April 3, 2008 / 5:37 AM / 11 years ago

トヨタが東電を上回る配当利回り、大きな歪みが示す割安感

 伊賀 大記記者

 4月3日、トヨタの配当利回りが東電を上回るなど、日本株の価格形成に大きなゆがみが生じている。写真は1月、都内の証券会社前で撮影(2008年 ロイター/Issei Kato)

 [東京 3日 ロイター] 配当利回りから日本株の価格形成をみると、大きなゆがみが生じている。成長性が高く、本来なら配当利回りが低いはずのトヨタ自動車(7203.T)が、成熟企業の典型とみられている東京電力(9501.T)の利回りを上回るなど通常では考えにくい現象が発生しているためだ。

 サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅融資)問題に端を発した米欧市場での信用収縮の広がりにより、ヘッジファンドなどが換金目的の保有株売却を大規模に進めたことが影響しているとの見方が広がっている。需給が正常化する過程で「過剰な割安感」はいずれ修正される可能性が大きい。

 <トヨタと東電、期待成長率と異なる配当利回り>

 3日前場終値をベースにしたトヨタの2008年3月期予想ベースの配当利回りは2.54%、東電は2.31%とトヨタの方が高くなっている。トヨタが年初来高値を付けた2月20日時点では、トヨタが2.03%、東電が2.38%と東電が上回っていた。

 配当利回りは、配当を株価で割った利率。投資資金で年間何パーセントの配当がもらえるかを示す。通常、成長期待の高い企業は、将来の配当が増えるとの期待が働くため分母の株価が高くなり、配当利回りは低くなる。約1カ月半で両社の期待成長率に変化が生じたのか──。

 現時点でアナリストからは、トヨタの期待成長率が東電を下回ったとの声は出ていない。先進国の自動車産業は成熟したが「発展途上国など世界の隅々まで自動車を製造・販売する余地は、まだまだ残っている」(外資系証券の自動車アナリスト)という。

 一方、電力事業は成熟産業であり、東京電力の成長期待は決して大きいとは言えないというのが、市場の共通認識だ。実際、東電自身も収益のベースとなる販売電力量について、2006年度から2017年度まで年平均1%の伸びと見込んでいる。

 成長期待をベースに考えれば、トヨタの配当利回りは東電よりも低いのがノーマルだ。しかし、2日のトヨタの株価は5120円と3月18日に付けた年初来安値4810円から約6%上昇しているものの、それでも東電の配当利回りより高い状態が続いている。

 1つの理由付けは、トヨタの業績が悪化して配当が将来減少するとの見方だ。北米を中心に自動車販売が長期的に落ち込んだ上に、円高がさらに進み収益を圧迫するとの懸念が株価を押し下げているとの解釈もできる。

 しかし、先の自動車アナリストは「5000円を割り込むようなトヨタの株価は、市場環境として1ドル85円、全米販売台数1450万台(07年は1610万台)を前提にして、初めて正当化できる水準だ」とし、トヨタ株の5000円割れは相当な悲観シナリオを織り込んだ株価レベルだと指摘する。

 トヨタの米国販売部門幹部は1日、2008年の米自動車業界全体の販売台数が、同社の当初予想である1600万台を下回る可能性があるとしたが、それでも1550万台程度の予想だ。

 任天堂7974.OS2.22%、NTT(9432.T)1.98%、ソニー(6758.T)0.58%──と配当利回りだけで期待成長率が計れるわけではないが、長年、株式市場をみてきた準大手証券情報担当者もトヨタと東電の「逆転現象」に「違和感がある。海外勢の保有比率の高いトヨタが換金売りのために、たたき売られたとの印象がある」と述べている。

 <債券との比較での割安感は日本が際立つ>

 個別銘柄だけではなく日本株全体でも、依然としてかなりの悲観シナリオを織り込んだ株価水準にあるとの指摘が多い。現時点で日本、米国、英国、ドイツの4カ国のうち10年国債利回りを配当利回りが上回っているのは日本だけだ(表参照)。さらにインフレ率(コアCPI)分を除いた実質ベースでも、日本の配当利回りは大きなプラスとなる。

