[ブダペスト(ハンガリー) 9日 ロイター] - 圧勝で再選を果たしたハンガリーのオルバン首相が、自身の反移民政策に批判的な市民団体に対する取り締まりを拡大する可能性が出てきた。
右派で国家主義的なオルバン首相は、自身について、欧州に流入するイスラム系移民からハンガリーのキリスト教的文化を救う救世主だと考えている。こうしたイメージはとりわけ地方で顕著であり、同国の有権者250万人超が共鳴した。
8日投開票された総選挙では、オルバン首相率いる中道右派「フィデス・ハンガリー市民同盟」の連立与党が3分の2超の議席を獲得し、同首相は3期目に突入した。このことは憲法を改正する権限を首相が手にしたことを意味する。
今回の勝利により、オルバン首相は、ポーランドやオーストリアの右派ナショナリストと協力し、欧州連合(EU)移民政策に反対するよう中欧同盟諸国に一段と働きかける可能性がある。そうなれば、EU加盟28カ国の亀裂がさらに深まることにもなりかねない。
欧州委員会は、多くの課題において、ハンガリーと協力することを楽しみにしているとしている。
フィデスの広報担当者は9日、新議会で可決される最初の法案の1つは、移民を支援し「国家安全保障リスク」をもたらす非政府組織(NGO)を禁じるものになる可能性があると明らかにした。
総選挙前に政府が「ソロスを止めろ」と呼んでいた法案は、ハンガリー出身の米著名投資家ジョージ・ソロス氏を標的とするオルバン首相の執ような反移民キャンペーンの一環である。ソロス氏の慈善活動は、リベラルで開かれた価値観の啓蒙(けいもう)を目的としている。
「新たな議会で5月初めに審議が始まれば、国家の利益に必要な仕事に取りかかることができる。つまりそれは『ソロスを止めろ』法案となる可能性がある」と、フィデスの広報担当者は9日、国営ラジオにこう語った。
あるNGO関係者は、同法案の展望について「恐ろしいほど深刻」だと語った。
選挙前に提案されていた法案には、「不法移民を支援」する一部NGOの登録義務付けや、そのようなNGOが外国から集めた寄付金に対する25%の課税が含まれていた。また、活動家はハンガリ―国境に近づくことを許されない禁止命令に直面する可能性がある。国境は2015年に移民が流入して以降、要塞(ようさい)化している。
オルバン首相は先月、国営ラジオに対し、ソロス氏から資金援助を受けている活動家の情報を政府が入手したことを明らかにした。
「ハンガリーを移民国家にしようとする人物の名前とその手法について、われわれにはお見通しだ。それ故、移民を国家安全保障の問題と見なす『ソロスを止めろ』法案を起草し、提出した」とオルバン首相は選挙前に語っていた。
一方、ソロス氏は、自身に対するハンガリー政府のこうしたキャンペーンについて、架空の外敵をつくり出すための「歪曲(わいきょく)とうそ」だとして一蹴している。
<強硬姿勢は強まるか>
開票率99%時点の選管発表によると、フィデスは定数199議席中3分の2を占める133議席を獲得。一方、極右政党「ヨッビク」は26議席、社会党は20議席を得たとみられる。
新たな法律の影響を受ける可能性がある一部NGOは、政府の姿勢が一段と強まると予想する。
「選挙活動中に与党が公約したことは実現すると思う」と、ハンガリーの人権団体「Hungarian Civil Liberties Union」のディレクター、Stefania Kapronczay氏は言う。「これは、ソロス系団体を止めることを目指す主要な公約だった。それが何を意味していようとも。3分の2の議席を獲得した今、彼らはそうすることが可能だし、実際にそうすることは間違いない」
「恐ろしいほど深刻だ」と同氏は語った。
国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルの司法担当責任者ミクロス・リゲティ氏は、フィデス広報のコメントについて、「選挙に勝利した熱狂のさなかに行われた政治宣言」だと当面は考えているとの見方を示した。
また同氏は、政府が今年初めにすでに公表した法案を提出するのであれば、欧州理事会のベニス委員会の意見を待つべきだと付け加えた。同委員会は、一括提案されている3つの法案の全てを精査するとしている。
ポスト共産主義のハンガリー首相として最長在任期間を記録しているオルバン氏は、EUのさらなる深化に反対しており、ポーランドと手を組んで、EUの政策を激しく批判している。
2010年に首相の座に就いてから、オルバン氏率いるハンガリー政府は、自国の改革を巡り欧州委員会と対立している。同改革については、民主主義のチェックアンドバランス機能を損ない、メディアの独立性を弱めているとの批判の声が上がっている。
オルバン首相が、同国を独裁主義の道に一段と向かわせており、その反移民姿勢が国内の外国人嫌いをかき立てているとの批判もある。
オルバン首相の再選を最初に祝福したのは、フランスの右派・国民戦線(FN)のルペン党首だった。
また、ポーランドの副外相は、オルバン首相の勝利について「中欧の解放政策の支持」を意味していると語った。
だがハンガリーの首都ブダペストでは、失望する人たちも見られた。同市に18カ所ある選挙区でフィデスが勝利したのはわずか6区だけだった。
「彼らはヘイト・キャンペーンに成功したと言える。人々の心に憎悪を植えつけたことは非常に悲しむべきことだ」と、品質管理の仕事をする45歳のベラズス・バンサギさんは語った。
(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
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