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トルコにみる集団防衛の内なる課題【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】


*16:22JST トルコにみる集団防衛の内なる課題【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
トルコのエルドアン大統領が、黒海の排他的経済水域内のTUNA-1区域で大規模な天然ガス田を発見したことを公表したのは、8月21日のことだった。トルコ大統領府の発表によれば、予想されるガス田の規模は約3,200億立方メートルと、これまでトルコが発見した中で最大であり、すでに必要な調査や分析などが完了して「サカルヤガス田」と改名された。ガス田から得られたデータは、同じ地域に別のガス田が存在する可能性を示しており、大統領は強い期待を寄せている。

国際エネルギー機関(International Energy Agency: IEA)のデータによれば、トルコの2019年のエネルギー供給量は146.7Mtoeとなっており、その内訳では石油(43.0Mtoe)が最も多く、石炭(41.9Mtoe)、天然ガス(37.0Mtoe)がそれに続く。独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が2015年に発表したレポートでは、トルコの石炭埋蔵量の96%が発熱量の少ない低品位炭となっていることを考慮すれば、供給量全体の4分の1を占める天然ガスの重要性はさらに高まる。

トルコのエネルギー市場規制庁が今年発表した天然ガス市場に関する報告書によると、2019年のトルコにおける天然ガス消費量は521億立方メートルとなっており、今回発見されたガス田の埋蔵量は6年分に相当する規模だ。確認された埋蔵量は、発見当初に予想されていた推定埋蔵量8,000億立方メートルの40%程度とはなったが、2019年のエネルギー輸入量が105.6Mtoeと供給量の72%を輸入に頼っているトルコにとって大きな資源になることは間違いない。

しかし、サカルヤガス田はブルガリアやルーマニアとのEEZ境界線付近に位置し、OMVペトロムとエクソンモービルが8年前に発見し開発したルーマニアの天然ガス田があるネプチューン区域との近さから、開発に関連する係争が懸念されている。実際、東地中海ではトルコのガス田探査をめぐってギリシャやキプロスと対立を深め、偶発的な軍事衝突を回避するべく北大西洋条約機構(NATO)が協議の仲介に乗り出した。

トルコとギリシャはともにNATOの加盟国であり、安全保障上のパートナーであると同時にキプロスをめぐる対立国でもある。地中海の要衝に位置するキプロスには、その帰属や独立をめぐってイギリス、トルコ、ギリシャが対立や協議を繰り返した経緯がある。イギリスの植民地であったキプロスは、イギリス連邦に属する形で1960年8月に「キプロス共和国」として独立するが、国内ではトルコ系住民とギリシャ系住民との対立を抱えていた。

独立前から、それぞれの武装組織によるテロ活動が発生していたが、1963年の憲法改正をきっかけに内戦状態となり、国連平和維持軍が派遣される事態となった。1974年にはギリシャが関与する軍事クーデターが発生し、トルコ系住民を保護する名目でトルコ軍が介入してキプロス北部を占領する事態となった。トルコ軍の占領地域には南部からトルコ系住民が移住する一方でギリシャ系住民が南部に脱出し、北部地域において大多数となったトルコ系住民は、1975年に「キプロス連邦トルコ人共和国」を結成して連邦制への移行を要求した。国際連合の仲介もあったものの交渉は妥結せず、北部地域は1983年に「北キプロス・トルコ共和国」として独立を宣言したが、承認はトルコのみにとどまっている。

安全保障は国家の最も重要な課題の1つである。冷戦が始まったばかりの1952年に、同時にNATOに加盟したギリシャとトルコは、自国の安全保障政策として同じ集団防衛体制を選択したはずである。それにも拘わらず、エネルギー資源の開発や戦略的な重要地域への影響力をめぐっては、軍事力の使用も辞さない強い姿勢で国益を追求している。集団防衛の本質が、自国の不足する安全保障上の能力の補完にあるとすれば、その体制を損なう可能性がある行動は抑制されるはずだと考えられるが、トルコを取り巻く情勢はこれを否定している。NATOはこれまで体制の外側の課題に対処してきたが、体制内の課題の比重が大きくなってきているのかもしれない。

サンタフェ総研上席研究員 米内 修 防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2020年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。


《RS》

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