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『実業之日本』と地政学(4):ユーラシアの逆襲:戦略の欠落が意味するもの_2【実業之日本フォーラム】


*19:33JST 『実業之日本』と地政学(4):ユーラシアの逆襲:戦略の欠落が意味するもの_2【実業之日本フォーラム】
ポストコロナ時代の日本の針路
「国力・国富・国益」の構造から見た日本の生存戦略(2021/3/17)

■ゲスト
船橋洋一(実業之日本フォーラム編集顧問、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長、元朝日新聞社主筆)

■聞き手
白井一成(株式会社実業之日本社社主、社会福祉法人善光会創設者、事業家・投資家)

『実業之日本』と地政学(4):ユーラシアの逆襲:戦略の欠落が意味するもの_1からの続き

白井:過去の日本は、複雑怪奇なものを読み間違えたというか、もともと読んでなかった、あるいは無策だったのかもしれないということをご指摘いただきました。ユーラシアは、ドイツ、ソ連、中国、朝鮮半島を含む地理的に広い範囲を含んでいるということですね。確かに、欧州からソ連、中国を経て朝鮮半島から日本に流れ込む風は当時あったと思います。そういった意味では、現在の欧州、ロシア、中国、朝鮮半島が日本に影響を与えている状況と似ています。
現在、ユーラシアで大きな影響力を発揮している国のひとつが中国です。その中国は、習近平体制下で一帯一路戦略を推し進め、アジアから欧州にかけて大きな経済圏を形成し、その主導権を握ろうとしているのではないでしょうか。現在のユーラシア大陸がどういう状況にあり、一帯一路がその中でどのような影響を持ち、成果を上げているとお考えでしょうか。

船橋:そうですね、2013年9月に習近平国家主席が一帯一路構想を打ち出してから7年が経ちました。これは、中国発の陸のシルクロードと海のシルクロードの2大動脈をユーラシアとその周辺海域に走らせようという壮大な中国の夢だと言えます。これに伴って、ユーラシアが中国の勢力圏下に入るかどうか一番のポイントだと思いますね。中国には、その意思があると見ています。陸、海、デジタルの3つの一帯一路で「中国標準」のコネクティビティを構築しようとする。第二次世界大戦後のマーシャル・プランに匹敵する戦略的重要性を持つプロジェクトだと思います。潜在的には、ですがね、まだ。今後、修正を施したり、整理整頓を行うなど、形は変わるかもしれませんが、その戦略的意思は習近平の治世を超えて長期にわたる射程距離を持つことになると思います。

一帯一路の地政学は、米国のヘゲモニーとイデオロギーに対抗するためロシアと協商関係を結ぶ、ヨーロッパの統合力と標準力と価値観を封じ込め、減殺するためヨーロッパを西欧と中東欧に分断統治する、中東の石油・ガスの供給を安定化させるためこの地域に戦略投資をする、インドをできるだけ南アジアに閉じ込め、グローバル・パワーとして登場させないーーなどを目指していると見てよいでしょう。
ただし、こうした中国の勢力圏拡大の動きに対しては、さまざまな方面から抵抗が生まれています。

まず、ヨーロッパですが、中国の巨大な経済力と市場力がヨーロッパを個別バラバラに中国に吸引させ、いわば“大陸漂流”(continental drift)へと向かわせています
中国は2012年に、16対1(その後17対1)、つまり中欧・東欧、バルト海、ギリシャを含むバルカン諸国などを束ねて中国だけとの首脳会議を設立しました。「自由でひとつのヨーロッパ」という欧州統合の理念に真っ向から挑戦を挑んでいるのです。これに対して西欧は警戒感を強めています。ドイツは産業のライフラインの自動車産業が中国市場をライフラインとしてしまったため、もはや人質に取られた形ですが、ここでも経済界には中国のハイテク企業買収やドイツ企業に対する威圧的姿勢への反感が広がっています。安全保障コミュニティは中国を「戦略的ライバル」とみなし始めています。欧州議会やグリーン勢力は香港や新疆ウイグル自治区のムスリム弾圧に批判の声をあげています。特に今回のコロナ危機を経て、中国に対する不信感が急速に高まっている。オランダの世論調査によると、コロナ危機の一年間に中国に好感情を抱いていると回答した国民の比率は17%も低下しました。東欧でも逆流が起こっています。2020年8月にチェコは台湾に議会代表団を派遣しました。バルトの国々でも、中国に対する違和感が生まれています。一帯一路によって中国から得られると期待したニンジンが、それほどの恩恵をもたらすものではないとわかってきたこともこの背景にはあるのでしょう。

