March 18, 2020 / 5:01 AM / in 17 days

危機管理について— COVID-19対応—、元統合幕僚長の岩崎氏「今は政府の指示や要望に従って粛々と行動すべき時期」


*13:56JST 危機管理について— COVID-19対応—、元統合幕僚長の岩崎氏「今は政府の指示や要望に従って粛々と行動すべき時期」
今回のCOVID-19対応に関して、様々な議論が巻き起こっている。特に、今回の政府の対応は如何?政府の対応は後手、後手ではないか?政府に危機感はあるのか?等々、所謂、危機管理論である。この様な議論はこれまでに数多くされてきているが、教訓として次回に生かされている事と、生かされていな事がある。

今回のCOVID-19は、病原菌のCorona Virusが原因と言われている。Corona Virusはこれまでも各種の菌が猛威を発揮したことがある。多くの人達が記憶にも新しい、SARSやMARSである。MARSは中東が発症源であり、SARSはCOVID-19と同じ中国であった。我が国でもSARSの被害は起こったが、規模的にはそれほど大きくはなかった。

1.危機管理の鉄則
さて、一般的な危機対応、危機管理に関して述べてみよう。一般的に危機と言っても千差万別であり、一概に言える事ではなく、事態によって対応も異なる。が、ここではまず、一般的な危機管理の鉄則を最初に述べる。

危機管理のマニュアルにはいろいろな表現はあるのもの、以下が基本的な対応策であろう。
a.指揮官先頭
b.情報収集・分析・評価
c.初動全力対応(先手必勝、Speed対応)
d.拡大防止
e.終息
f.AAR(After Action Review、次回への反省)

次に各項目について若干の説明を付け加える。

(a)指揮官先頭
組織の指揮官、即ち会社であれば社長やCEO、政府であれば総理大臣や各大臣、地方自治体では知事であり市長・町長である。

危機に際しては、この指揮官が先頭に立って危機へ立ち向かうことである。普段は、定常状態でいろいろな業務がなされるが、この時には必ずしも指揮官が前面に出る必要はなく、スタッフに任せていてもいいと思う。寧ろ任せた方が物事がスムーズに行く場合が多いように感じる。既に手順が出来ており、これに従って淡々と業務を進めればいいのである。

但し、一端、事が起これば、この手順が機能しなくなる可能性がある。この様な事態において、通常手段で切り抜けようとしても無理がある。非常時には、指揮官自らが前面に出て指揮を執る必要がある。

(b)情報収集・分析・評価
情報の収集や分析・評価の作業は普段からとても重要である。これを普段からやる事によって、何が普通と異なるかが認識できる。我が国の危機管理のトップは、当然のことながら総理大臣である。我が国の安全保障上の危機管理の最高機関は「安全保障会議」であった。これは、何かが起こった時にその都度開催されていた会議体である。私は、この形式だけで果たして十分だったのか疑問を持っていた。私が自衛隊の統合幕僚長に任命され、約1年後に第2次安倍内閣が誕生し、その後、約1年間の議論を経て、2012年末から「国家安全保障会議事務局(NSS)」が立ち上げられ、「国家安全保障会議(NSC)」が開催されるようになった。NSCには、外交防衛政策の司令塔としての「4大臣会合」と重要案件の審議が必要な「9大臣会合」、そして緊急時に開催される「緊急事態大臣会合」の3通りの会合が設けられている。この中で特に頻繁に開催されているのが「4大臣会合」であり、月に少なくても2回程度は開催されている。そして、この会議がない週でも統幕長は総理に近々の軍事情勢等を報告しており、ほぼ毎週総理に我が国周辺の安全保障に影響するような事象に関して情報が報告されている。即ち、総理は何が定常状態であり、今起きている事象が如何に大事なのか否かが即座に判断できるのである。

情報の重要性はここにあると考える。必要な時にだけ収集すればいいのではない。常時集めておくことが大切なのである。

しかし、非常時に「必要な情報が入ってくるか?」は疑問であり、寧ろ不明の部分が多いかもしれない。それでも、指揮官は決断を求められることになる。当に不十分な情報の中で決心し、組織のいく方向を決めるのが指揮官の最も重要な役割である。

(c)初動全力
何事も初動が肝心である。初動の誤りは、その後修正し難い。したがって、初動対応は極めて重要になる。危機管理は「まず最悪の想定」から始めるべきである。先ほど述べたように、情報量は限られており、また正確性に欠けるかもしれない。であれば、最悪の事態対応を心がけるべきである。誰しも、いい方向に行くことを望むが、我々が「願うこと」、「望こと」と緊急事態が進展していくことには関連性が全くない。常に最悪の事を想定し対応すべきである。

