October 24, 2011 / 8:17 AM / 8 years ago

コラム:26日EU首脳会議に過大な期待は禁物、独仏の溝深い 

 田巻 一彦  

 10月24日、今月23日に続いて26日にも予定されているEU首脳会議で、ユーロ圏の債務危機解決への道筋がつくとの見方も出ているが、過剰な期待感は大きな失望につながる恐れも。写真は23日の首脳会議で会見するメルケル独首相(左)とサルコジ仏大統領(2011年 ロイター/Thierry Roge)

 [東京 24日 ロイター] 今月23日に続き、26日にも予定されている欧州連合(EU)首脳会議で、ユーロ圏の債務危機解決への道筋がつくとの見方も出ているが、過剰な期待感は大きな失望につながると警告したい。欧州系銀行の自己資本増強の原資をどこに求めるのか、という点で独仏両国の溝は相当に深そうだ。

 また、ギリシャ向け第2次支援策で民間負担を増加した場合、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の請求権が発動されるかどうかという金融システムにかかわる問題も不透明で、それに対する方策も依然としてはっきりしない。このためEU首脳会議では大枠だけを決めて、合意できない点は協議を継続する「先送り戦術」が展開される余地もあると予想する。

 <財政悪化国に公的資金注入の余力なし>

 23日のEU首脳会議で、欧州系銀行の資本増強については大筋合意し、必要な資金額は1000億─1100億ユーロになるとの見通しがEU関係者から出ている。国際通貨基金(IMF)はすでに2000億ユーロ規模の増資が必要との見解を示しており、その半分程度で果たして十分な規模であるのか、厳格な資産査定の結果が公表されていないだけに、時間の経過とともに市場が懸念を示す可能性が高いと私は予想する。

 また、ドイツや北欧諸国など一部を除いてユーロ圏各国の財政悪化が顕著になっており、財政資金による銀行への資本注入は、欧州各国の一段の財政悪化を招くことになる。欧州各国は、2008年9月のリーマンショック以降、民間の需要不足を国債発行による公的需要に置き換え、経済的痛みを緩和してきた。その結果、ギリシャを筆頭にPIIGSの重債務国で財政悪化が深刻化。流通市場で国債価格の下落が進んだ。

 それらの国債を保有する銀行の資産劣化が進み、自己資本不足に陥り、市場での資本調達が困難であるため、公的資金による資本増強の選択肢が浮上。EU首脳会議で、その路線が承認されるところまできた。しかし、よく考えてみると、問題の起点は国家財政の悪化であり、その悪化の連鎖で銀行経営が行き詰まった。自己資本を公的資金で補てんしても、問題の解決にならないことは自明の理だ。

 <EFSF強化は、目くらましの術>

 そこでEUは、欧州金融安定ファシリティ(EFSF)の機能強化という“目くらまし”の戦術を駆使しようとしているように、私の目には映る。ユーロ圏17カ国は、EFSFの融資可能額を2520億ユーロから4400億ユーロに拡大することに合意し、各国議会の同意もスロバキアを最後として何とか取り付けた。ギリシャ国債の50─60%のヘアカット(債務元本の削減)が実行され、欧州系銀行の自己資本の目減りがあっても、EFSF資金を活用すれば、何とか対応可能という計算だったはずだ。

 ところが、市場はギリシャのヘアカット近しとみて、イタリアやスペインなどでも同じことが起きるのではないかと連想した。コンテイジョン・リスク(伝播する危険性)が高まる中、イタリアとスペインの国債発行残高が合計2.1兆ユーロを超している現実では、4400億ユーロのEFSFの処理能力を突破しているのは明らかだ。

 フランスがEFSFを銀行化し、欧州中銀(ECB)から資金を借り入れて、欧州系銀行の自己資本注入を容易にしようとしたのも、そうした厳しい現実を何とか乗り越えようという意図があったからにほかならない。しかし、ドイツは強硬に反対した。EFSFの融資や資本注入がうまく機能せず、損失が膨らめば、融資したECBの損失も拡大し、ECBの信認失墜から欧州のインフレが猛威を振るう事態を懸念したに違いない。

 <ドイツに最後の出し手リスク>

 さらにECBの毀損した自己資本を増強する際に、まとまった規模の資金を出せる国はドイツ以外にない状況になっていると、想定したことも疑いないだろう。最終的に欧州系銀行の損失の大部分をドイツの財政資金で賄うという未来が来そうだという懸念がドイツにあったと考える。フランスはEFSF銀行化の提案を取り下げ、レバレッジを活用した2つの案が検討されているという。

 ユーロ圏当局者によると、保証スキーム案と特別目的機関(SPV)を新設する案が検討され、IMFの一段の協力も協議されている。ただ、どのようなスキームが出てきても、欧州債務問題が時間とともに悪化するという情勢を変化させない限り、最終的にどこの国が多くの損失を埋めるのか、という問題は残る。ここでもドイツの動向が大きなカギを握ることは間違いない。

 ドイツのメルケル首相が、国内の反対論を抑えきれないと判断した場合、26日のEU首脳会議で最終的な包括提案を先送りし、11月中下旬まで検討期間を延ばすこともあるのではないかと思う。24日付読売新聞朝刊は、26日のEU首脳会議で採択する声明原案の内容を報道しているが、その中でギリシャの債務削減は「11月末までに結論を出すことを期待する」との表現になっているという。

 <はっきりしないCDSの取り扱い> 

 問題はEFSFの融資機能強化にとどまらない。このコラムで何回か取り上げているように、ギリシャ向け民間債務を50─60%カットした場合、CDSのトリガーを引いてCDSを売った金融機関は買った金融機関からの請求に対して支払い義務が生じる可能性が高まる。その規模が少額であれば問題ないが、市場ではギリシャ国債だけで1兆ユーロを超すCDSが発行されているとの観測もあり、CDSトリガーが引かれた後の金融市場の動向は予断を許さない緊迫した事態になることが予想される。

 さらにCDSを売った金融機関の中には、米系金融機関も含まれるという観測が市場にはあり、欧州債務危機の影響が、大西洋の西側に向かって広がる懸念もある。また、欧州当局の根回しによってギリシャ国債のCDSトリガーを引かないことで全取引関係者の合意が形成された場合、他の重債務国やその他の国の国債CDSの機能が発揮されないという思惑を生むことになりかねない。そのケースでは、イタリアやスペインの国債価格下落という展開もありうる。

 世界の市場で投資家が、リスクを積極的に取りに行く「リスクオン」取引に専念できる日は、そう簡単にはやって来ないと思わざるを得ない。 

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。 

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