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元統合幕僚長の岩崎氏が考える、いま我が国が真っ先にしないといけない事


*13:57JST 元統合幕僚長の岩崎氏が考える、いま我が国が真っ先にしないといけない事
米国バイデン政権が始動した。残念なことに大統領就任式は、約2万人を越える州兵に守られながらの式典である。今回の政権移行は、通常と大きく異なるものでもあった。バイデン候補が新大統領として認められた時期がかなり遅く、そこから新政権の人事等が本格的に開始されたためだ。そして、未だに決定されていない要職もある。現在は議会手続が行われている最中である。バイデン新大統領はまた、トランプ政権の残した負の遺産の処理にも追われている。既に40万人以上の死者を出しているコロナ対策は喫緊の課題であり、対中政策の方向性、露との新STARTII(次なる新START)交渉、崩れかかった同盟国との関係修復などだ。バイデン新大統領はこれまでに「パリ協定」への復帰、WHO(世界保健機関)からの脱退取り止め、メキシコ国境の壁の建設停止、イスラム諸国からの入国禁止解除、連邦施設でのマスク着用に関して、大統領令や指示を出している。

我が国では昨年、突然の安倍総理の辞任を受け、菅政権が成立している。発足当初は菅総理や政権への支持率がかなり高かったものの、11都府県に対する再度の緊急事態宣言等から、政府に対する支持率が急落、調査元によっては支持・不支持率が逆転する事態にもなっており、必ずしも安定的な運営とは言い難い状況である。

各国ともコロナ禍で、経済がかつてない程に低迷し、失業率も大きく上昇、今後の先行きが不透明になっている。各国ともコロナ対策に莫大な予算を投じているが、殆どが借金である。今のところ破綻する国は出ていないものの、今後、国際社会が大混乱に陥る可能性が否定できない状態である。この様な状況下、中・大国で唯一中国だけは昨年のGDPがプラス成長となった(2019年の対前年6%増よりは遥かに低いものの、対前年2.3%増とプラスを維持)。このウイルスが検知されて以降、その中国は国内外のマスクを集め始めた。我が国も中国が大変だろうという思いから、無償で100万枚を超えるマスクを提供している。一方で昨年3月以降、中国はコロナ禍で喘いでいる国々に対し無償でマスクを配布し、当該国に対して恩を売る所謂マスク外交を展開した。欧州の各国元首が中国に対する感謝を述べ、マスク到着時に中国国歌で迎える地域もあったほどである。

この中国においても、トランプ大統領には恐れをなしていたものの、今回の政権交代を見逃すはずはない。米国はコロナ禍での大統領選挙であり、必ずしも東アジア情勢に神経を集中できる環境でなかった。その中で我が国も政権交代が起こった。

中国は昨年4月、南シナ海に行政区を発出した。中国は、これまで「台湾は中国の核心的利益」と言い続けている。その台湾周辺において、昨年から急激に中国の異常とも言える活動が観測されている。昨年3月には、中国漁船が台湾巡視船に衝突し、中国の作業船が金門島や馬祖列島周辺で採砂活動を行い、そして中国海軍・空軍の活動の活発化も観測されている。今年に入り、台湾海峡の台湾と中国の中間線を越えての飛行が大々的に繰り広げられた。これまでも、台湾の蔡英文総統が米陸軍高官とハワイで会談を行った際や米国の国務次官が訪台した際など、過去中国軍機が台中中間線を越えて飛行する事態が起こった。これまでは数機であったが、今回は1月23日及び24日に其々10機を越える航空機(戦闘機、爆撃機、対潜哨戒機等)が台湾の防空識別圏内を飛行した。米国のバイデン大統領の就任式に、駐米台湾代表の蕭美琴(シャオ・メイ・チン)が公式招待された事と関係あるか否かは不明である。これに対し米国は即座に反応し、プライス報道官が中国の台湾に対する威嚇に対して懸念を示すとともに「台湾に対する軍事的、外交的、経済的な圧力を停止する」事を求める声明を出している。

習近平は2012年に中国共産党中央委員会書記になり、翌年に中国国家主席となった。主席の任期は規則で「2期10年」とされていたところ、2018年の全人代(全国人民代表大会:各国の国会に相当)でこの規制を撤廃することを決め、憲法を改正した。つまり、彼は、当初の期限である2023年以降も国家主席の席に居座る事、謂わば永年勤務が可能となっている。習近平政権は一見、盤石な様に見える。しかし、習近平は果たして、2023年以降も国家主席の椅子に留まれるのだろうか。彼は、これまで腐敗根絶を主張し、「ハエも虎も」退治してきた。つまり、次期主席候補を次々と逮捕し、転落させてきている。中国共産党幹部で清廉潔白な幹部はいるのだろうか。習近平以外は皆、いつ追及の手が自分に向かうのかビクビクしているのではないだろうか。そして多くの共産党幹部は、国家主席の席を目指し弛まない努力をしてきている事だろう。その席に就きたがっている幹部は多かれ少なかれいる筈である。習近平が長く居座れば、年齢的に機を逸する人も出てくる。この様なことから、私は習近平体制を必ずしも一枚岩ではないと判断している。習近平が2023年以降も国家主席の席にとどまるには、中国共産党幹部や全人代の多くの代表を納得させる成果が必要であろう。南シナ海の聖域化はその一つである。また、香港然り。次は台湾である。ここを支配下に置くことが出来れば、中国共産党の長年の夢が叶うことになる。中国の多くの人達はもろ手を挙げて習近平を評価するであろう。

