は「宝の山」だからだ。

 6月28日、住宅価格の高騰がとまらない香港では、事故物件が人気に。写真は過去に2度自殺が発生した部屋を紹介する、この部屋のオーナーで「事故物件王」の異名を持つン・グーンラウさん。8日撮影(2018年 ロイター/Venus Wu)

供給不足と人気の高さを反映して平均的な入居待ち期間が5年とされる公共住宅についても、多くの人々が、あえて訳あり物件を狙う「抜け道」に殺到している。香港住宅局のウェブサイトによれば、こうした訳あり物件には、「不幸な事件があったもの」が含まれている。

昨年9月には、こうした訳ありマンション576室に対して、8万を超える申し込みが香港当局にあったという。

<心理的ハードル>

いわくつきの「幽霊マンション」を巡る問題は、香港住民の不動産所有に対するこだわりと、中国系住民の迷信深く古くからの伝統を追求する傾向とが混在している。後者は、建物が山、風、水といった周囲の自然の力とうまく調和するよう、不動産デベロッパーが「風水」を気にすることにもよく現れている。

事故物件は、同じフロアにあるすべての部屋の価格を下げるだけでなく、上下のフロアの価値も下げてしまうと、不動産代理店は語る。

香港では一般的に、殺人被害者の地縛霊が、特に「出る」と信じられている。人間としての生に未練を残し、悪意による早すぎる死を嘆き、生きているあいだに十分できなかったことを成し遂げたいと願うためだという。

元銀行員の英国人リューリック・ジャッティング被告が2014年に2人の女性を殺害した高級マンションの1室から数戸を隔てた部屋が、昨年売れた。この部屋が前回売買されたのは2011年で、この時から香港の住宅価格は8割以上も上昇しているが、高値で売れた前回に比べて、今回の売却価格は6%低下していた。

「われわれは伝統的な中国社会で暮らしている」と不動産代理店の関係者は匿名を条件に語った。「一部の人々にとっては心理的なハードルがあり、不幸な事件のあった部屋では快適に暮らせないだろう」

事故物件については、銀行も、住宅ローンの提供に消極的だと、中原地產のマネージング・ディレクター、アイビー・ウォン氏は語る。融資が焦げ付いた場合、担保物件の転売が難航する可能性があるからだ。

だが、10年前であれば事故物件向けのローン申請を門前払いする銀行もあったが、近年ではこうした方針は緩和されている。

「こうした物件でも喜んで受け入れる購入者が増えるなら、銀行もより自信を持てる」とウォン氏は言う。

香港セン湾にある悪名高いマンションの1室を購入する女性に対して、HSBCは昨年住宅ローンを提供した。土地登記所の記録によれば、このマンションでは1996年に、ある男性が親族6人を殺害し、自らもガス自殺を企てているにもかかわらずだ。

香港にある数千件の事故物件について、詳細な記録を残すことを専門とする非公式のウェブサイトも存在している。似たようなサイトは台湾や日本にもあり、カナダのサイトでは、北米で殺人事件が起きた住宅などが掲載されている。

香港の不動産代理店は、事故物件を開示する法的義務こそ課せられていないが、不動産ライセンスの発行や剥奪の権限を持つ香港の監督局の下で倫理規定に縛られている。

同監督局は、2014年から今年5月までに、事故物件に関する苦情を28件受け付けたとロイターに語った。

ただ、事故物件購入を気に病まない人々は一部で確かに存在する。それが手頃な住宅価格を意味する場合はなおさらだ。

「少しも怖くなかった」──。初めて中国本土から香港に移った際に、ンさんの所有する事故物件の一室を借りていたというジェニー・ユンさんはそう言った。「皆誰でも死ぬ。それは、とても自然なことだから」

(翻訳:エァクレーレン)

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