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元統合幕僚長の岩崎氏が考える、日・米・豪・印クワッド首脳会談の意義


*11:52JST 元統合幕僚長の岩崎氏が考える、日・米・豪・印クワッド首脳会談の意義
 

2021年1月20日、州兵にガードされた厳戒態勢の中で米国新大統領の就任式が行われた。民主主義の筆頭の国として自負する米国で、通常の警察でない州兵に警護されながらの就任式を誰が予想していたのだろうか。全くの予想外の事態が未だに、あの米国で続いている。その米国が、昨年11月の大統領選挙後から、対中警戒を露わにし、中国への警告とも取れる方針を何度も発信してきていた。バイデン大統領の就任後は、この態度がより明確化している。インド太平洋地域の繁栄と安定に、米国がこれまで以上に関与する方針なのだろう。我が国との関係も、バイデン大統領が「尖閣事態は日米安保条約の五条適用範囲」と菅総理との電話会談で伝えたとの事であり、その後もブリンケン米国国務長官からも同じ内容が発信された。

この様な中で3月12日、日本・米国・オーストラリア・インドの首脳による所謂「クワッド(4)」会議がオンラインで行われた。これまで外相等によるクワッド会議は行われてきたが、クワッド首脳会議は初めてである。日本は、台頭する中国の危険性に関して、米国のみならず全世界に対して、これまで何度となく情報を発信し、安倍前総理の主導で策定された「インド太平洋構想」を主張してきた。同盟国の米国は、このことを理解しつつあったものの、トランプ前大統領は二国間関係を重視し、米中関係のみに限定して解決する方法を取った。政策に完璧は無い。このトランプ前大統領の取った政策も正解だったと思うし、その政策に依る効果も高かったと考えている。しかし、やや陰りのある米国の国力からすれば、米国の同盟国の持つ力を使った方がより効果的だったとも思われる。

バイデン大統領は、就任前から同盟国との協力関係を再構築することを明言していた。私は、この様な米国の考え方と、最近のエスカレートする中国の一方的現状変更に危機感を感じていた周辺各国との思惑が一致し、今回のクワッド首脳会議となったと考えている。我が国は今世紀に入り、中国の台頭を問題視していた。オーストラリアは昨年以降、中国から理不尽極まりない輸出規制を受けている。そしてインドも同じく、昨年から国境周辺で小競り合いが続いている。

一方、中国の最近の行動は、当に一方的な現状変更を絵に描いたごとくだ。南シナ海での勝手な行動はご承知のとおりである。遂に昨年4月には、この南シナ海に行政区を発令し、「九段線の内側は国内」と言わんばかりの違法な行動に出ている。最近の中国政府の香港締め付けにより、香港の一国二制度など何処かに吹っ飛び、ほぼ中国の一部になった様なものである。今年の全人代では、これをより完璧にするため、香港に対する新しい選挙制度を決定している。

また、気に入らない国には経済制裁を簡単に発令する。我が国もかつて尖閣列島周辺で、我が国の海上保安庁の巡視船に中国漁船が故意に体当たりをした際、中国漁船の船長・船員を逮捕した直後に、中国がレア・アースを売らないと我が国に通知してきた経験がある。オーストラリアも同じような被害国である。最近では、台湾産のパイナップルを輸入しないとの制裁を課す等、傍若無人な振舞いだ。そして、中国は今年の2月1日から中国海警局に所属する艦船の武器使用権限を定めた「新海警法」を施行した。

この様な状況の中で、今回のクワッドの初会合では、(1)民主的価値観の共有、(2)新型コロナウイルス(Covid-19)対応及び中長期的な観点からの気候変動対応への協力、(3)インド・太平洋地域の安定平和と繁栄、(4)ASEAN諸国や南太平洋地域との連携等に関して、この四カ国が主導して進めていく事が宣言された。明らかな対中警戒感の現れである。

タイミング的に大変効果的な会議・宣言であった。バイデン大統領の指導の下、今後、米国のいろいろな政策が明確になっていくこの時期の開催は、スタート・ダッシュには好都合である。

そして、米国の新政権の下での初の外務・防衛相会談、所謂「2+2」が3月16日に開催された。「2+2」の東京開催は6年ぶりである。また、米国のブリンケン国務長官、オースチン国防長官の初の海外デビューである。両人ともに就任直後から中国に対して大変厳しい言葉を発してきていたが、今回の「2+2」ではより明確に情報が発信された。今回の共同発表のポイントは、(1)中国の「海警法」に深刻な懸念がある、(2)台湾海峡の平和と安定が重要、(3)尖閣諸島事態には日米安保条約5条が適用され、日本の施政を損なう行動に断固反対、(4)日米同盟強化の為、更なる「日本の能力向上」が必要、(5)年内に再度「2+2」を行う。この5点だったと思う。米国政府が、尖閣事態をここまで明確に言うことは無かった。また、尖閣諸島の施政権についての発言も初めてである。また、台湾に関しては、日本も公の場で考えを表明した。

世界の多くの国は、一応「One China」政策をとっている。しかし、これを頑なに守っているのは我が国だけかもしれない。トランプ大統領は、大統領に就任後も「二つの中国」で何が問題かと考えていた。この発言は、周辺の側近に諌められ訂正させられたが、口では「One China」といいつつ、台湾関係法を全面的に見直し、台湾への武器供与を進めた。台湾旅行法も見直され、公職にある高官も台湾訪問が可能となっている。しかし、我が国はこの「One China」政策を忠実に守ってきたのである。米国や韓国などは現役の大佐が台北で勤務しているが、我が国では実現していない。しかし、今回の「2+2」では両国の合意の下で、台湾の名称が出され、台湾海峡の平和と安定が謳われた。ご承知のとおり、台湾海峡には台湾・中国の中間線が引かれており、中国の航空機(軍用機)は原則として、この中間線を越えて飛行する事は無かった。しかし、蔡英文総統が訪米し、ハワイ州軍のローガン陸軍少将と会談した直後から台中中間線を越える飛行が開始され始めた。最近では常態化されつつある。この様な事態への明確な懸念である。

今回のクワッド首脳会議、そして日米「2+2」とも、これまでにない進化である。但し、我が国としては、ただ喜んでいるだけではいけない。「2+2」でも我が国の「能力向上」が求められている。防衛能力は勿論の事、外交や経済・エネルギー、感染予防等まで国家としての総合的能力を上げる努力義務を負ったと深刻に自覚する必要がある。また、米国の両長官は、この地域の安定には「日・米・韓」の三ヶ国の連携が重要である事も忘れず付言されていた。私は、これは我が国対しての要求もさることながら、中立的な米国から見ても韓国側の態度が歪んでおり、韓国に対する早急な修復が必要との強いメッセージだと判断しているが、こんな見方は私だけだろうか。(令和3.3.23)

岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

写真:代表撮影/ロイター/アフロ


《RS》

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