[ワシントン/東京 23日 ロイター] トヨタ自動車7203.Tの一連の大量リコール(回収・無償修理)問題で、豊田章男社長が24日(現地時間)に米下院監督・政府改革委員会の公聴会で冒頭に証言するための原稿をロイターが関係者から入手した。
全文は以下の通り。
トヨタ自動車の豊田章男でございます。私は、誰よりも車を愛し、トヨタを愛し、お客様に愛していただける商品を提供することを最大の喜びと感じ、その想いを、ディーラー・サプライヤーも含めた20万人の米国の従業員と共有をしてまいりました。しかしながら、この数カ月間、お客様がトヨタ車の安全性に不安を持ち始めておられることに対し、大いなる責任を感じております。本日は、アメリカのみならず、世界中のお客様に、いかにトヨタが品質・安全を大切にし、どのように取り組んでいるかを説明させていただきたいと思います。このようなすばらしい機会を与えていただいたタウンズ委員長、アイサ筆頭理事をはじめ、当委員会の皆様方に深く感謝を申し上げます。
私からは、品質管理に関する基本思想、今回のリコールの原因、今後の対応策の3点について説明を申し上げたいと思います。
まず、一つ目には、トヨタの品質管理の思想についてであります。
私自身も会社としてのトヨタも、絶対に失敗しない全能の存在ではありません。時には、欠陥を発見したり、失敗をしたりすることがあります。そうした時に、必ず一度そこに立ち止まり、徹底的に原因を追究し、これを修正しさらに改善をする。絶対に問題から逃げたり、気がつかないふりをしたり、ごまかしたりということはトヨタの伝統と誇りにかけて絶対にやらない。そうやって、改善をくりかえすことによってさらに優れた商品を世に送り出す、これこそが創業以来我々がもっとも大切にしている基本思想です。
トヨタでは、ものづくりを実践するため最大の鍵が人づくりであるという信念を持っています。従業員ひとりひとりが、どうすべきかを考え、改善を提案し繰り返す、それによってもっといい車をつくりだす、こうした価値観を共有し実践することができる人材育成をすすめてまいりました。我々が米国で販売を開始してから50年、生産を開始してから25年がたちましたが、20万人の米国の従業員・ディーラー・サプライヤーともこの価値観を共有できたことが、私の最大の誇りであります。
2つ目に、今回のリコール問題の原因を振り返ってみたいと思います。
トヨタは過去数年間、急激にその業容を拡大してまいりましたが、正直ややその成長のスピードが速すぎたと感じております。もともとトヨタ経営の優先順位は、1)安全、2)品質、3)量(お客様にタイムリーに車を届けるとの意味)であります。この優先順位が崩れ、そのため、我々自身が立ち止まって改善を考える余裕を無くし、よりよい商品をつくるためにお客様の声を聞く姿勢を疎かにし、人や組織が成長するスピードを越えた成長を追い求めてきたことは真摯に反省すべきであります。その結果として、今回リコールに至った品質問題を引き起こしたこと、それが原因で事故を引き起こしたことは真に残念であります。
特に、今回、サンディエゴでの事故で命を失われた4名のセイラー・ファミリーの冥福を再度お祈りさせていただき、深い哀悼の意を表するとともに、二度とこのような悲劇を繰り返さないことを誓いたいと思います。
私は昨年6月の就任以来、商品の品質向上を自分自身の最大の課題としてとらえ、経営の指針としすべての関係者と共有をしてまいりました。ご存知の通り、私は創業者の孫であり、全てのトヨタ車には私の名前が入っております。私にとってクルマが傷つくということは、私自身の体が傷つくということに等しいのです。トヨタのクルマが安全であってほしい、トヨタのクルマを使っていただくお客様に安心していただきたいという気持ちは誰よりも私が一番強いのです。私自身のリーダーシップのもとで、トヨタが本来大切にしてきた、安全・品質が最も大切であるという創業以来の価値観を再確認し、実践するための仕組みづくりに全力をあげて取り組みたいと思います。
3つめに、今後の品質管理に関して申し上げたいと思います。
これまでトヨタではリコールを実施するかどうかの判断は、主管部署である品質保証部が、技術問題の有無を確認し、法令に照らし合わせて必要かどうかを根拠に決めておりました。しかしながら、今回の問題を振り返ると、私たちにはお客様の視点で品質問題を考えるという視点が足りなかったと考えます。
今回こうしたことへの反省から、意思決定プロセスを次のように改善いたします。リコール実施の可否に経営陣が「お客様の安全が最優先」との視点から責任ある判断を下すしくみを加える、そのために世界中のお客様の声がタイムリーに経営陣に届く仕組みと、必要に応じて各地域でお客様に近いところで判断ができる仕組みを構築いたします。また、我々が企業の理屈だけで誤った判断を下すことがないよう、外部に品質管理のアドバイザーを組織いたします。加えて、米国ではAutomotive Center of Quality ExcellenceにProduct Safety Executiveを配置し、品質管理に関する権限・責任を強化いたします。
さらに大切なこととして、経営陣自身が実際にクルマを運転し、問題の所在とその深刻さを自ら確認することを徹底いたします。私自身が、訓練を受けたテストドライバーの一人であり、プロとしてクルマの良さも悪さも判断できますし、クルマの持つ怖さもわかります。今回対象になっているペダルを対策前後で、様々な環境設定の中で比較することもいたしましたし、プリウスのブレーキフィーリングも確認をいたしました。会議室で報告書やデータで物事を判断するのではなく、実際にものを見ることによって、はじめてお客様の視点から判断できるものと確信しています。
以上申し上げました改善策に加え、今後NHTSA(米高速道路交通安全局)と協力し実施する調査の結果も活用し、さらなるトヨタ車の品質向上に取り組んでまいります。
すべてのトヨタ車には私の名前がついています。私自身の責任において、お客様の信頼を取り戻すために、全力を挙げて絶え間ない改善に取り組む所存でございます。
ご清聴ありがとうございました。