November 15, 2011 / 8:33 AM / 8 years ago

コラム:米財政赤字削減協議、再燃しかねない格下げリスク

 田巻 一彦   

 11月15日、今月23日の合意期限を前に、米財政赤字削減をめぐる民主、共和両党間の協議に世界のマーケットの注目が集まりそうだ。写真はワシントンの連邦議会議事堂(2011年 ロイター/Jim Bourg)

 [東京 15日 ロイター] 今月23日の合意期限を前に、米財政赤字削減をめぐる民主、共和両党間の協議に世界のマーケットの注目が集まりそうだ。決裂すれば2013年から1兆2000億ドルの歳出が自動的に削減され、米国債が支払い不能(デフォルト)に陥るような事態になるわけではないが、米議会の政治的指導力に疑問符が付き、格下げのリスクが浮上しかねない。

 世界で最も頼れる金融商品とされる米国債の先行きに不透明感が広がれば、「信用できるものは何か」という根本的な疑問が波紋のように市場に広がる可能性がある。

 <合意なければ、軍事費など自動的に削減> 

 今年8月の米債務上限の引き上げをめぐる協議が決着した際、米議会に設置した超党派の特別委員会が、11月23日までに1兆2000億ドルの赤字削減について具体的な中身を決めることになっていた。赤字削減の期間は10年で、民主党は増税を主張する一方、共和党は税制改革や医療保険関連などの歳出削減を求め、これまでのところ両党の歩み寄りは見られていない。

 超党派委員会で合意が成立すれば、米議会は12月23日までに委員会が合意した赤字削減案を採決する予定。もし、11月23日までに特別委員会が合意できないか、あるいは12月23日までに米議会が赤字削減案を可決できなかった場合は、2013年から1兆2000億ドルの歳出が自動的に削減される。そのうち50%を防衛支出の削減で充当し、残りを他の国内支出で削減することになっている。

 今年8月の米債務上限引き上げ時のように、米国債がデフォルトに陥ることはないものの、オバマ米大統領と米議会が合意にたどり着けないという事態になれば、米政界の指導力に大きな疑問符が付くことになるだろう。欧州債務問題の発端を作ったギリシャの混乱は、政府と議会の調整ができないまま、政治的混乱を招き、抜本的な対策が打てなかったことに大きな要因がある。米国でも同様の火種を政界に抱えていると米国内外の市場関係者に印象付けることは、この先の市場に大きな不安の種をまくことに通じる。

 <再燃しかねない格下げリスク>

 さらに米政界の調整能力の弱さがさらけ出されると、格付け会社が米国債を格下げする可能性が大きくなると考える。債務上限問題で紛糾していた今年8月、財政赤字削減で米与野党の合意ができた直後、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は米国債の長期信用格付けを1段階引き下げた。もし、超党派特別委で与野党の妥協が成立しなければ、米国における政治的なリーダーシップの弱さを材料に、格下げや格付け見通しの引き下げが格付け会社から出てくる可能性があると予想する。

 また、合意形成ができないケースでは、外為市場でドル安圧力が増す可能性も出てくるだろう。欧州債務問題の解決が見いだせない中、ユーロへの懸念も残っているため、外為市場では典型的な消去法のかたちで円が買われやすくなり、円高圧力が再び増大する展開もあるだろう。

 しかし、何にも増して問題なのは、政治的リーダーシップに疑問符の付いた米国が発行する国債の価値について、これまで通りの信用が市場で維持できるのか、という根本的な懸念が、再び持ち上がってくることだ。米国債は8月5日のS&Pの格下げ後も最も信用される金融商品として、欧州債務危機の深刻化につれ、世界中から資金が流入。独国債、日本国債とともに「最後に頼れる存在」として市場関係者に意識され続けてきた。

 <いったい何が信用できるのか>

 だが、政治的に決断ができない国の国債をどこまで信用するべきか、という疑問が広がれば、扇の要の米国債の地位が崩れ出し、新しいマネーフローが発生する可能性もある。実際、11月初めに欧州債務危機がイタリアに飛び火した際、リスクオフ(リスク性資産を売る)取引の色彩が鮮明になったが、買われた国債は米独日の3カ国の国債に限定され、これまで人気のあった国債の一部が売られた。同時にその国の一部企業の社債は買われるという現象が起きた。政府がデフォルトする可能性よりも、人気企業のデフォルトする可能性の方が小さいと市場が判断したために起きた現象だ。

 米国債の信用に陰りが出るようなら、ソブリンの信用問題も「来るところまで来た」と言わざるを得ないだろう。その意味で、11月23日を期限とした米財政赤字削減の協議問題の結末と市場の反応は、来年の市場動向を予想するうえでも大きな判断材料になると考える。

 市場が国債の信認に関し、急に評価を変えることは、イタリア国債の急落やフランス国債に一時、売り注文が集まったことでもわかるように、事前の予測が困難だ。今は長期金利が1%を割り込んでいる日本国債についても、将来の価格変動リスクを十分に意識するべきだと指摘する。「買うものが他にないので、国債投資に傾斜してきた」という台詞(せりふ)は、日本の銀行だけでなく、イタリアの銀行からも発生られてきた、ということを十分に認識するべきだ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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