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検証:東証アローヘッド稼動から1カ月、流動性向上に一定の効果

 [東京 8日 ロイター] 東証の新株式売買システム「アローヘッド」が稼動して約1カ月、市場では流動性向上に一定の効果が出ていると評価されている。約定速度の高速化や呼び値の細分化により投資家にとって従来よりも売買しやすくなっているとの声が多い。JAL9205.Tのようにマネーゲームの対象にされる銘柄は残っているが、注文状況だけをみて売買するような手法や「見せ玉」を使うような手法は縮小しているという。アルゴリズム取引などの本格化は夏以降とみられているが現在まではシステム障害も特になく、まずは順調な滑り出しとなっている。

 2月8日、東証の新株式売買システム「アローヘッド」の稼動開始から約1カ月。市場では流動性向上に一定の効果が出ていると評価されている。写真は1月4日、東証で行われた「アローヘッド」稼動開始式で(2010年 ロイター /Kim Kyung-Hoon)

 <売買代金・売買高が1割以上増加>

 1月の東証1部の1日平均売買高は25億5220万株、売買代金は1兆6703億円。昨年12月と比べてそれぞれ16.1%増、17.5%増、前年1月と比べると24.6%増、18.2%増となった。

 市況など条件が異なるためアローヘッドによる効果だけを抜き出すのは困難だが、全銘柄の平均ティック(値付き)回数は、稼動前に比べて約2倍に増加しており、東証の斉藤惇社長も「現時点では100点に近いと評価できる」(1月28日の会見)と鼻高々だ。

 現時点の売買スピードは2ミリ秒と旧システムの約3秒から大幅アップ。板の売買情報のみに基づいて取引判断するような「1カイ2ヤリ」といった手法は事実上後退を余儀なくされている。「約定に時間がかかる旧システムでは、板が薄いので大量の売りを入れたり、そう思わせておいて売りを突如引っ込めたりと、心理戦的な様相があったが、瞬時に約定されてしまうアローヘッド導入後は粛々と約定結果だけがあがってくる」(外資系証券トレーダー)という。呼び値が銘柄によっては5円から1円に縮小されたことでスプレッドからの利益が小さくなったことも「1カイ2ヤリ」の魅力を低下させている。

 また約定の意思のない大量の注文を出し約定前に引っ込めることで、他者からの注文を誘い出す見せ玉は本来、相場操縦にあたり金融商品取引法違反となるが、約定意思がないと証明するのは難しいこともあり、取り締まりは困難だった。だがアローヘッド導入後は「今は見せ玉を出した瞬間に約定される可能性があるため事実上、不可能な手法になった」(マネックス証券・チーフ・ストラテジストの羽賀誠氏)とみられており、東京市場の「健全性」向上にも一役買っている。

 <流動性増加はマネーゲーム的な場も提供>

 一方で流動性の向上は、短期売買をメーン手法とする個人投資家や証券ディーラーにマネーゲーム的な売買をしやすい銘柄も提供している。

 アローヘッドの影響をもっとも受けた銘柄のひとつが日本航空(JAL)だ。会社更生法申請がほぼ決定的になった18日の市場で、JALは前週末2円安の5円で引けたが、マネーゲーム的な売り買いが交錯し売買高は4億5000万株を超え、東証1部の19%を占めた。上場廃止決定後も理論上の最安値である1円に張り付くわけではなく2月20日の上場廃止日に向けて値幅を小さくしながらも価格は日々上下している。

 上場廃止銘柄をねらったマネーゲーム的売買はこれまでもみられたが、値付きが良くなったことで、短期筋にはよりねらいやすくもなっている。ただ「上場廃止で保有銘柄を処分したい株主も円滑に売却できたというメリットがあった」(国内証券)との声もあり、一概にマネーゲーム的な売買が悪いともいえない。

 短時間で値が急速に変化する銘柄が散見されるのもアローヘッド導入後の特徴だ。東証のデータによると中小型株のボラティリティは上昇したが、コア30の大型銘柄は逆に低下しており、総じて大きな変化はみられない。ただ個別でみれば100分の1秒といったわずかな時間で5─6%の急速な価格変化をみせる銘柄が出ている。

 制限値幅の拡大といった制度上以外の要因のひとつとみられているのがボリュームキープ系のアルゴリズム取引の増加だ。VWAP(出来高加重平均価格)取引の一種で、銘柄の出来高の一定割合を自動的に注文するため、出来高が増加すると価格変動を加速させる。前出の外資系証券トレーダーは「機関投資家からの何円以上で売ってくれというオーダーに対し、アローヘッド導入後では板(売買状況)を目で見てから売買注文を入れるのでは遅く顧客の要求に答えられないため、どうしてもシステム売買による自動注文になってしまう」と述べている。

 <アルゴ取引の本格化はこれから>

 ただ本当のアローヘッドの影響を見極めるのはこれからだ。データの蓄積が不可欠なアルゴリズム取引は、前出のボリュームキープ系のアルゴリズム取引などを除いては現時点でそれほど増加はみられていない。東証の斉藤社長は新システムに対する各社の対応が整う夏ごろにはアルゴリズム取引が活発化し、理論的に売買は2倍くらいに膨らむとの見方を示している。

 今後は1秒間に1000回などの高頻度の売買を行うスタティスティクス・アービトラージという手法を得意とするヘッジファンドなどが進出してくる可能性があるとみられており、こうしたハイフリークエンシー・トレーディング(HFT)がどのように市場に影響していくかはまだ見えてない。

 クレディ・スイス証券・プログラムトレーディングディレクターの濱田智彦氏は「世界に肩を並べるインフラはできたが、HFTなどへの規制が世界的に厳しくなる傾向があるなかで日本の市場をどうしていくのかなど方向性を明確にする必要がある。同時に企業の魅力をアップさせることが東京市場の魅力向上には欠かせない」と述べている。

 (ロイター日本語ニュース 伊賀 大記記者 編集 橋本浩)

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