October 14, 2011 / 10:42 AM / 8 years ago

超円高に挑む:成長モデルの転換急務、製造業依存から脱却を=野口悠紀雄氏

 [東京 14日 ロイター] 「いま必要なことは成長モデルを転換すること。部分的な修復は不可能だから過去の成功モデルを壊さないといけない」─。早稲田大学ファイナンス大学院総合研究所の野口悠紀雄顧問(一橋大名誉教授)は現在の超円高を日本が製造業に偏重した従来の産業構造を抜本的に改造する好機ととらえる。

 10月14日、早稲田大学ファイナンス大学院総合研究所の野口顧問は、現在の超円高を日本が製造業に偏重した従来の産業構造を抜本的に改造する好機ととらえる。写真は昨年3月、川崎市の京浜工業地帯で撮影(2011年 ロイター/Issei Kato)

 新たな「基幹ビジネス」として同氏が訴えるのは、金融やIT、医療・介護など付加価値の高いサービス産業の育成だ。

 ロイターでは9月以降、超円高に挑む企業経営者に対し連続インタビューを実施、その中で海外生産の拡充や資金調達の多様化などが各社共通の課題として浮かび上がった。これに対し、野口氏はエネルギーの輸入価格低減や優秀な人材の確保など円高の利点を強調する。現在の円高を「企業経営への脅威」と受け止めるべきか。同氏の意見を聞いた。

 <現在は「円安」>  

 現在の円相場について野口氏は、物価変動や複数通貨の貿易量を考慮して算出する「実質実効為替レート指数」でみれば「1995年頃と比べると今は非常に円安だ」と断定する。日銀が公表している同指数(数値が高いほど円高)は、1995年頃が「150」程度で、現在は「105」程度。同氏は「今後の為替レートがいくらになるかは言えないが、趨勢として年率2―3%の円高が続く」と予想する。

 ドル/円の実効為替レートを決める物価上昇率をみると、95年4月から今年4月までの米国CPI(消費者物価指数)上昇率は39.2%。同期間の日本の上昇率はマイナス3.6%。米国で95年に100で買えた物が2011年に139出さないと買えなくなり、日本では100だったものが96で買えるようになった。円に対するドルの「減価」(約3割)を加味すると「95年当時のドル80円は(現在は)56円に相当するので、今はそれほどの円高ではないということになる」(みずほ証券FXストラテジストの鈴木健吾氏)という。 

 野口教授は「企業経営者が(現在を)超円高だ、どうしようもないと言っているのは、この期間に日本企業の生産性が著しく落ちたと言うことだ」と突き放す一方、「震災後、円高が重要な役割を果たしている。(原発停止で)火力発電シフトによってLNG(液化天然ガス)の輸入が著しく増えているが、円高で(輸入代金低減の)メリットが数千億円から1兆円近く出る」と強調する。 

 <それでも海外移転は加速へ>  

 とはいえ、ビジネスの最前線にいる企業経営者は現実に向き合う必要がある。長期化する円高相場を受けて、企業の海外移転が加速するのは確実だ。「超円高に挑む」に登場した経営者の多くは、「対ドル70円を超える円高となれば海外生産を急拡大する必要がある」(山西健一郎・三菱電機(6503.T)社長)」「為替は高くなるか安くなるかわからない。地産地消しかない」(木川理二郎・日立建機(6305.T)社長)「(取引先企業の海外移管は)当然の動きで、部品メーカはついて行かざるを得ない」(松本正義・住友電気工業(5802.T)社長)と、海外生産移転の姿勢を鮮明にしている。 

 海外生産移転は今に始まったことではない。ニコン(7731.T)は、この20年間、カメラの海外生産を進めてきた。デジカメの海外生産比率を90%以上に高めて、ドル/円の為替変動の影響をほぼゼロに抑えたことで「ドルのリスクはほぼフリー」(木村真琴社長)を実現。ソニー(6758.T)は海外生産比率が今期75%に達し、ドル1円の変動の年間営業利益への影響額を01年度の80億円から10年度には20億円まで縮小した。パソコンなどの海外生産やEMS(電子機器の受託生産サービス)の活用を進めた東芝(6502.T)も対ドルの場合、年間営業利益への影響額をゼロに押さえ込んでいる。

 ただ、電機や精密に比べ円高の影響額が一けた大きい自動車産業からは、「今の為替水準で利益を出していくのは至難の業だ」(益子修・三菱自動車(7211.T)社長)、「(現在の為替水準が続けば)業務戦略を見直す必要が出てくるかもしない」(カルロス・ゴーン日産自動車(7201.T)最高経営責任者)といった焦燥や危機感の声が聞かれる。野口氏は「円高が問題なのはもう自動車産業だけだ。ただ、自動車も海外移転を著しいスピードで進めているから、いずれあまり影響されなくなる」と語る。 

 <国内雇用だけが問題>  

 しかし、個々の企業が海外シフトの拡大といった合理的な行動を加速するほど、日本国内で働く場が失われるという「二律背反」を招く。野口教授は製造業の海外移転について「国内の雇用だけが問題になる。ただし、製造業が残ったとしても雇用問題が解決されるわけではない。すでに日本の製造業の雇用は著しい勢いで減少している」と話す。 

 厚生労働省の毎日勤労統計調査によると、2000年に1007万人だった製造業労働者(事業所5人以上、パート含む)は10年に827万人に減少。対象全産業ではこの間、68万人の増加だったので、製造業の雇用の受け皿としての存在感低下が浮き彫りになる。野口氏が問題視するのは、「小売業と飲食業という生産性の低い部門が雇用の受け皿になっていることだ。生産性が低いから日本の所得が落ちる。それがデフレと言われている現象だ」と話す。 

 では今後はどのような雇用機会を創出するべきか。野口氏は、1)間接金融ではない投資銀行的な金融サービス、2)企業向けのコンサルティングやIT・クラウドサービス、3)医療・介護サービス―を挙げた。同氏は「投資銀行的な仕事を国内ではなくアジアで行うべきだ。野村証券が辛うじてそれに近い。医療・介護は圧倒的な需要超過だ。例えば、自動車工場を閉鎖して介護ホームにするとか、そうした類の転換が必要だ」と強調する。 

 製造業自体を否定しているわけではない。原子力発電所や高速鉄道など、政府が昨年の「新成長戦略」で掲げた「インフラ輸出」については、「一つのビジネスモデルであり、推進していくべきだと思う」と話す。一方で、野口氏が「自殺行為」とみるのが、「ボリュームゾーン」と言われる新興国向けの低価格帯の家電や自動車だ。「新興国の中間所得層は、日本でいえば年間所得150万円以下の人たちだ。低価格製品で高い利益を上げられるはずがない」と警告する。 

 高付加価値の産業を育成するには優秀な人材の確保が欠かせないが、円高はその好機となる。パナソニック(6752.T)が、2012年度の国内新卒採用を前年比約3割減らす一方、海外採用を強化するなど、有力企業の間で採用政策を変える動きも出てきた。野口氏は「日本企業にとっては日本の若い人を雇用するよりは、中国の卒業生を雇用したほうが能力は高いし、多分安い賃金で雇える」と指摘した。こうした状況を招いたことについては同氏は「教育に責任がある。特に大学、高等教育。我々の責任だ」と話した。

 (ロイターニュース、浜田健太郎、取材協力:久保信博 杉山健太郎)

 

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