July 21, 2011 / 5:32 AM / 9 years ago

復興債の日銀引き受け、景気浮揚と超インフレで意見対立

 [東京 21日 ロイター] 東日本大震災の復興財源として発行する復興債の財源を巡って専門家の間で、日銀引き受けなどによる経済効果を期待する意見と、増税が政策の常道だとの意見に分かれ、神学論争の様相を呈している。

 7月21日、復興債の日銀引き受けについて、景気浮揚期待と超インフレ警戒で意見分かれる。写真は2月日銀本店(2011年 ロイター/Yuriko Nakao)

 過去の事例では引き受けそれ自体により超インフレや財政規律の緩みが生じたわけではないが、その後軍需への利用や制御不能のインフレが生じたことから強い拒絶反応が残る。

 デフレ長期化や巨額の財政赤字という構造問題を踏まえてどちらを優先課題とするかという考え方次第で、復興財源論争の是非も違ったものとなってくるようだ。

 日銀引き受け推進派の岩田規久男・学習院大学教授と、慎重派の福田慎一・東京大学大学院教授、そして日銀金融研究所・鎮目雅人課長に聞いた。

 <日銀購入は需要創出と円安効果、増税は道筋たてやすく>

 政府は増税を復興債の財源とする方針を固めているもようだが、その合意形成は容易でないとみられる。経済に与える需要創出効果を考えれば、明らかにマイナス効果を及ぼすためだ。

 この点、日銀による引き受けや全額買い切りオペなら、復興のための財政支出を行っても、その分のマネーを民間経済から吸い上げる増税に比べて確実な需要創出効果が狙える。日銀が政府にマネー供給できれば財政支出分はそのまま民間経済に供給される。

 岩田規久男・学習院大学教授は「増税での財源確保は需要を抑制し、復興には逆効果となる。一方、日銀買い入れは、財政支出増加とマネー増加という2つの経路を通じる需要創出効果があるので、経済効果は格段に大きい」とみている。日銀が国債を直接引き受けでなくとも、復興債全額分を市場から購入しても効果は同じだとした。

 一方で、福田慎一・東京大学大学院教授は、日銀引き受けの副作用として指摘されている超インフレが起こるリスクもあり、不確実性の大きい政策であるのに対し、増税の場合は「どういうマイナス効果がでるのかわかっているので、経済政策として道筋をつけて実行しやすい。政策として常道だ」と指摘している。

 <日銀引き受けの効果とリスクの見極め難しく>

 増税や日銀引き受けの是非を考える際に、現在の財政状況や経済状況を踏まえた議論も必要だ。

 この点、福田教授は深刻な日本の財政状況のもとで、復興財源だけが議論になっていること自体に疑問を呈した。「国・地方合わせて公的負債の残高は1000兆円を超えており、そのこと自体がより深刻な問題」と指摘。復興債の規模が10─20兆円程度だとしても、「日銀が引き受けによりこれ以上の国債保有を増やすのは効果が限定的な割にはリスクが大きすぎる」と述べた。

 一方で、岩田教授は長期にわたるデフレからの脱却を重視する。日銀による引き受けや買い切りによる副作用について、制御不可能なインフレをもたらすとの言い訳は中央銀行としての怠慢にあたると批判。「スウェーデンはリーマン・ショック後、デフレになったが、マネタリーベースを4倍増やしている。それでインフレはやっと2─3%の間にすぎない」として、現在の局面で日銀が10─20兆円程度の国債を引き受けてもインフレの心配は必要ないとの見方を示す。また、経済が軌道に乗りデフレ脱却が見えてくれば、日銀がいったん購入した国債を市場に売却すればよいとして、インフレへの対処は可能と主張している。

 <日銀引き受け自体がハイパーインフレもたらすわけではない>

 日銀自身は、政策の効果そのものよりも、歴史的教訓からの副作用を重く見て、引き受けには慎重だ。しかし、日銀引き受け自体が、過去の事例で超インフレを直接引き起こしたとまでは言えないようだ。

 1930年代前半の高橋是清蔵相のもとで、昭和恐慌からの脱却のため財政拡大の財源として日銀引き受けが行われたが、同蔵相存命中の1932年から36年の間だけとれば、成長率は6.1%と高まった一方でインフレ率はわずか1.5%程度と、安定した物価のもとでしっかりとした成長軌道に乗せることができた。

 しかし同蔵相が暗殺された37年以降は様相が一変。軍事支出が拡大し日銀引き受けも増加の一途をたどる。インフレ率も12%程度に上昇した。

 日銀金融研究所の鎮目雅人歴史研究課長は「32─36年の間だけとれば高インフレが起きたということではないが、その後の時代と分けて考えることは適当とは思えない」との解釈を示し、「いったん、中央銀行による国債引き受けを始めると財政支出の増加に歯止めが効かなくなる」とみている。戦後の復興金融公庫債の日銀引き受けの事例でも、日銀の政府向け貸付と復金債の日銀引き受けにより、財政ファイナンスが行われたことが、激しいインフレの要因として挙げられることが多いと指摘。2つの事例ともに、軍需による日銀引き受けの利用や戦後の壊滅的な供給体制の破壊といった特殊事情とはかかわりなく、日銀引き受けが最終的に超インフレにつながったことを歴史的教訓とすべきとの立場だ。

 大震災からの復興は重要課題としつつも10兆円規模の復興財源のねん出に苦しむ日本経済。デフレと巨額財政赤字という大きな構造問題を抱える中で、何を優先課題とするのか、それに伴う痛みにどう対処するのか、政府、日銀ともに政策への決断と備えが問われているようだ。

 (ロイターニュース 中川泉;編集 石田仁志)

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