[ロンドン/ワシントン 12日 ロイター] 11日に明らかになった国際通貨基金(IMF)のコンピューターシステムに対するサイバー攻撃について、複数の専門家は、ある国の政府が関与しているとの見方を示している。その攻撃手口は複雑で、IMFが持つ機密情報を狙ったものだという。
ユーロ圏の財政支援策や世界的な金融改革は、IMF主導の下で進められているが、その内部メールを盗み読みしたいと考える国は数多く存在する。この問題に国家が関与していることが確認されれば、大きな外交問題となるだろう。
英諜報機関の政府通信本部(GCHQ)の元高官で、現在は王立統合防衛安全保障研究所(RUSI)の上級研究員を務めるジョン・バセット氏は、「(IMFへのサイバー攻撃の)目的は混乱を起こすというより、情報を集めることだったと思われる」と指摘。「システムへの侵入は洗練されており、うまく実行されていたようだ」との印象を語った。
関与が疑われる国について、「容疑国リスト」の最上位に来るのは中国だとの見方は多い。活動家や米当局者が持つ米グーグルの「Gメール」アカウントが不正アクセスされた最近の事件などでも、中国のハッカーの関与が疑われている。これに対し中国政府は、関与を強く否定している。
サンフランシスコに拠点を置くジョブリン・ストラテジー・アンド・リサーチのセキュリティー関連専門家、フィリップ・ブランク氏は、IMFが「極めて魅力的なターゲットだ」と指摘。金融業界でこうした見方をする関係者は少なくない。
ロンドンのある為替関係者は、名前を明らかにせずに「IMFが現在担う中心的な役割からすると、その考えを知りたいと思う人は山ほどいる」と語り、IMFの持つ情報は、中国など巨額な外貨準備の保有国に関するものやユーロ圏諸国向けの基金など多岐にわたると話す。
この関係者によると、システムへの不正侵入により、ハッカーはIMFのみならず、大国の政策をめぐる考えやデータベースの詳細にもアクセスできた可能性がある。
現在市場にとって最もセンシティブなのは、IMFや欧州連合(EU)がデフォルト(債務不履行)回避のために追加支援の必要に迫られているギリシャ関連の情報だという。
また、その他の関心事項としては、国際準備通貨の創設や性的暴行罪で起訴されたストロスカーン前専務理事に代わるIMFの新たなトップ選びなどが挙げられる。
<複数の容疑者>
システム監査などを行うコールファイア・システムズのリック・デーキン最高経営責任者(CEO)は、ハッカー攻撃がIMFや国際金融システムの弱体化を狙った未確認のテロリストや武装グループの仕業との見方を示す。
また、デーキン氏は「IMFの信用や信頼性が脅かされれば、テロリストは自分たちの安全な隠れ家を守ることができ、その国の経済が西側の仲間入りをすることを防げる」とも語る。
IMFの次期専務理事選びでは、ラガルド仏経済・財政・産業相がトップを走るが、米中経済安全保障検討委員会のラリー・ウォルツェル委員長は、6月初めのラガルド氏の北京訪問に先立ち、中国当局が内部情報を得るためにIMFのネットワークに侵入を試みたのではないかとの見方を示す。
超党派の同委員会は、中国のハッカーが商業的・戦略的利益のために情報を得ようと、米国や海外のコンピューターシステムに不正アクセスしていると非難する。
元陸軍大佐で、大使館付き武官として2度の中国任務に就いたこともあるウォルツェル委員長は電話取材に対し、推測を裏付ける科学的な情報はないとしながらも、「私にとっては、実質的な常識だ」と断言した。
この問題で、ワシントンの中国大使館の広報担当にコメントを求めたが、直ちに返答は得られなかった。ただ、中国政府の広報は、先月発生した米防衛機器大手ロッキード・マーチンへのサイバー攻撃を受けて、こうした疑惑を強く否定し、「ハッキング行為には断固反対し、国際協力を強く支持する」と表明している。
一方、オーストリア国際問題研究所のサイバーセキュリティー専門家、アレクサンダー・クリムバーグ氏は、IMFへの攻撃がロシアから行われた可能性を指摘する。
一部の専門家には、ロシア政府や中国政府が国外のターゲットを狙う自国のハッカーについて、その活動を黙認しているとの見方がある。こうしたハッカーはしばしば政府の仕事を請け負い、情報との交換に金銭を得ることもあると考えられている。
クリムバーグ氏は、サイバー攻撃に対抗するには国際的な協力が鍵になると話す。同氏は、各国による共同調査を始める絶好の機会だとし、「こうした攻撃を止める唯一の方法は、『名指しして恥をかかせる』ことだ。今回のケースでは、世界的な利益が危機にさらされているのだから」と語った。
(ロイター日本語サービス 執筆:Peter Apps and Jim Wolf、翻訳:橋本俊樹、編集:宮井伸明)