May 7, 2020 / 1:26 AM / 3 months ago

元統合幕僚長の岩崎氏、「香港・台湾が危ない、中国に対する警戒を強めよ!」


*10:23JST 元統合幕僚長の岩崎氏、「香港・台湾が危ない、中国に対する警戒を強めよ!」
現在、新型コロナウイルス(COVID-19)で全世界が大変な事態になっている。起源は必ずしも明確ではないものの、昨年11月から12月にかけて、中国武漢市周辺から広まったことは事実であろう。当初の中国の報道が全く改竄された数値であり、世界保健機関(WHO)も中国の報道をリピートするだけで各国とも油断しており、結果的にパンデミックとなってしまった。今回のウイルスの特徴は、感染して発症していない無症状の期間でも感染能力がある事である。この事が爆発的な感染拡大を起こしている。当初は中国本土で、次に一帯一路等の影響も大きいイタリアで、そして米国で爆発的な感染拡大を果たし、その後ほぼ全世界に広がった。

感染源である当の中国は、武漢市を封鎖する一方、感染者拡大防止に努めていた2月から3月に最新鋭駆逐艦を含む艦隊をハワイ周辺まで遊弋させ、4月初旬に中国海警局公船がベトナム沖でベトナムの漁船に衝突して沈没させ、投げ出された漁業従事者を救助もしないで逃走した。そして、4月中旬に南シナ海で新しい行政区を発足させたことを公表した。西沙区(パラセル地区)と南沙区(スプラトリー地区)である。2012年に南シナ海で新たに三沙市を立ち上げ、西沙地区のウッデイー島に市役所を開設していた経緯もあり、西沙区、南沙区、中沙区(比のスカボロー環礁等を含む地域)が完成する事となった。1980年代末に出された海洋戦略構想を着々と進めている(この海洋戦略の中で例の第1、第2列島線なる概念が出ている)。

当に、中国周辺国のアセアン諸国、日本、米国等がCOVID-19対応に専念している時に、自国の中長期戦略に基づいて自国の権益を拡張中だ。この様な活動の中、またまたビックリする様な事態が報道されている。

1つは、香港に関することである。中国は昨年の6月以降、香港に対する影響力を日増しに増加させており、「一国二制度」とは名ばかりで、実質的に中国政府の施政下の一地域となりつつある。中国は予てから、「三戦」と唱えている。この「三戦」とは、「世論戦・法律戦・心理戦」である。特に平時においては、この戦法で相手をやり込め、自国権益を拡張する考えだ。当然のことながら、自国内でも同じである。昨年、香港に「逃犯条例」(犯罪人を中国に引き渡すことが可能となる条例)の改正を強要した。中国から逃走してきた政治犯や思想犯、民主・人権活動家等を中国公安当局に引き渡すことを規定した条例であり、中国本土と同様に取り締まる事が可能である。また、現在は中国本土のみで有効な「国家安全法」の香港に対する適応を検討中との報道がなされている。そして、今回のCOVID-19対応に当たり、香港当局は3月29日に「集会禁止令」を出し、4人以上の集会を禁止した。これは、感染防止の観点よりも、寧ろ香港当局や中国共産党に対するデモ等を封じる意味合いが強い指示である。これに基づいてだろうか、4月18日には香港民主党設立メンバー15名を逮捕している。さらに、4月21日には香港基本法(憲法に相当)の新解釈を出し、中国政府の香港当局に対する介入を正当化した。本格的な香港支配準備がなされている。

もう一方は台湾に関することである。昨年1月2日、習近平は台湾に対し、「一国二制度」を呼びかけた。まだ香港が混乱に陥る前であり、台湾では統一地方選で国民党が大躍進し、蔡英文率いる民進党が惨敗した直後であり、この呼びかけを肯定的に受け取る台湾国民も少なくなかった。昨年11月の総統選においても、与党である民進党は明らかに不利な状況が予想されていた。しかし、昨年6月以降、香港が大騒動となってきてからは、台湾では徐々に「一国二制度」に対する警戒感が台頭し、蔡英文総統が大勝、再選された。この様な中で、COVID-19騒動が起きたのである。そして当に各国の国内対応が佳境になっている時期に信じられない様な事が報じられているのである。国家安全教育日である4月15日、「人民前線」(中国東部戦区の公式アカウント)に『幻想を捨て、戦闘を準備せよ!』とのメッセージが掲載された。これは毛沢東が使った言葉である『幻想を捨て、戦争を準備せよ!』を真似たものであろう。かつて毛沢東は「我々は平和を愛する。平和を求める闘争は生き延びるために必要であり、妥協では平和は得られず、死ぬだけである。」との趣旨の言葉を残している。安全教育日である事から、軍は常に戦闘を忘れてはならないとの戒めだけの為に載せたのであろうか?私は、そうは思わない。所謂、我々が時々口にする「常在戦場」的な事ではなく、米中の経済戦争および覇権争いも間近に迫っている警鐘と見た方が趣旨に近いと考えている。そして、続けざまに同日付けで、中国国務院台湾弁公室が公式サイトにおいて「台湾統一は何時開始すべきか?」と題する論文を公表した。これは、単なる偶然であろうか?私は長年中国を見ていて、中国を極めて現実的な国である、と思っている。前述の第1・第2列島線に関しても同様である。1992領海法発布の時、20年後までには第1列島線の西側、所謂東シナ海・南シナ海を中国政府が「管轄(control)」する、と公表した。1990年代当初では中国海軍はもちろん、空軍とても大陸から離れて航海・航行できるような能力を全く持っていなかった時期だ。ましてや第2列島線(東京-硫黄島-グアム)の西側の海域を50年後(2040年)までに「管轄」するとしていたのである。中国は、こちら側が何かに夢中になっている時、又はそのことに関心が薄い(所謂、「空白」)時に、一挙に占領し、既成事実を作り、そこに居座り、恰も数百年前から自国のものだったような振る舞いをする国であることを忘れてはいけない。各国がCOVID-19対応に忙殺されている時に、香港・台湾を支配下に入れようとしているのである。