習近平の次なるターゲットは台湾である。台湾有事を考えれば、台湾と中国のみの戦い、即ち台湾海峡周辺のみが戦闘地域になるとは考え難い。中国があらゆる方向から台湾を攻めるであろう事を考えれば、南シナ海、東シナ海、西太平洋も戦闘地域になる事が想定し得る。隣国である我が国は必ず巻き込まれる。ましてや、前述した中国の核心的利益には、我が国の尖閣列島も含まれている。当然、彼らが台湾を力ずくで奪取しようとすることを決心すれば、尖閣列島も一緒にと思うはずである。我が国は米国とともに、早急にこの事態に備える必要があると考えている。

米新政権発足直後の1月24日、岸防衛大臣とオースチン新国防長官との電話会談が行われた。オースチン氏は1月22日に就任したばかりである。日米の最初の閣僚同士の会談である。報道によれば、「両氏は、我が国が提唱する自由で開かれたインド・太平洋構想を維持強化する為、日米が基軸となり関係国との協力を強めることを確認した」との事である。そして、両氏間で「日米安保条約第5条が我が国の尖閣列島に適用されること」も確認している。大変素晴らしい事である。但し、前回も指摘したとおり、この安保第5条の条文は以下のとおりである。

「締約国は、”日本の施政下にある領域における”、いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、”自国の憲法上の既定及び手続に従って”共通の危険に対処するように行動する事を宣言する(”は筆者)」

この条文はいくつかの条件により成り立っているのである。即ち、米国が我が国を防衛するためには、(1)先ずは、”当該地が我が国の施政下にある事”である。(2)この武力攻撃事態が双方の平和と安全を危うくするものである事、そして(3)”自国の憲法上の既定、手続き”により対処するとされている。ある当該地が我が国の施政下にあるか否かは、我が国の主張のみでは認められない。国際的な認知が必要である。現に不法に占拠されている北方領土や竹島に、この条文が適用可能か否かは不明である。これらの地域が、国際的にも明確に我が国の施政下にあるとは言い難いからである。今回は、尖閣諸島に関して安保5条の適用範囲とされたが、飽く迄も現在の何も起こっていない時点(平時)の判断である。この判断は、条約締結国としてごく当たり前のことである。仮に、我が国の施政下にある領域が某国の侵略を受けた場合には、同盟国である米国は、米国憲法に基づき手続きを行うことになる。議会で否定される事もあり得る。議会で否決されない為には、不断の信頼醸成努力が必要である。我が国が米国の安定と繁栄に不可欠であることを認識させておく努力が必要なのである。そこで、私は以下の点を提案したい。

(a)今回の両国の防衛大臣同士の認識が一致している事を受け、事態に備えた計画を早急に策定し、その計画に従った演習訓練を繰り返し、問題点があれば計画を補備・修正し最新のものにしておくべきである。

(b)日米間にはトランプ大統領時代からの、在日米軍の駐留経費負担、所謂「思いやり予算」問題がある。本来であれば、この予算は、昨年末までに決着し、2021年度から新たに次の5年間の経費負担を決めることになっていた。ただ、これ以上の経費負担増は名目上困難との考えもあり、また、次期大統領を見据えて交渉を進めようとの考えもあり、進展していなかった。取り敢えず2021年度の1年分を決め、1年かけて議論することとしているが、私は、この経費を、これまでの様な我が国の負担項目のみならず、日米の信頼性向上の為の予算とすべきと考えている。日米安保は片務的であり不平等である、と度々、米国から指摘される。我が国は2015年の平和安全法制で、これまで憲法上出来ないと考えていた集団的自衛権に関し、安倍前総理の強いリーダーシップにより部分的解除を行った。これにより米軍の警護が可能となっている。私は、片務性の解消努力は今後も継続すべきと考えているが、全ての面で双務になるとは考えていない。夫婦関係と似ていると考えている。其々の特異な分野で双方に貢献できればいいのである。どこの国も米国と同じことは出来ない。米国も単独で全てが出来るとは思っていない。同盟国が必要なのである。

我が国が在日米軍経費を、これまでより増額することは、明らかに米軍にとって、米国にとって利益になる。例えば、新分野と言われる「宇サ電」での日米協力に我が国がこれまで以上に大きな貢献をすることも一案である。宇宙に関しては、日米でコンステレーション構想を進める事が確認されている。サイバー分野での更なる協力も必要である。電磁波然りである。

今回のコロナウイルスは我々にいろいろな警鐘を鳴らしている。既成概念に捉われず、明日の安定・繁栄の為には弛まぬ努力が必要である。(令和3.2.2)

岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

写真:Motoo Naka/アフロ


《RS》

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