March 10, 2020 / 6:30 AM / a month ago

「天国は遠すぎて、中国は近すぎる」:新型肺炎蔓延下の中台関係(1)【中国問題グローバル研究所】


*15:28JST 「天国は遠すぎて、中国は近すぎる」:新型肺炎蔓延下の中台関係(1)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している台湾国防安全研究院非伝統的安全および軍事任務研究所の王 尊彦氏の考察を2回に渡ってお届けする。

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一、中台の近接性から生じた感染症防止の困難さ
旧暦では、2020年は鼠年(ねずみどし)にあたる。人類の歴史において、鼠は黒死病という疫病を引き起こして、多くの人命を奪った「前科」を持っている。恰も2020年もそのせいで悪い縁起を担うかのように、すでに多くの国を襲った新型肺炎(正式名は「2019新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患」、英文でCoronavirus Disease 2019, COVID-19)が発生している。2020年3月6日現在、新型肺炎は、世界全体の感染者数は10万145人に上る。中国の感染者数は80718人と最多で、中国以外では韓国が6593人と一番多く、日本は1094人で世界4位となる。

台湾では、3月6日台湾中央感染症指揮センター(新型肺炎対策本部に相当)の発表によると、台湾の感染者は45名で、死者1名となる。患者数対人口比で隣国の韓国や日本と比べれば、台湾の患者数が少ないと思える。現に外国のマスコミでも、台湾政府による新型肺炎の対応の良さが報道されている。[1]
ただし、防疫工作で成果を挙げたとはいえ、それはかえって「実際、台湾が中国の出来事から影響を受けやすい」という客観的な事実を見落とさせがちかもしれない。まず地理的に、台湾海峡の最短距離が130キロしかなく、その近接さは、中国と台湾(つまり台湾海峡の両岸)の間における頻繁な人的往来を可能にする。中国と台湾は、政府レベルでは政治的緊張が続くにもかかわらず、民間のインタラクションが絶えることなく、通婚、教育、宗教などの領域の交流が行われ続けてきた。台湾に定住している中国人配偶者は、34万人以上に達している。中国には、約200万人の台湾人居住者がおり、その多くが労働人口である。また、両岸間の貿易投資が盛んに行われ、経済面では台湾が中国に依存している。[2]こうして、台湾と中国は、有形にも無形にも近いため、いったん疫病が発生すれば、伝染経路が多い。台湾にとって、中国に起源する感染症の蔓延防止は、実に他国より困難なのである。

二、中国の「一つの中国」原則の影響
(一)台湾がWHOから排除される
さらに、台湾は国交のある国家が15カ国しかないが、非国交国とも積極的な民間交流を行なっているので、国際社会全体とは密接な関係にある。しかし、中国の圧力の下で、台湾の世界保健機関(WHO)への加盟が認められず、総会などの関連会議のオブザーバー参加さえ許されなく、WHOから情報も得られない。そのため、もし台湾に感染症が蔓延し、更に他国へ蔓延する可能性がある。そうなれば、台湾は世界の防疫ネットワークのミッシング・リンクになろう。

その意味で、台湾に世界の感染症に関する議論に参加する正当性がある。しかしながら、台湾は、官民ともにWHO加盟の意思を主張し続けてきたが、WHOから無視もされ続ける。今回の新型肺炎も、台湾はWHO秘書長のTedros Adhanom Ghebreyesusという親中的と見なされる人物の下で、WHOへのアクセスを完全に持たないでいるのである。なお、2月11-12日に行われたWHOの新型肺炎に関する研究会合には、台湾の専門家は、「台湾」でなく「台北」の呼称で、いちおうテレビ会議の形で「出席」したが、それがどれだけ実質的な意味があるかは疑わしい。[3]

(二)台湾が中国人嫌悪意識・行為の巻き添えになる
WHOとの関係に関して、台湾はWHOに加盟できないほかに、国際社会から不平等な処遇を受けている。例えば、WHOの「一つの中国」政策に依って、イタリア政府は今年1月31日に、中国、香港、マカオに加え、台湾からの入国も禁止した。2月1日、ベトナム政府も、台湾からの入国禁止を発表した。同月10日、フィリピン政府も「一つの中国」政策に基づき、11日以降フィリピン人またはフィリピンに永住権を持つ外国人を除いて、台湾からフィリピンの航空便に搭乗する外国人の入国を禁じる命令を発表した。

新型肺炎が台湾人にもたらした悪影響は、健康への脅威または旅行のような物理的な移動の不便だけではない。世界中に高まりつつある「中国嫌悪」の感情も、台湾人が直面せざるを得ない挑戦である。フランスの地方紙の「クーリエ・ピカール」(Courrier Picard)には、過去の「黄禍論」(yellow peril)とも連想させる「黄色いアラート」(alerte jaune)との表現が見出しに使われており、[4]「ウォール・ストリート・ジャーナル」(Wall Street Journal)のコラムには、“China Is the Real Sick Man of Asia”という差別的な含みをもったタイトルの文章が堂々と飾っている。[5]それに、差別は、マスコミの嘲笑から物理的な攻撃へとエスカレートし、例えばイタリアを観光中の中国人が地元の人に唾を吐き掛けた事件が起きた。[6]

こうした中で、台湾人も海外で中国人差別の巻き添えになった。例えば、ロシアの台湾人留学生が公的な場所で罵られたり、殴られたりする事件が発生した。[7]なお、こういった差別事件を受け、海外旅行をする際「私は中国人ではない」と周囲の人が分かるべく、自分の服やリュックや荷物に「I am from Taiwan.」と書いたバッジや貼り紙を付ける、と対策を練った台湾人も出でいる。


(『「天国は遠すぎて、中国は近すぎる」:新型肺炎蔓延下の中台関係(2)【中国問題グローバル研究所】』へ続く)
写真:ロイター/アフロ
※:中国問題グローバル研究所 grici.or.jp/


[1] 西岡千史、「新型コロナ“神対応”連発で支持率爆上げの台湾 IQ180の38歳天才大臣の対策に世界が注目」、AERAdot.、2020年2月29日、here。藤重太、「「日本とは大違い」台湾の新型コロナ対応が爆速である理由」、President Online、president.jp/articles/-/33332

[2] 台湾の輸出はGDPの6割を占める。その中で、対中輸出が輸出全体の4割を占める。

[3] 「WHO會議 我以Taipei名義參加」、『自由時報』、2020年2月11日、here

[4] “Coronavirus: French Asians hit back at racism with ‘I’m not a virus’,” BBC, January 29, 2020, here

[5] “China Is the Real Sick Man of Asia,” Wall Street Journal, February 3, 2020, here

[6] 黄雅詩、「義大利疫情引仇華暴力 台僑領建議小心少出門」、『中央社』、2020年2月26日、here

[7] Ching-Tse Cheng, “Taiwanese attacked in Russia as Asian-phobia ramps up,” Taiwan News, February 7,


《SI》

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