この様な中国の動きに米国は、トランプ大統領に代わって以降、台湾関係法を昨年までに根全面的に見直し、台湾に対する武器供与が可能となった。昨年にはF-16VやM1A戦車の供与を決定している。また、台湾同盟国際保護強化法(台北法)も今年3月に成立させ、台湾に対する関与が出来る体制を強化した。しかし、ここに来て、特に米海軍に不安材料が出てきている。空母セオドル・ルーズベルトから始まり、11隻中4隻の空母がCOVID-19の感染者を出している。特に空母ルーズベルトは多くの隊員が感染、グアムに停泊中で任務が出来ない状況に陥っている。米海軍はこれまで「航行の自由作戦(FON)」を南シナ海等で行ってきているが、この様な作戦に影響が出てくることが心配される(4月の海軍ニュースでは強襲揚陸艦と巡洋艦の真奈美シナ海でのFONが報道されていたが、強襲揚陸艦の黄色い錆が目立っていた)。

米国はCOVID-19において世界最大の感染者数と死者数を出している。今後、経済が大混乱を起こすことを考えれば、米国だけではFONや抑止行動に限界があろう。我が国や豪州、英・仏の欧州国家等との連携・協力が必要と考える。我が国も、特に東シナ海・南シナ海でのFONや警戒監視を積極的に行い、決して隙を見せない様にすべきだろう。

また、私は、この際、我が国はこれまでの台湾政策・方針を見直すべきと考えている。我が国は、他の多くの国と同じように「一つの中国」政策を支持していることから、台湾と公式な国交がない。戦後間もない1952年、我が国は台湾との間で「日華平和条約」締結を締結し、台湾(中華民国)との国交を樹立した。ところが、1972年9月29日の「日中共同声明」により中国(中華人民共和国)政府を「中国の唯一の合法政府」と承認し、中国との国交を樹立、台湾と国交を断絶した。しかし、国交がなくなっても民間レベルでの関係を維持するため、日本側は「日本台湾交流協会」、台湾側は「台湾日本関係協会(台北駐日経済文化代表處)」を設立し、現在に至っている。双方の機関は民間交流のみならず、実質的な大使館・領事館に相当する役割を果たして来ている。日台間の民間交流は結構活発に行われており、台湾から日本へは年間約450万人が旅行等で訪問しており、日本から台湾を訪問する人数は昨年200万人を超えた。台湾の全人口は2300万人である。約1/5の台湾人が日本を訪問しており、台湾にとって日本は大好きな国No.1である。我が国は「一つの中国」を認めつつも、安倍政権は「台湾は価値観を共有できる重要な隣人」との認識を表明している。この台湾は、我が国にとって重要な戦略的要衝である。仮に台湾が中国の支配下になると、東シナ海、南シナ海は中国の思い通りの内海化されてしまう。特に南シナ海は重要である。東シナ海は比較的水深が浅く、潜水艦の隠密行動に必ずしも適していないが、南シナ海は適度な深度を保つことが可能で、南シナ海に潜水艦を潜ませれば探知が困難であり、中国にとって恰好の要塞となる場所である。また、我が国のエネルギーの運搬経路はご承知の通り、インド洋~マラッカ海峡~南シナ海~バシー海峡~西太平洋~日本各地の港である。南シナ海が中国の内海となり、もしここが中国により封鎖されれば、我が国のエネルギー供給は危機に瀕する。仮に南シナ海を封鎖されれば、我が国へのタンカーは遠回りを余儀なくされ、輸送期間が2週間ほど長くなり、25%程度経費が嵩むと言われている。

我が国が習近平を国賓招待するとの件もあるが、前述の中国の好き勝手な行動や言動を考慮すれば、我が国の台湾政策を方向転換させることが急務と考える。政治家の交流、政府関係者の交流、台湾軍と自衛隊の人的交流や情報交換、サイバー交流、協同訓練・演習等、出来る事から始めるべきである。またこの際、米国や米軍との連携を重視すべきであろう。(令和2.5.7)

岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。


《SI》

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