[ワシントン 22日 ロイター] インターネット検索世界最大手の米グーグルGOOG.Oは22日、中国語のネット検索サービスを香港を経由して行うと発表した。中国政府がネット検索業者に求めている自主検閲を回避するための措置で事実上、中国本土の検索事業から撤退となる。
グーグルの発表に中国政府は反発。新華社は、グーグルがビジネス上の利益と情報の自由なやり取りへのコミットメントとのバランスをとるという意向を拒否した、との当局者の談話を伝えた。
米中間には今年、通商、金融、政治、安全保障の各分野で懸案があり、グーグルの問題はその一つに過ぎない。
インターネット上の情報の自由、人民元の対ドル相場、核問題めぐるイランへの制裁、チベット問題、米の台湾への武器売却決定をめぐり米中の緊張は高まっている。
◎グーグルの決定に対する米中両政府の反応:
米ホワイトハウスは、グーグルと中国政府の協議が不調に終わり、グーグルが中国でのネット検索サービスを香港経由での提供に変えたことについて失望を表明した。
米国家安全保障会議(NSC)報道官は、米政府が検閲に反対し、インターネットの自由にコミットしているとしたうえで、米中は共通の利益に関わる問題で協力しており、両国関係は「十分成熟」しており、相違に対処できるとの認識を示した。
米国務省報道官は、グーグルの動きは米政府のあずかり知らない「ビジネスの決定」としながらも、今後の成り行きを注視する姿勢を示した。
グーグルが今年1月にネット検閲に反対の姿勢を公にして以来、グーグルや、米国からの情報規制批判に反発してきた中国政府は、インターネットをめぐる問題で強硬姿勢をとる可能性を示唆している。
新華社は23日、インターネット規制の監督業務の一端を担っている国務院新聞弁公室当局者の談話として、グーグルが自主検閲を停止したことが「書面での承諾」に違反した行為であり、「完全に間違っている」と報じた。
新華社によると、この当局者は「われわれは、商業上の問題を政治化することに強固に反対し、グーグルの不合理な批判や慣行に不満と怒りを表明する」と述べた。
◎米政府には今後、何ができるか:
米国務省報道官は、グーグルの問題に政府が関与しない姿勢を示したものの「世界共通の原則としてインターネットの自由促進がわれわれの関心であることに変わりない」と述べている。
こうした姿勢は、クリントン米国務長官の1月の演説が基になっている。クリントン長官は、世界的なインターネットの自由を訴え、中国、イラン、サウジアラビアなどインターネットの検閲やブロガーへの嫌がらせがある国がもたらす「新たな情報のカーテン」を非難した。この演説に中国政府は反発した。
米議員の間では、グループを結成し、インターネットの規制を回避する技術を開発するための予算配分などを盛り込んだ、ネットの自由を推進する法案を策定しようとする動きもある。
ワシントンの有力シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のインターネット・セキュリティーの専門家、ジェームズ・ルイス氏によると、米政府がグーグルを支援するためにできる事は不透明。
ルイス氏は「米政府は、中国が通商分野でできるだけ誠実にさせておく方策を見出す必要がある」と述べ、今回のケースでは、中国がグーグルを処罰するため非関税障壁を講じることを想定することになる、との見方を示した。
これに対し、JFPホールディングスのマネジング・パートナー、ジャック・パーコウスキ氏は、米政府にはせいぜい、米中関係を維持することくらいしかできないとみており、グーグルの問題について「米政府は事態を悪化させるだけかもしれない。米政府は悪化させた、とわたしは考えている」と述べた。
◎グーグルは何を達成したか:
中国語検索を香港経由しても検閲を回避することにはならない。本土ユーザーにとっては、これまでより検索に時間がかかることになる。
ヘリテージ財団の中国通商エコノミスト、デレク・シザーズ氏は、香港経由にしたグーグルの措置を「完全撤退にかなり近い」動きで、「中国政府を刺激し、広告、その他提携の面で自社を中国の規制対象外に置く」ことになるとみている。
ニクソン・センター(ワシントン)の中国研究責任者ドリュー・トンプソン氏は、グーグルの歩み寄りに向けた努力の成否は、中国政府が本土ユーザーの香港サイトアクセスを容認し続けるかどうかも関係してくると指摘する。
人権団体や報道の自由を監視する団体からは、グーグルを検閲に対抗した、と賞賛する声があがっている。
ジャーナリスト保護委員会(CPJ)の幹部は「グーグルの検閲付き検索をやめる決定は、中国のネット規制で自らを悪い立場に立たせるだろう。しかし長期的には、それが中国市民が必要なニュースや情報にアクセスできるようにする、中国政府への圧力につながるとわれわれは希望している」と述べた。
プリンストン大学情報技術政策センターのレベッカ・マッキノン氏は、グーグルは「裸の王様に『服を着ていない』と指摘した少年」役となり、中国国民の検閲への認識を高めさせたと指摘した。