次は、インドです。インドは巨大なヒマラヤを挟んで中国とは長い国境を接しています。ここもまたユーラシアのど真ん中の国です。インドは独立後、中国とは反帝国主義、反植民地主義で合従してきた仲です。1955年のバンドン会議は、非欧米国家が最初に開催したアジア・アフリカ連帯の首脳会議でした。この会議での周恩来とネルーの存在感は大きなものでした。しかし、インドの中国に対する片思いに近い連帯感は1962年の中印戦争で粉砕されます。1964年の中国の核実験からほぼ10年後、インドも核保有国となります。それでもインドはソ連と友好関係にあったということもあり、アメリカとは距離を置いてきました。それは今世紀に入ってから、インドが中国やロシアなどとともにBRICsを設立したことにも表れています。ブッシュ政権(43代)時代、インドとの接近を図るアメリカはインドを「自然の同盟(natural ally)」と呼びましたが、言葉が先走った感じでした。
ところが、2010年代以降、インドの対中観も険しくなっています。領土問題をめぐる対立が再び、激化しています。習近平政権になってから、中国はビザのスタンプに、インドとの間で領土問題紛争を続けているアクサイチンとアルナチャル・プラデシュの両地域、そして南シナ海を中国の領土として入れました。2017年には、中国とロシアがバルチック海とオホーツク海で最初の軍事共同演習を実施しました。同じ年、インドはベンガル湾のマラバル海でアメリカと日本と最初の共同軍事演習を実施しました。(日本は二回目の招待)

2020年、アクサイチンでついに中印の間の武力衝突が発生しました。あるインドの外交官が「中国は日本と台湾と領土や主権をめぐって深刻な対立をしているのに、インドに対する軍事的挑発のようなことはしない。それは日本と台湾がアメリカと同盟関係を結んでいるからなのではないか」と漏らしたとの記事をファイナンシャル・タイムズ紙で読みました。

インドは、日本が提唱してきたQUAD(クアッド=日米豪印四カ国連携)に対してもこのところより深いコミットメントをするようになってきました。この構想は第一次安倍政権のときの日本のイニシアティブですが、当時、インドは気乗り薄でした。中国を刺激したくなかったのです。その後もインドはこの構想にそれほど関心を示しませんでした。オーストラリアを一ランク下に見ていたこともあります。それが大きく変わりつつあります。菅義偉政権が誕生してから最初の外交イニシアティブは日本で最初のQuad外相会議を開いたことです。トランプ政権のポンペオ国務長官も飛んできました。トランプ政権はQuadに積極的でしたが、バイデン政権もこの姿勢を継承することになるでしょう。モディのヒンズー・ナショナリズムに対する批判もあって、米議会やバイデン政権の一部にはインドに批判的な声もありますが、アメリカはンドとの関係を一層強化していくことになるでしょう。そして、クアッドにもより大きな戦略的意義を認めていくことになると思います。すでに、Quadを首脳級に格上げする構想も聞かれます。

ただ、インドの泣き所は経済です。1980年、中国とインドのGDPはほぼ同規模でしたが、現在、中国のそれはインドの約4倍です。ただ、インドはデジタル分野では先進国です。10年間で14億人の国民をデジタルID化した国です。この分野では世界を引っ張っていくグローバル企業が続々と出てくるでしょう。モディ首相は、シリコン・バレーを訪問した際、演説の中で「世界はインドをマージン(端)と見てきたが、今、それを中心とみなしつつある。インドをどこかとの関係を均衡させるバランシング・パワーではなく引っ張っていくリーディング・パワーとしてみてほしい」と述べています。インドは英語を同国の公用語の一つにしていることも強みです。

こう見てくると、中国の陸の一帯一路の戦略的中間決算は黒字になっているとはまだ言えないのではないでしょうか。

『実業之日本』と地政学(4):ユーラシアの逆襲:戦略の欠落が意味するもの_3実業之日本フォーラム】に続く

(本文敬称略)

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・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする


《TN》

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