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仏原子力潜水艦の南シナ海航行が意味するもの【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】


*13:55JST 仏原子力潜水艦の南シナ海航行が意味するもの【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
2月8日夜、フランスのパルリ国防大臣はフランス海軍攻撃型原子力潜水艦と支援船が南シナ海を巡回したことを明らかにした。隠密行動が原則である潜水艦の行動海域を明らかにするのは極めて異例である。フランスは2019年5月に唯一保有している空母「シャルル・ド・ゴール」をインド洋に派遣しているが、今年も派遣すると公表している。フランスがこのようにインド太平洋方面に兵力を展開する背景及びその意図について分析する。

今回南シナ海を航行したフランス海軍原子力潜水艦は「S604 エムロッド」である。1988年に就役した、リュビ級原子力潜水艦の4番艦であり、排水量は2,385トンと世界最小の原子力潜水艦である。ちなみに海上自衛隊の「そうりゅう」級潜水艦は基準排水量2,950トンであり、「そうりゅう」の方が一回り大きい。搭載している攻撃兵器は、魚雷、機雷及び対艦ミサイル(エグゾゼ)である。

パルリ国防大臣は今回の行動目的について3点挙げている。一つ目は海域に対する習熟、二つ目は国連海洋法条約に基づく自由航行の原則を示すことである。三つ目は、フランスは、200万人のフランス人が居住し、900万キロ平方メートルの排他的経済水域を持つインド太平洋国家であり、これらの国家権益を守る必要があるという点である。最後の点はあまり認知されていないが、フランスはインド太平洋に海外県、海外準県、特別共同体を保有しており、住民はフランス国籍を有する。仏領ポリネシアやニューカレドニア、マダガスカル周辺に所在するレユニオンにはフリゲート艦、合計4隻が配備されている。

エムロッドは昨年11月9日にオーストラリアのパースに入港した。その後、11月30日に米国グアムのアプラ港に入港し、そして12月15日から17日までの間、沖ノ鳥島沖で日米仏共同訓練を行ったことが伝えられている。パルリ国防大臣の発言に前後して、インドネシア海軍は、2月8日に同艦とスンダ海峡で共同訓練を行ったと公表した。日米仏共同訓練から1か月半もの間、南シナ海を行動したとは考えられないことから、もう一度グアムに入港していた可能性もある。南シナ海における行動は、1月中旬から2月初旬までの間と思われる。

中国の強い反発が予想されるとも報道されたが、中国当局は沈黙を守っている。エムロッドの南シナ海における活動を一切確認できなかったことから、コメントを出しづらいのであろう。エムロッドは、今後インド太平洋に展開予定の空母「シャルル・ド・ゴール」と行動を共にするのではと観測されている。

フランスがインド太平洋に保有する地域を防護する目的であれば、空母の派遣はうなずけるところであるが、原子力潜水艦を、あえて中国が神経を尖らせている南シナ海で航行させた点には疑問が残る。南シナ海周辺にフランスの海外県等は存在しない。インド太平洋という地域がクローズアップされ、日米を中心とした海洋安全保障の枠組み構築が進み始めたと認識し、フランスもインド太平洋に大きな権益がある事をアピールする目的があったものと考えられる。

原子力潜水艦をインド太平洋に展開したもう一つの背景としては、装備輸出先に対するアピールもあろう。エムロッドが南シナ海で行動し、フランス製潜水艦の優秀さを東南アジア諸国に見せたわけである。フランスは装備の海外移転を積極的に進めている。南シナ海において活発に行動する中国海軍艦艇へのけん制として、潜水艦の導入を進めている国も少なくなく、フランスが戦闘機及び潜水艦の売り込みを積極的に行っているようである。オーストラリアはフランス製「アタック」級潜水艦を12隻購入予定であり、マレーシアはフランス製「スコルペン」級潜水艦2隻を保有している。インドネシアは韓国から戦闘機と潜水艦を導入中であるが、その性能に満足していないのではとの観測も流れている。フィリピンも潜水艦の導入について検討しており、フランス製も候補に挙がっているとの報道もある。シンガポールはスウェーデンから、ベトナムはロシアから、タイは中国からそれぞれ潜水艦を導入又は導入を計画している。

オーストラリアの報道官は、「2035年までにインド太平洋地域は、世界の潜水艦の約半数が活動する海域となる」との見通しを示している。防衛省も年一回を標準として行っている「艦艇によるインド太平洋行動」時、南シナ海において、実際の潜水艦を相手に、対潜訓練を実施している。今後南シナ海は、各国潜水艦の活動が活発化する海域となることは必至である。潜水艦の最大の特徴は、海中を航行している際には見つけることが極めて困難という点にある。

これは逆に潜水艦にとっても周囲が確認しづらいことも意味する。2月8日、海上自衛隊の潜水艦「そうりゅう」が浮上時に貨物船と衝突するという不幸な事故が生起したが、同じような事故が南シナ海で起こる可能性は否定できない。さらには、行動中の潜水艦が事故で沈没する可能性もある。南シナ海を含むインド太平洋地域で活動する潜水艦の行動に関するルール作りや、潜水艦救難のための国際的な枠組み作りが喫緊の課題と言えよう。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。


《RS》

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