また、この際、対応の速度が重要である。私は、長年、パイロットとして戦闘機に搭乗してきた。緊急事態対応に関しては教官から、また諸先輩から耳にタコができるほど「First Action」の大切さを教育された。事が発生しているのに、無用な議論は避けるべきである。稚拙でも早急な対応が望まれる。

最近の天気予報等で感心な事がある。最近の集中豪雨やゲリラ豪雨等を受けて、「避難指示」や「避難勧告」の早目の発出傾向があり、このこと自体を報道が「寧ろ空振り」でもいいという傾向になってきている。一昔では考えられないような報道ぶりである。この「空振り」で大いに結構である。

(d)拡大防止
残念ながら、初動対応をしたにもかかわらず事態が進展した場合には、国家のあらゆる手段を駆使してでも、全力で拡大防止に努力すべきである。

(e)終息
事態が収束して行き、終息宣言をいつの時点でするかは、慎重に事態を見極める必要がある。安全宣言を早く行い、人心の平静・安定を取り戻させたいとの考えはよく理解できるものの、迂闊な終息宣言は、かえって国民の心を乱すものであり慎重な判断が求められる。

(f)AAR
事態が完全に終息したのち、可能な限り早期に、今回の事態対応の反省事項や教訓等を出す必要がある。当然、中には単純に出せない評価もあろうが、「喉もと過ぎて云々」にならないようにしないといけない。「SARSの反省は?」、「3.11の教訓は?」、「台風19号・25号は?」等々の貴重な教訓を次回に生かすために熱いうちに反省議論し、法体系改正の是非や体制・態勢の在り方、初動対応の在り方等々を見直す必要がある。

2.今回のCOVID-19対応
現時点において、我が国政府は必死の対応をしている最中であり、迂闊な評価はすべきではない。今は、政府の指示や要望に従って粛々と行動すべき時期である。

(a)初動対応
今回の政府の初動に関する批判が、時々報道されるが、そもそもの原因は、大きく上げれば2点である。

1つ目は、中国の対応にかなりまずい面があったことである。当初、中国は「情報を隠していた」し、その後の情報も「小出し」、また「正確性に欠ける」ものであった。この事からWHOも各国も対応を誤っていた可能性がある。

2つ目は、WHOも我が国の所謂専門家も事態を「過小評価」していたことである。WHOのグテーレス事務局長は1月22日には「現時点で緊急事態に当たらない」、同月28日「(武漢封鎖の)政治的決意に敬服する」(グテーレス国連事務総長も同じ趣旨の発言)、同月31日「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言。その後、WHOは漸くして2月10日、国際調査団を武漢に派遣し、翌日「他の国で広範に伝搬されている可能性がある」と発表したのである。この混乱も中国の徹底した(?)情報管理が原因である。

そして、我が国の所謂専門家もこの様な情報に基づき、「今回のCOVID-19はインフルエンザよりも致死率が低いから、それほど過敏にならなくてもいい」、「対応は普通のインフルエンザ並みで十分」と甘い見通しをしていた。この様な認識が初動の混乱を招いたものと考えている。

この甘い見方は、私には大変不思議であった。何故ならCOVID-19は新型であり、これまでのウィルスと異なる訳であり、それなのに「致死率が低い」と判断できるのだろうか。先に述べたとおり、私達の願望と事態進展は全く関係ない。事実をありのままに見て対応することが危機管理の常道となる。

今回の我が国の対応は、初動でこの様な一部の混乱があったものの、武漢からの邦人輸送(救出)も早期に判断、中国と交渉して実行した。ダイヤモンドプリンセス号に関しての批判はあるものの、この船の船籍は英国であり、米国の船会社が運営している事等、かなり複雑な状況であった。いずれにしても、航空機や船の絶大なる権限は、機長や船長・艦長が保有している。機長は違法な行為をする乗客を拘束し、ほかの乗客がどう考えようが機長判断で目的地さえ変更可能である。船も同じである。港の当事国がいろいろな申し出をしても、船長や艦長が納得しないとできない。今回の船内での対応がどのようなものであったかは、そのうち明らかになるであろうが、我が国の対応に限界があったことは事実である。同じような事は米国でも起こっている。

この様な中、総理が前面に出て事態拡大のための「基本指針」を国民に向け発出した。大変な英断である。今、我々にできることは、この指針に基づき、少しの間我慢し、行動することである。(令和2.3.18)

岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

写真:Natsuki Sakai/アフロ


《SI》

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