 成長期待があれば配当利回りが低くなるのは、株価指数でみても同じだ。「企業は成長し配当も増加すると期待されるため、クーポンが増加しない長期国債の利回りに比べ配当利回りは低くなるのが普通だ」(日興アセットマネジメント・シニアグローバルストラテジストの磯正樹氏)という。

 外国人投資家は3月10日から21日までの9営業日で、日本株を約9800億円売り越した。レバレッジを縮小させる中で換金売りを進めたヘッジファンドなども多いとみられ、海外勢の容赦のない売りがバリュエーション的にみて日本株を非常に割安なレベルまで低下させた可能性がある。「今後まったく日本もしくは日本企業の利益が成長しないというなら、長期国債よりも高い配当利回りを正当化できようが、高い成長は望めないにせよまったく伸びないとは考えにくい」(モルガンスタンレー証券ストラテジストの神山直樹氏)との見方も出ている。

 株価の決定要因は、長期的には配当と将来の配当(1株利益)成長率、さらに1年から数年の短期では、市場が求める株価収益率(PER)の水準だと言われる。配当がそれなりに伸びるとすれば、日本株の下落は、サブプライムローン問題を発火点とした金融市場の混乱により、株式に対するリスクプレミアムが上昇し、市場のPER水準が低下。株価が下落して配当利回りも上昇したとも考えられる。

 だが、信用収縮懸念によるリスクプレミアムの上昇があったとしても、それは全世界の株式に対して共通の現象であり、日本株への売りが特にきつかった理由とは考えにくい。このため金利との比較でみれば、日本株の相対的な割安感は、他国よりも強いともいえる。

 <強まる配当の下方硬直性>

 仮に日本企業の業績が悪化すると見込んでの株価下落だとしても、配当など株主還元に対する企業の意識が強まっていることは株価の下支え要因になる。

 新日本製鉄(5401.T)、オリックス(8591.T)、東芝(6502.T)──と、いずれも2008年3月期業績予想を下方修正しながら増配方針を示した企業だ。オリックスは純利益予想を2025億円から1700億円に引き下げながら、年間配当を前期実績の130円から260円に倍増させると発表した。

 低いと言われ続けてきた日本の配当性向は改善傾向にあるものの、米国30%、欧州50%、日本が25%程度と依然として欧米に比べ見劣りする。だが、市場からは「経済が成熟化し潜在成長率が低下している日本は、欧米並みの配当性向があっていい」(日興アセットマネジメントの磯正樹氏)との声も強まっており、投資家から日本企業に求められる配当性向は、今後高まると予想されている。実際、上記3社のように企業価値維持のために一時的な業績悪化では配当額を下げないという「配当の下方硬直性」が強まっている。

 実は配当自体は株主にとってニュートラルな要因だ。配当とは企業が保有する資金の株主への分配であり、配当後の企業自身の価値はその分減少する。3月末に配当権利落ちで株価が下落するのはこのためだ。配当落ち後に再び株価が上昇していくのは、配当を行って資金を放出しても、その分を埋めてさらに成長すると期待されているからだ。成長企業においては、配当に回す資金があれば有望な事業に投資してリターンを得るほうが、より株主のためになる。

 配当が示すものは何か。野村証券・ストラテジストの芳賀沼千里氏は「配当が示すサインは、企業が株主に対する姿勢だ。増配し株主を重視しているとアナウンスすることで、評価も高くなる」と述べる。

 買収防衛に関心が高まる中でのやや後ろ向きな姿勢変化とはいえ、日本企業は自らの企業価値の向上にようやく本気で取り組み始めた。日本自体の成長力に疑問はあるとしても、企業が株主重視の姿勢に変わりつつあることは、長期的に評価される要素になるとみられている。 

 (ロイター日本語ニュース 編集:田巻 一彦)

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