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『実業之日本』と地政学(4):ユーラシアの逆襲:戦略の欠落が意味するもの_3【実業之日本フォーラム】


*19:35JST 『実業之日本』と地政学(4):ユーラシアの逆襲:戦略の欠落が意味するもの_3【実業之日本フォーラム】
ポストコロナ時代の日本の針路
「国力・国富・国益」の構造から見た日本の生存戦略(2021/3/17)

■ゲスト
船橋洋一(実業之日本フォーラム編集顧問、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長、元朝日新聞社主筆)

■聞き手
白井一成(株式会社実業之日本社社主、社会福祉法人善光会創設者、事業家・投資家)

『実業之日本』と地政学(4):ユーラシアの逆襲:戦略の欠落が意味するもの_2【実業之日本フォーラム】からの続き

白井:中国が対西欧戦略、対インド戦略で成功を収めていないという先生の見立てには、共感するところが多くあります。西欧にはドイツなどのように中国との貿易に強く依存している国があります。そういった国々は中国との関係をなかなか切れないといった事情を持っているにもかかわらず、あまりにも中国の行いがひどいため不信感や嫌悪感のほうが勝ってしまったということですね。そうした面でも、中国の一帯一路をバネとするユーラシア戦略は、欧州やインドで大きくつまずいていると言えるでしょう。
それは、2020年10月にPew Research Centerが発表した主要国による中国への評価にも確かに表れています。アメリカやイギリス、ドイツをはじめとする西欧の国々、韓国、日本など多くの国で、中国を好ましく思わないという意見が顕著に高くなっています。

そうしてみると、一帯一路という事業の中間決算が赤字ということもわかるのですが、一方で黒字の部分、例えばロシアとの関係について、先生はどのように見ているのでしょうか。2019年12月には、ロシア極東から中国東北部へ天然ガスを輸送するパイプライン「シベリアの力」が初めて開通し、両国のエネルギー協力は新たな段階に入ったとみることもできます。また、2019年3月には、ロシアの銀行の一部が国際送金サービスのために中国が開発した人民元国際決済システムを導入しています。中ロの協力が進展することで黒字が拡大することになるのではないでしょうか。

船橋:そうですね。プーチンのロシアは、中国のジュニアパートナーとしてこれまでのところ良好な関係を保っています。ロシアは長い間、ユーラシアの盟主としての自負もありますから、中国の一帯一路を含むユーラシア戦略には内心、複雑なはずです。ただ、アメリカに対抗するため、いまは中国と組むしかない、我慢の時、と割り切っている風もありますね。冷戦期、ヘンリー・キッシンジャーがソ連への抑止力を高めるために中国と組むという大技をやってのけたように、今度は「キッシンジャーの子どもたち」が、中国に対抗するためロシアと組むのではないか、という見方が一時、中国の識者から聞いたことがありますが、そうはなりませんでした。バイデン政権も現時点では、中国とロシアの二正面作戦を追求する構えです。

白井:そうすると、関係が比較的良好なロシアを入れても、陸の一帯一路事業の中間決算は赤字になりそうですね。一方、一帯一路には海に関する事業もありますが、そちらの中間決算はどのように見ていらっしゃいますか。

船橋:中国は14カ国と国境を接しており、地政学的に陸の負荷がいまなお大きい国です。匈奴を持ち出すまでもなく中国の長い歴史の中で、陸の地政学的負荷が大きいことが、中国が持続的な海洋進出を阻んできた背景にあるのだと思います。
それでも、15世紀の鄭和の大航海や19世紀後半の清の北洋艦隊など、中国が海洋で力を持っていた時代はありました。1886年の長崎事件で寄港した「定遠」と「鎮遠」は、当時、アジア最大級の軍艦で、事件後も「友好訪問」と称して2回ほど寄港しています。実際は、清の海軍力を日本に誇示するための、威圧行為だったんですね。よく「中国は海洋国家ではない」と言われますが、そんなことはありません。中国は海洋国家でもあるのです。海のシルクロードはまさに中国の海洋戦略そのものです。

