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NATOに何を期待するか【実業之日本フォーラム】


*09:37JST NATOに何を期待するか【実業之日本フォーラム】
NATOが蘇りつつある。1949年に12か国で発足したNATO(North Atlantic Treaty Organization)は、北大西洋地域における集団防衛を担保する国家の集合体であり、発足当時の脅威はソ連であった。ソ連崩壊後、NATOは次第に東方へ拡大し、ポーランド、バルト三国、ルーマニアそしてブルガリアなどの、かつてソ連の影響圏にあった国々も加盟国となった。2020年3月に北マケドニアが加入したことから、現在30か国で構成されている。

1949年に締結された「北大西洋条約」の第5条では、「ヨーロッパ又は北アメリカにおける一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなし、軍事力を含む集団的自衛権を行使する」ことが規定されている。しかしながら冷戦終了後、NATOの役割の再検討が行われ、1999年の戦略概念において、既にボスニアで実施中であったNATOの域外行動を正式化し、コソボ、アフガニスタン、ソマリア沖海賊対処等の域外における活動を活発化させていった。

2010年に策定した「新戦略概念」では、中核任務を「集団防衛」、「危機管理」及び「協調的安全保障」とし、域外における活動を継続している。しかしながら、2014年に生起したロシアのクリミア併合に経済制裁以外の具体的手段をとることができなかったこと、2016年から2017年にかけてNATO加盟国であるトルコのシリア内戦への関与を抑制できなかったこと等、NATO内部の結束が緩んだとの指摘が増えてきた。

この状態に拍車をかけたのはアメリカのトランプ政権であった。NATO加盟国の軍事費の不均衡を指摘、加盟国にGDP比2%以上への国防費増額を主張、2018年7月に行われたNATO首脳会議では、4%にすべきとも主張した。これら一連の発言がアメリカとその他のNATO諸国に隙間風が吹く原因となった。2019年11月7日、英経済紙エコノミストのインタビューにおいて、フランスのマクロン大統領は、トランプ政権の予測不能性やトルコのシリアにおける行動等、内部の協力体制欠如を理由にNATOは「脳死状態にある」と発言し物議を醸しだした。

2021年6月14日に行われたNATO首脳会談は、この状況を大きく改善させた。首脳会談後インタビューに応じたストルテンベルグNATO事務総長は「NATOは新たな章を開いた」と成果を強調した。ロシアとNATOの関係は冷戦終了以来最悪の関係にあり、これはロシアの高圧的な行動に起因するとして、ロシアを強く非難した。そして、NATOとしては、ロシアに防衛と対話のデュアルトラックで臨むことを明らかにしている。その上で、アメリカのバイデン大統領が米ロ首脳会談の前にNATO首脳会談に参加し、事前の調整が実施できたことを高く評価した。

一方、日本の報道では、NATO首脳会談で初めて中国を脅威と位置付けたと報道されている。同事務総長は、環境問題や軍備制限のような問題で中国と協力する必要があると述べた上で、軍事力の拡大や高圧的な態度で影響力を拡大しつつあることに対し「安全保障上の課題」としている。中国が核戦力を拡充しつつあることや、軍事力近代化の意図が不透明であること、偽情報拡散させていること等を懸念事項としているが、ロシアと比較すると脅威認識に明白な違いがある。アメリカの「自由で開かれたインド太平洋戦略」が中国を意識しているのに対し、NATOを構成する国々の中国に対する脅威認識は必ずしも一様ではない。

中国の脅威に対応するためにNATOが活動範囲を世界に広げるのかという質問に対し、ストルテンベルグ事務総長は次のように答えている。
「NATOは冷戦後ボスニアやアフガニスタンという域外行動をすでに実施している。しかしながら、NATOが中国の脅威に対抗するということは、NATOがアジアで活動することを意味しない。中国はサイバー攻撃、アフリカ及び北極圏におけるインフラのコントロール、北大西洋における中露演習の実施というように我々が守るべきエリアに近づいてきている。我々は、我々が守るべき地域内で中国に対応すべきであり、活動範囲を広げる必要はない」
NATOは来年新たな戦略文書を策定予定であり、今回の事務総長の言葉がどのように反映されるか注目される。

NATO首脳会談の共同宣言には、「中国の野心と強引なふるまいは国際秩序への挑戦である」とし、NATOとして中国への対応において日本などのアジア太平洋の各国との連携を強化する方針が示された。

日本では、あたかもNATOがインド太平洋地域における米国の「自由で開かれたインド太平洋戦略」に積極的に関与するような報道があったが、NATO事務総長との認識には大きな差がある。事実、フランスのマクロン大統領は、中国問題はNATOの軍事的中心課題ではないという認識を示している。さらには、イタリア、ポルトガル、ギリシャは中国の主導する「一帯一路」に参加しており、NATO加盟国内では、ロシアに対する脅威認識は一致しているが、中国に対する認識には大きな差があることに注目する必要がある。

イギリスの「クイーン・エリザベス」空母戦闘群のインド太平洋派遣や、フランスの「シャルル・ド・ゴール」空母戦闘群のインド洋派遣、更にはドイツが昨年に引き続き、今年も艦艇をインド太平洋に派遣する等、NATO加盟国艦艇がインド太平洋方面を行動する機会が増えている。しかしながら、これら艦艇はNATOとして派遣されているわけではない。それぞれの国の方針で派遣されている。ロシアの脅威に対してはNATOとして共同で対処することはあっても、中国の脅威に対しては、NATOの枠組みで行動することは、それぞれの国の自由度が奪われると見て躊躇していると判断できる。

事実、「クイーン・エリザベス」空母戦闘群にはイギリス、アメリカ及びオランダの艦艇が加わっているが、同時期にインド太平洋方面を行動するNATOのドイツ艦艇は加わっていない。ドイツの中国に対する距離感が、英米蘭のそれと異なることを示すものと考えられる。

日本はNATOのパートナー国となっている。日本にとってNATOとの安全保障協力は、「アジア地域における日本の立場への理解と支持を得られる」関係ではあっても、インド太平洋方面において、NATOが集団として、中国に対し具体的な安全保障上の協力体制をとることまでは期待できない関係と理解しておく必要がある。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。


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《RS》

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