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中国の不正規戦−EMPの脅威(2)【実業之日本フォーラム】


*09:58JST 中国の不正規戦−EMPの脅威(2)【実業之日本フォーラム】
本稿は、「中国の不正規戦能力−EMPの脅威(1)【実業之日本フォーラム】」(※1)の続編となる。

日本に対するEMP脅威は中国にとどまらない。前出のプライ局長は、2021年6月に北朝鮮が核高高度電磁波に関する能力を獲得した可能性が高いとの報告書を提出している。

防衛省が公表した資料によると、2017年9月に実施された核実験の推定出力は約160キロトンであり、十分に核高高度電磁パルスを発生させ得る規模と推定できる。北朝鮮の動きに対応し、防衛省は2018年度防衛白書において、「電子機器の誤作動や破壊を誘発するEMP弾構成要素に関する研究及びEMP防護技術に関する検討を実施している」ことを明らかにしている。2018年3月の衆議院安全保障委員会において、防衛省のEMP対策について問われた前田防衛政策局長(当時)は、「指揮中枢の地下化」、「通信網の多重化」、「装備品の防護に関する研究」等のEMP対策を進めることを明らかにしている。

しかしながら、自衛隊は電気、水道、通信等を民間インフラに依存しており、自衛隊が任務を継続するためには、自衛隊における対策では不十分である。HEMP防護には国家的取り組みが必要なのである。

2017年9月3日付の北朝鮮労働新聞の、「(水爆)を高い空で爆発させ、広大な地域への超強力HEMP攻撃を加えられる」とした記事に対し、当時の菅官房長官は、内閣官房を中心に経産省、国土交通省といった通信や交通、電力などの常用インフラを所管する省庁と防衛省で対策を講じていく考えを明らかにしている。とはいえ、2017年に本格的検討に入るとされて以降、防衛省以外に具体的な動きはない。これは、アメリカの国土安全保障省に相当する省庁が日本に存在しないことに起因するものと考えられる。

我が国の危機管理の考え方は、内閣法第15条に「国民の生命、身体または財産に重大な被害が生じ、又は生じるおそれのある緊急事態への対処及び当該事態の発生の防止をいう」、と記述されている。主として緊急事態が発生してから稼働するシステムであり、HEMP攻撃に耐えることのできるような事前の体制づくりは、この危機管理の考え方からは生じない。経産省や国土交通省も、担当業界に対しHEMP対処を推進するように指導する根拠も基準も存在しない。国家としてのHEMP対策は司令塔が存在せず、漂流している状態と言える。

我が国のHEMPへの対応策は、実業之日本フォーラムの船橋洋一編集顧問が対談の中で指摘された、福島原発事故における「リスク・ディナイアル」を彷彿させる(「絶対安全神話」の軛に囚われた日本 2021.6.23)。HEMPが与える影響のあまりの大きさから、国民に不安を与えないように、無いものとしているという側面がうかがえる。

中国や北朝鮮が、日本に対してHEMP攻撃を仕掛ける可能性は必ずしも高くはないが、中国が「核攻撃」に分類していないとは言え、HEMP攻撃はまぎれもない核の使用である。専門家の間にも、大きな被害は出ないとする見方も存在することから、核使用への国際的批判とHEMP攻撃の効果を天秤にかけた場合、リスクが大きいともいえる。しかしながら、HEMPが大きな被害を与えるということを否定できない以上、リスクを明確にした上で、事前準備で対応する部分や国家、国民として許容せざるを得ないリスクについて、コンセンサスを得ることは国家の使命であろう。内閣官房を中心に具体的な施策まで踏み込む体制づくりが望まれる。

1999年に中国人民解放軍空軍大佐2名共著により公表された「超限戦」は、「西洋の科学技術と東洋の知性の融合こそが21世紀の戦争に勝利する手段である。あらゆる手段を戦争の勝利に結びつけることが重要である。」と主張している。

公表当初は、中国の軍事技術がアメリカに相当程度立ち遅れていることから、非対称な方法で戦争に勝利する手段を追及していると解釈されていた。しかしながら、近年の中国は、軍事力を含むあらゆる手段を使用して自らに都合のいい情勢を作り出すことに努力しており、「超限戦」をより広い意味で適用しようとしていると言えるであろう。2010年に、尖閣諸島周辺で日本の巡視船に衝突した中国漁船の船長が日本に拘束された際は、レアアースの輸出手続きを遅らせて日本に圧力を加えた。最近では、オーストラリアからの輸入品に対する課税を強化し圧力を加えている。これらは経済的手段を使用した「超限戦」の一形態と言えよう。

中国古代の兵法家である孫氏は、「兵は詭道なり」と喝破、「戦わずして勝つ」ことを善の善たるものとしている。中国の「不正規戦」は、軍事力使用の一部であるHEMPから経済的手段等を含めた、極めて広範な手段を用いた戦いであることを理解しておく必要がある。

新型コロナウィルス対処の優等生と言われた台湾の感染再拡大に対し、どの国がどのようにワクチンを供給するかということが注目されている。日本は使用予定のないアストラゼネカ製ワクチンを台湾に無償供与し、台湾から感謝が寄せられたが、最近ワクチン接種後の死亡例が報告されている。因果関係は明らかになっていないが、アストラゼネカ製ワクチンの信頼性は低下しており、蔡英文政権の支持率も低下しつつある。

中国はこの機を逃さず、台湾への軍事的圧力を強化するだけではなく、フェイクニュースの拡散等をつうじ、蔡政権を揺さぶってくるであろう。このような中国の「不正規戦」に対し、G7サミットの首脳声明で明記された「台湾海峡の平和と安定」をいかに確保していくか、大きな試練を迎えているといえる。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。

※1:here


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《RS》

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