とはいえ、中国はアメリカや英国や日本のような純粋海洋国とは違います。それから南への海の広がりが窮屈ですし、太平洋へは日本、台湾、フィリピンという第一列島線でふさがれている。南の海への港を求める欲求は、中国とロシアに共通しています。だから、両国とも水陸両様国家(amphibious states)へ接近し、そこに港を確保しようとするのです。中国の場合、パキスタンやミャンマーがその対象ですし、ロシアの場合はトルコがそれです。

中国の海のシルクロードは、地政学者のニコラス・スパイクマンが唱えたユーラシアのリムランドそのものです。スパイクマンは「リムランドを支配するものがユーラシアを支配する。ユーラシアを支配するものが世界を支配する」と喝破しましたが、ユーラシアのインド太平洋側の縁、そしてそこにへばりつく島嶼群、つまりリムランドこそ世界最大の戦略的心臓部であると見立てたのです。いま、東アジアのGDPの87%が海洋貿易に依存しています。その多くが、インド洋と南シナ海を通っていきます。インドの石油輸入の85%はインド洋を、貿易の55%は南シナ海を通ります。

中国の海の一帯一路の戦略的中間決算は、現時点では多分黒字じゃないでしょうか。海のシルクロードの沿線国には、中国の圧力を押し戻すに足るパワーがどこもありませんし、ASEAN全体でまとまって対抗することもできません。ASEANは中国によって「海のASEAN」(インドネシア、ベトナム、フィリピン)と「陸のASEAN」(カンボジア、ラオス、タイ)へと分断されてしまっています。
中国は南シナ海の暗礁を埋め立て、そこを軍事基地にしています。フィリピンが中国の行動は国連の海洋法違反だとハーグの仲裁裁判所(PCA)に提訴し、2016年7月、PCAは、フィリピンの言い分を認め、中国の埋め立ては違法であり、中国の主張する歴史的権利は存在しないとの判決を下しました。しかし、中国は判決を単なる「紙きれだ」と言い、それっきりえです。フィリピンのドゥテルテ大統領はその年の秋の訪中の際、中国人民大会堂で演説し、「アメリカをあてにせず、これからは中国と一緒になってやっていく」とアメリカを見限ったかのような発言をしました。オバマ政権のときに、南シナ海での自由航行作戦(Freedom of Navigation Operation=FONOP)を一時縮小してしまいました。当時のロックリアPACOM司令官も、太平洋軍の最大の課題は地球温暖化であるなどと発言し、現状追認のままなすすべがありませんでした。海のシルクロードは、中国のもっとも剥き出しの「海への戦略的意思」が表出されています。そのもっとも劇的な表れがジブチにおける海軍基地の建設です。インド洋、紅海、東アフリカをにらんだ展開です。中国は今後、インド洋での軍事基地ネットワークづくりへと向かうでしょう。ここでの中国の中間決算は黒字であると言えます。

しかし、インド洋は南シナ海ではありません。インドはインド洋を死活的な生存圏をみなしています。インド洋は世界第三の大洋です。世界の海の27%の面積を持ちます。ここは、世界の大洋の中で唯一、特定の国の名前を冠した海です。それよりも、この海は世界でもっとも多くのチョークポイントを持つ大洋でもあります。スエズ運河、バーブ・アル・マンデブ海峡、ホルムズ海峡、そしてマラッカ海峡です。中国の胡錦涛国家主席が”マラッカ・ジレンマ“を口にしたのは2006年でしたが、実際、マラッカ海峡からベンガル湾のアンダマン諸島とニコバル諸島へ抜ける海域は中国のシーレーンのもっとも脆弱な下腹部といってよいでしょう。インドは、中国に対する強力なレバレッジを持っているのです。ただ、中国もアンダマン諸島の最北にありミャンマー領のココ島嶼の一つをリースで手に入れ、そこにレーダー基地とシグナル・インテリジェンス基地を建設中という報道もあります。長期的には、インド洋の海洋秩序を誰がつくるか、というグレート・ゲームが展開されるでしょう。Quadはそのインド洋グレート・ゲームのプレーヤーとなっていくことでしょう。
(本文敬称略)

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《TN》

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