October 19, 2011 / 5:52 AM / 8 years ago

コラム:「緩慢な金融危機」が進行中、リーマンショックとは対照的

 田巻 一彦  

 10月18日、2008年のリーマンショックと比べると、2011年の欧州債務危機では、あたかも台風が接近するかのように市場参加者の多くがショックの到来を待ち構えている。米ニューヨークで2008年9月撮影(2011年 ロイター/Joshua Lott)

 [東京 18日 ロイター] 2008年のリーマンショックと今回の欧州債務危機を比べると、何が違うか。大きな衝撃が突然やって来た2008年に比べ、2011年はあたかも台風が接近するかのように市場参加者の多くがショックの到来を待ち構えている点が大きな差異といえる。

 ただ、水面下では欧州金融システムの一部に機能不全が生じているほか、欧州を中心に銀行の資産劣化も表面化しつつある。「緩慢な金融危機」と表現すべき症状が進行中だ。事態の急変でパニックに陥らないためにも、市場参加者の冷静な情勢判断力が問われる局面になってきた。

 <台風接近に似た欧州債務危機>

 リーマンショックは2008年9月、リーマンブラザーズの経営破綻をきっかけに表面化した。当時の市場参加者の大多数は、リーマンが救済されると予想していただけに、破綻のニュースは突然の天災のように市場を揺るがした。金融市場は一時的に機能停止に陥り、株式市場の連鎖的な下落を伴って、世界の実体経済を大幅に悪化させた。

 今回の欧州債務危機は、ギリシャの資金繰り悪化から国債の支払い不能(デフォルト)に陥るのではないか、との強い疑念が起点になっており、大きなショックは今のところ発生していない。ただ、予想されるギリシャのいくつかの対応方法や、欧州連合(EU)や欧州中銀(ECB)などによる救済スキームに関する複数の選択肢によって、多様なシナリオが市場でささやかれ、市場へのインパクトが事前に想定されている。

 この様子は、南方から接近する台風の進路を予想し、その被害状況を事前に予測している状況によく似ている。危機に関する情報がかなり広範に共有され、仮に大きな被害が出そうになっても、パニックに陥らない利点がある。さらに危機への対応を準備する時間的な余裕も、突然襲ってくる災害に比べれば、かなりあると言える。

 実際、国内大手金融機関の保有するギリシャ、ポルトガル、アイルランド、スペイン、イタリアの欧州重債務5カ国(PIIGS)の国債は、今年初めの段階では数兆円規模に上っていた模様だが、大幅に売却された。14日付朝日新聞は6月末の大手9社の保有額は約1兆円と報道している。危機が深刻化しないうちにリスクを最小化する対応が可能だった典型的ケースだ。

 <静かに進む金融仲介機能の低下>

 だが、今回の欧州債務危機で特徴的なことは、大きなイベントが発生していないのに、欧州系銀行を中心にカウンターパーティーリスクが顕在化し、欧州系銀行のドル資金調達が難しくなったという点だ。背景にはPIIGS諸国の国債下落で、保有銀行の有価証券評価損が大幅に増加しているという事実がある。

 今年7月に結果が発表されたストレステストで合格したデクシア(DEXI.BR)が破綻に追い込まれたように、ストレステストが信認を失っており、市場は欧州系銀行の正確な不良債権額と現在の真正な自己資本比率を知りたがっている。

 バローゾEU委員長が、12日に国債価格の再評価を中心にした銀行資産査定のやり直し計画を公表したのは、正しい道にようやく踏み出したと言えるだろう。また、銀行自身による資本増強、監督している政府による公的資金注入、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)による公的資金注入という3段階の資本増強策を示したことも、日本の不良債権処理の混迷を見てきた経験から言えば、定石通りの対応策と言える。

 しかし、後悔先に立たずの教訓通り、EUの対応は遅すぎたのではないか、といううらみが残る。バローゾ提案には具体的な時期が明示されておらず、市場が期待していた23日のEU首脳会議での債務危機に関する包括的な対応策取りまとめに対しても、ショイブレ独財務相が17日、最終的な解決策は打ち出されないとの見解を打ち出し、ここでも欧州勢が得意な先送り策が展開されそうな気配が濃厚になってきた。

 <懸念される公的資金注入と格下げの連鎖>

 もし、公的資金による欧州系銀行の増資が可能になっても、公的資金を出すことで、その国の格付けが下がることになれば、信用不安は鎮静化するどころか、収拾のメドが立たない事態に直面するリスクが高まる。ムーディーズ・インベスターズ・サービスが17日、フランスの格付け見通しを今後3カ月以内に「ネガティブ」に修正する可能性があると発表したのは、こうした見方が決して杞憂(きゆう)でないことを示す明確な証拠になるだろう。

 フランスが格下げされ、最上位のトリプルA格から滑り落ちれば、大きな問題が欧州債務危機に加わる。10月5日のコラムで指摘したように、EFSFで活用できる資金規模は、トリプルAを維持している国の保証負担額に左右されるため、EFSFの機能低下が鮮明になるためだ。

 このルートとは別に、対ギリシャ第2次支援策の枠組みの中で、民間債務の50%削減が実施され、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のトリガーが引かれれば、ギリシャ国債のCDSを売った銀行の債務問題が深刻化し、金融システム不安を引き起こしかねない。(17日のコラム参照)

 ECBや米連邦準備理事会(FRB)、日銀の潤沢な資金供給により、世界の金融市場はかろうじて資金のやり取りを行っているが、経済の血液である資金のやり取りは、中銀のポンプなしでは滞りがちになっているのが実態だ。23日のEU首脳会議の結果によっては、大きな市場価格の変動が起きる可能性もある。

 このような状況を私は「緩慢な金融危機の進行」と認識している。ゆっくりとした危機の進行を「リスクの低下」と捉え、間違った判断をすると、リーマンショックの直前に投資ポジションを膨らませていた投資家と同じ轍(てつ)を踏むことになるだろう。しかし、EU当局も最悪の事態を回避するために全力を尽くしており、市場参加者がパニック心理に陥ることも、自らの傷を深くすることになる違いない。

 欧州債務問題が解決できる道筋にあるなら、解決のゴール間近でユーロ圏共同債の発行にドイツが合意し、債務問題の原資にメドが付くという展開があると予想する。そうなるまで悲観と楽観のオーバーシュートを戒めつつ、冷静に状況を認識する“スキル”が今こそ求められていると思う。

*記事の体裁を修正して再送します。

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