September 2, 2011 / 6:12 AM / 8 years ago

焦点:「未知数」の新財務相、金融市場に戸惑い

  [東京 2日 ロイター]  野田新内閣の財務相となる安住淳・民主党前国対委員長に対して、金融市場では反応に苦慮するムードが広がっている。

 9月2日、野田新内閣の財務相となる安住淳・民主党前国対委員長に対して、金融市場では反応に苦慮するムードが広がっている(2011年 ロイター/Yuriko Nakao)

 財政、為替、その他の経済政策に関する過去の発言が乏しく、同氏の考えや手腕が読めないからだ。財務省との一体感が目立った野田新首相の路線を踏襲するとの見方が多い一方で、従来とは違う「不規則発言」を警戒する声も出ている。

 <財政再建路線、読めない方向性> 

 「限りなく未知数」(欧州系金融機関の債券ディーラー)─。新財務相決定の情報が伝わった2日の金融市場では、株式や債券、為替などはほとんど動かず、事実上の無反応状態が広がった。

 安住氏は、野田首相の財政再建路線を加速させるのか、それとも減速させるのか。財務相人事のあまりの「サプライズ」にマーケットは戸惑い気味だ。財政再建もしくは増税が早まれば債券市場にプラスで株式市場にはマイナス、景気対策に重点が置かれれば反応は逆になる。しかし、市場にとって、安住氏にはその方向性を予想できるだけの経歴がなく、財政・金融などに関連して特筆すべき発言もほどんど見当たらない。

 午前の円債市場では、東京証券取引所の長期国債先物が反発。株安を背景に中心限月9月限は一時、前日終値より16銭高い142円29銭まで買われたが、人事報道があった前後でプライスはほとんど動かなかった。日経平均も9000円割れの水準で安値もみあいのままだった。

 経済閣僚の経験がない安住氏を起用したことで、野田新首相の路線を新財務相も踏襲することになるとの見方は多い。みずほインベスターズ証券・チーフマーケットエコノミストの落合昂二氏は、新財務相の印象は「無色透明」と表現したうえで、「だからこそ 野田佳彦新首相が選んだのかもしれないと思っている。(野田氏は)政治的には財政再建を打ち出していく方向にある。『癖(くせ)のある財務大臣』だとやり難くなる面があったのではないか」と分析する。

 野田新首相は当初の財政再建路線を微妙に修正していることもあり、景気対策と両立させるような現実的な政策になるのではないかとの期待もある。ただ「無色」と評される半面、安住氏に対しては「財務省主導で増税など財政再建に前のめりになるのではないか」(国内証券ストラテジスト)と懸念する声も多い。「優秀でプレゼンテーション能力に長けた財務省の官僚に洗脳される可能性がある」(信州大学教授の真壁昭夫氏)という。一方で「軽量級という印象は免れない。財政再建は不可能とみている」(みずほ証券シニアエコノミストの飯塚尚己氏)との指摘もあるなど、安住新財務相の就任が野田新首相の財政再建路線の後押し材料となるのか後退材料となるか、市場は測りかねている。

 「強気な性格が災いして不規則発言を連発し、外国為替市場で円相場が乱高下するような事態を招かねばいいが」(在京の英系金融機関幹部)と懸念する声もあった。野村証券経済調査部の吉本元シニアエコノミストは「閣僚経験がなく財政分野に通じているわけでもない。為替介入などに関して不慣れなため、不用意な発言をして相場が振れるリスクはある。揚げ足を取られる可能性もあり、その点が心配」と話す。

 <為替市場は「第一印象」が大事>

 円高や為替介入に対する考え方も不明だが、外為市場では「第一印象」を注視するとの声が出ている。「鳩山政権下の藤井裕久氏は円高希望発言をして、その後にいくら修正しても、この人は円高が嫌いではない人という印象がぬぐえなかった。一方、菅直人氏は財務相就任直後に円安希望発言をして、円高が嫌いなんだなという印象が強かった。そうした記憶の残像はどうしても残ってしまう」(外為どっとコム総合研究所社長の植野大作氏)という。

 為替介入を3回実施した野田新首相が選んだだけに「常識的に考えて、自分がこれまでやってきた政策を反故にするような人を任命するとは思えない」(外為どっとコム総研の植野氏)との声が聞かれるなど、介入を辞さない野田時代の政策を踏襲するだろうと市場はみている。ただ、現場で介入を指揮するのは安住新財務相。「財務官僚にどうしますかと聞かれたときに判断できるのだろうか」(クレディ・スイス証券・外国為替調査部長の深谷幸司氏)と不安視する声も聞かれた。

 <なお続く日銀への圧力、与謝野氏抜けた影響も>

 日銀は今回の経済閣僚人事をみて胸をなでおろしたのではないかとみられている。「野田氏が首相となったことが日銀にはもっとも好ましく、閣僚にも重量級の人物や極端に日銀に批判的な人が就任しなくて一安心ではないか」(みずほ証券の飯塚氏)というわけだ。さらに、閣僚人事もさることながら、経済環境の悪化により増税が困難になったことも、ある面では緩和圧力が後退する一つの要素だ。ポリシーミックスという面では増税の実施とその影響を和らげるための金融緩和がセットになりやすい。

 ただ現在は「増税どころが世界景気がリセッションに入る可能性も出てきている。復興需要といってもプロジェクト内容も固まっていない。経済環境が悪すぎて増税は無理」(クレディスイス証券チーフエコノミストの白川浩道氏)とされ、増税とのセットで金融緩和を求めるシナリオは後退したとの見方が強まっている。

 一方で、景気悪化により、政府の景気対策とセットで党内から金融緩和圧力がかかる可能性はある。ただ、その場合でも「今回は円高への対処が中心となるが、この問題は世界経済次第であり、金融政策では対応不可能だ。資金量を出せばいいというものではないことは、野田首相もわかっているはず」(クレディスイス証券の白川氏)という。

 そうはいっても、今回の布陣では、党内の金融緩和圧力が強まった場合に、安住財務相がその声を抑えていくのは、党内基盤や影響力からみて難しいとの指摘もある。何よりも、「日銀の擁護者たる与謝野馨・経済財政相が抜けたことが大きい」(第一生命経済研究所・主席エコノミストの熊野英生氏)という。

 エコノミストの間では、新政権の布陣により当初予想されていた財政再建に伴う景気下押しと緩和圧力よりも、世界経済悪化に伴う円高加速などで、一段の緩和を迫られる可能性の方が高まったと見られている。 

 <専門性欠く「党内融和」の布陣に不安も>

 安住財務相のほか、国家戦略担当相兼経済財政担当相に古川元久元官房副長官、外相に玄葉光一郎前国家戦略担当相を起用するなど野田新内閣の陣容が明らかになったが、市場からの反応は芳しいものではない。みずほ証券・エクイティストラテジストの瀬川剛氏は「財務相や外務相などの主要閣僚の人事をみていると『党内融和』を前面に出しており、これまでの経験や専門知識などとはあまり関係ない新内閣の布陣という印象が強い。マーケットでは実際の行政運営に不安が強くなる可能性がある」と話す。

 ただ一方で「日本では内閣のメンバーが何かの専門家であることはもともと少なかった」(ドイツ証券チーフエクイティストラテジストの神山直樹氏)とし、先入観は禁物で、今後の行政手腕に期待したいとする声も出ている。

 (ロイターニュース 金融マーケットチーム ポリシーチーム 編集:北松 克朗)

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