October 20, 2011 / 4:02 AM / 8 years ago

特別リポート:中国で膨張する地方債務、経済の「地雷原」に

 [成都/武漢/東京 20日 ロイター] 中国における地方債務の拡大が深刻化の一途をたどっている。景気対策の名の下に行われた野放図ともいえる建設ラッシュの結果、地方政府が抱える債務は2010年末で10兆7000億人民元(1兆6700億ドル)に達し、少なくとも3割近くに不良債権化の恐れが出ている。

 10月20日、中国における地方債務の拡大が深刻化の一途をたどっている。写真は2月、四川省・成都市の駅構内を歩く男性(2011年 ロイター)

 中国経済の「地雷原」ともいえる借金バブルの膨張。だが、地方当局者の危機意識は薄く、投資収益が細る中で、事態がさらに悪化する懸念が高まっている。                 

 リーマンショックが世界を覆った08年、中国・四川省の省都、成都市で、英ロンドンのウォータールー駅をモデルにした鉄道ハブを建設するという大胆なプロジェクトが動き出した。中央政府は金融危機による国内経済の悪化を懸念、各地方都市に積極的な景気対策の実施を指令していた。その命をうけ、本家のウォータールー駅をはるかにしのぐ成都市の野心的な建設計画には、膨大な資金がつぎ込まれた。

 「実際にウォータールー駅を訪れた時には、ずいぶん小さいので驚いた」。成都新駅の建設を手掛けた成都交通投資集団の陳軍(Chen Jun)董事はこう振り返る。「成都の実情に合わせるには数倍大きな駅が必要になるだろうと思った」。

 中国におけるインフラプロジェクトの例に漏れず、新駅の規模は計画に比べて2倍以上に膨れ上がり、国有銀行からの融資額は30億人民元に達した。さらに工事スケジュールも、わずか2年後の完成をめざすという異例のスピードだった。

 だが、華々しく立ち上げられた新駅計画が国民からの称賛の的にはなっているわけではない。むしろ、他の多くの地方公共プロジェクトと同様、建設バブルの象徴として厳しい視線と批判にもさらされつつある。

 <目算なき建設ラッシュ> 

 リーマンショック後の08年11月9日、中国政府は2年間で4兆人民元におよぶ景気刺激策を実施すると発表。世界経済が急速に悪化した局面でいち早く打ち出した大規模かつタイムリーな経済対策は、その後の中国の2桁成長をけん引したほか、世界経済の立て直しにも貢献した。

 景気対策の大きな柱になったのは、地方都市における公共施設の建設だった。中央政府の意向をうけた各地方政府は喜々として大型プロジェクトに乗り出した。

 地方政府は債券発行や銀行からの直接借り入れを禁じられているため、資金調達の核になったのは各政府が設立した「地方融資プラットフォーム会社」と呼ばれる投融資企業。その数は中国全土で1万社に増加し、リーマンショック後に発生した地方債務はこうした企業向け融資の形で一気に積み上がった。

 「刺激策は中国の現状に合っており、タイムリーで強力、かつ効果的だった」、「正しい決定であり、われわれにとって、将来の世代にとって、そして世界全体にとり有益だった」。景気刺激策が終了する直前の昨年9月、温家宝首相はこう語り、その効果を高く評価した。

 しかし、「ハコモノ行政」の御多分に漏れず、多額の融資をつぎ込んだ建設物には、役立たずの橋など無用の長物も少なくない。新たに作った施設の収益が不足し、債務返済が滞る事態は現実になりつつある。

 中国の地方政府が抱える債務は10年末時点で10兆7000億人民元とみられ、中央政府ではそのうち2兆5000億─3兆人民元が不良債権化すると予測。一方、スタンダードチャータード銀行は不良債権額が8兆─9兆人民元に上るとみる。今年と来年が償還期限になる地方債務は、全体の約4割にあたる4兆4000億元に達する。

 <巨額の債務、不足する営業収益>

 成都のオフィスでソファに深く腰を下ろした成都交通の陳董事は、成都版ウォータールー駅の開発については、同市政府が資金の問題に行き当たる、と笑顔であっさりと認めた。陳董事は「市の鉄道網への投資から生じる可能性がある影響については、まだ自社の決算に反映させていない」と明かした上で、「ローン返済の期限が来たら、困難に直面するかもしれない」と述べた。

 成都交通は10年末時点で資産額が117億人民元であるのに対し、負債額は189億人民元に達する。それでも陳董事は解決策があると考えており、過度な心配は抱いていない。

 陳董事が期待する策とは、全国の地方政府が所有する資産、すなわち不動産だ。同市内で成都交通以外に国有企業6社の経営も手掛ける陳董事は、本家ウォータールー駅のように各駅周辺に大規模な住宅や商業施設を建設する計画を抱く。もちろん資金は借り入れで賄うつもりだ、という。

 湖北省の省都、武漢市。長江とその支流の漢江が交差する要所に位置する同市でも、成都市と同様に、リーマンショック後の景気対策として公共投資のラッシュが続き、そのツケをめぐる議論が巻き起こっている。

 交通ハブとしての機能をさらに高めるため、同市政府は過去3年間で橋梁や鉄道路線、高速道路の建設に熱を上げた。これらの公共投資のうち、ほとんどをファイナンスしたのが武漢市城市建設投資開発集団(UCID)。同市最大の地方融資会社であるUCIDは1万6000人の従業員を抱え、総資産額は1200億人民元に上る。

 UCIDが抱える銀行からの借入額は10年9月時点で685億人民元に達し、営業キャッシュフローの1億4800万人民元をはるかに上回る水準となっている。巨額の投資と営業収益の不足に対する市民の不満を気にした市当局者らは、長江に架けた橋梁について、これまでにない資金回収策を思いついた。通常の通行料に加えて、月に最低18日間利用する車両について、往復料金16人民元を徴収するという方法だ。

 さらに、人口980万人の同市では、地下鉄路線を17年までに215キロ延伸する計画も抱えている。大手国有銀行からの融資で建設費を賄う考えだ。融資の担保として土地販売に依存しているが、市によれば、高級住宅向け用地の価格は04年比で2倍以上に膨らみ、1平方メートル当たり1万1635人民元に高まっているという。

 UCID新聞弁公室(広報部門に相当)の申志忠(Shen Zhizhong)副主任は、債務の危機に直面しても、多額の赤字を責められるいわれはないと強弁する。

 「政府にやるべきことをすべて決められ、いずれのプロジェクトもわれわれには何ら権限はない」。さらに、申副主任は「われわれはスポーツ選手と同じで、監督やレフェリーではない。監督やレフェリーしか知らないことをなぜ選手に尋ねるのか」と語り、同社に市の借金返済計画を尋ねるのは「非科学的」と一蹴した。

 <危機感みせない当局者>

 成都市や武漢市も含め、ロイターが取材したいくつかの地方融資会社では、多額の債務にもかかわらず、担当者に懸念の色は見えなかった。単に中央政府の意向に沿った対応をとっているだけであり、中央政府は必ずや救済に乗り出すに決まっている、というのが彼から一様に戻ってくる答えだ。

 おそらく彼らの目論見は当たっている。中央政府は3兆ドル以上の外貨準備を保有しており、債務超過の投融資企業を救済するだけの資金は十分だ。実際、1990年代には主要行救済のために資産管理会社を設立した経緯もある。

 成都市発改委区域計画処の曽明友(Zeng Mingyou)処長は、債務は積み上がっているものの、市は支出やリスクをコントロールできると自信をみせる。「重要なのはわれわれにはリスクをコントロールする適切な対策があるということだ。ほかの都市に比べ、われわれには優れたコントロール機能がある」と強調する。

 曽処長によれば、市では3年前、利用者のいない高速道路が農業用地に建設されていることが判明、それを受けて投融資企業の引き締めに取り掛かったという。また、インフラ融資の担保として土地を利用することも既に中止しているという。

 「市の土地すべてを利用し、担保にすることは不可能」と曽処長は話す。「いつかは土地も枯渇する。そのため、今では持続的な発展に向けて努力しているところだ」。

 武漢市でも、金融規制当局である湖北銀監局新聞弁公室の謝作槐(Xie Zuohuai)副主任が債務マネジメントに対する自信を見せる。謝副主任はたばこをひっきりなしに吸いながら、「武漢は、地方債務に関する中央政府の規制を実施するにあたっては模範都市とされている」と話す。

 「中央政府がうまい具合にリスクを抑えると信じているから」とも語り、いざとなれば中央政府が救済に乗り出すという、世間に流布しているうわさを裏付ける証言も行った。

 <不動産規制の打撃>

 地方当局者にとって、債務をコントロールするカギのひとつは、不動産価格を高水準に保つことだ。上海に本拠を構える不動産情報・コンサルティング会社、中国房産信息集団によると、昨年の地方政府収入のうち、4割が土地販売によるものだった。土地はまた、地方融資会社に対するローンの担保としても活用されることが多いという。

 しかし、そこに大きな懸念材料が浮上している。中央政府が不動産ブーム抑制の動きを強め、国有銀行に融資カットを指導しているからだ。

 中国では昨年、国内投資がGDPの7割を占めたが、その多くが不動産市場やインフラ開発に流れ込んでいる。こうした投資ブームに乗って土地の使用権を売り、債務返済の財源としてきた一部の地方政府にとって、不動産取引の規制強化は、その計画を狂わせるだけでなく、新規融資に必要な信用力の低下にもつながる。

 実際に、銀行側は、地方プロジェクト向け融資への慎重姿勢を強めている。たしかに、地方債務の増大と返済能力の悪化にともなう融資リスクは、各行のバランスシートの健全性を考慮すれば、まだ低いレベルにとどまっているようにみえる。銀行業界の不良債権引当率は10年末に218%となり、08年末の80%、09年末の155%から上昇した。

 しかし、北京、武漢、成都の銀行の経営幹部は、利益を生むという保証がない場合、あるいは潰すことができないような巨大プロジェクトでない限り、地方政府への融資をストップしたと口をそろえる。北京のある中規模行の経営幹部は匿名を条件に、「現在、多くの銀行は地方政府に属する投融資企業への新規融資をカットしている」と明かす。

 地方政府や融資企業も、資金調達が難しくなったと認める。成都交通の陳董事は「銀行が知りたいと望むのは、明確な収入源だ」と指摘。「高速道路や鉄道路線といった大プロジェクト向けのローンは得ることが難しくなった」と打ち明ける。

 <影の銀行>

 中国の地方官僚は、共産党の評価を得るために、雇用や成長を促すプロジェクトを通じて好調な経済を維持することが求められる。不動産バブルを防止するために融資が引き締められれば、住宅・不動産市場の低迷につながりかねず、その使命は果たせない。そこで登場するのが「影の銀行」だ。

 彼らは闇の融資・信用業者として、正規の融資では不適格とされた個人や企業に信用を供与。供与した信用を細切れに別の投資商品に紛れ込ませる役割を担う。いわばアメリカの銀行がサブプライムローンで行っていたのと同様の手法だ。

 クレディ・スイスは最近のリポートで、中国でこうした闇の融資が急成長している事態を「時限爆弾」と表現した。同社は、中国の闇融資の市場規模を4兆人民元と推計。これは正規の銀行融資規模の約8%に相当する水準だ。

 闇市場では最高で利息が70%に達し、市場規模は1年で約50%拡大しているという。今年に限ってみると、影の銀行による不動産デベロッパー向け融資は2080億人民元に達しており、正規の銀行による同様の融資額2110億人民元とほとんど変わらない水準とみられる。

 正規の銀行は危険性のあるローンを闇市場に移してきた。アナリストによれば、公的銀行も財務をよく見せるため、ローンの再構築や組み換えを進めているところだという。例えば、地方政府向け融資を企業向け融資に分類し、引当金を減少させることで利益を水増しする行為がみられるとしている。国内メディアによると、分類しなおす予定のローン総額は2兆8000億人民元に達するという。

 「各行は一定水準の不良債権の存在を認めなくてはならないが、規制当局がこうしたローンの再分類を許しているため、あえて認めることはしないだろう」。米シカゴにあるノースウェスタン大学のビクター・シー教授は、中国の金融システムに関する著書でこう指摘した。

 そのような債権の再分類は、関係者全員に都合がいい方策といえるだろう。中央政府は金融システムの不安定化を警戒しており、不良債権の増大を望むはずもない。また地方政府にとっても、胡錦濤(Hu Jintao)氏から習近平(Xi Jinping)氏に国家指導者の交代が予想される来年秋の重要な党大会を控え、巨額の不良債務が発覚して成長軌道から外れるのは避けたい、という思惑もあるようだ。

 とはいえ、中国は世界景気の影響を受けやすく、不況を避けるためにあらゆる対策が必要になる可能性もある。建設ラッシュは08年に国内経済を守る役割を果たしたが、現在の中央政府に当時のような力はない。インフレ率は高止まりし、これ以上のマネー供給は事態を悪化させるだけだ。 バークレイズ・キャピタルは世界的な景気後退が中国の「ハード・ランディング」を招く可能性に言及。国内総生産(GDP)も、都市部に流入する地方出身者に十分な雇用を確保するのに必要とされる成長率8%を大きく割り込むとみている。深刻な経済不況に落ち込めば、地方政府の資金供給源となっている土地販売にも影響し、地方が抱える債務はさらに危機的な状況に追い込まれる可能性もある。

  (Kelvin Soh、Aileen Wang、翻訳/編集:川上健一、北松克朗、取材協力:Koh Gui Qing)

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