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インタビュー:外貨準備の8割は売却すべき=谷内・前内閣府政策統括官

 [東京 8日 ロイター] 谷内満・早稲田大学商学学術院教授(前内閣府政策統括官)はロイターとのインタビューで、日本の外貨準備高が高水準になった結果、政府は大きな為替リスクを負っていると指摘、他の先進国の状況を踏まえ外貨準備の8割を市場で売却すべきとの考えを示した。

 市場のかく乱を防ぐため、外貨資産の売却は、市場の状況を見ながら数年かけて徐々にやるべきとし、その場合は財務省が事前に売却方針を公表すべきだと述べた。

 額賀財務相は3月27日の参院財政金融委で、1ドル100円で換算すると、外貨準備に18.5兆円の評価損が出るとの見解を明らかにした。谷内氏はこうした現状を踏まえ、リスクの圧縮を早期に図るべきだと提案している。また、自民党の一部で議論されている日本版政府系ファンド設立について、谷内氏は設立の必然性を否定。積極運用よりもリスク軽減のため外貨準備の規模縮小を優先させるべきだとの見方を示した。

 7日に行われたインタビューの概要は以下の通り。

 ――外貨準備が増加している。

 「他の先進国と比べると日本の外貨準備は非常に大きい。GDP(国内総生産)と比べても、その国の為替市場のボリュームと比べても異常といえるくらい高い」

 「外貨準備は国の資産で、政府が外貨の形で資産を持っているということで、国がお金持ちになったように思うが、実態は政府が民間から円を借りてその円を外貨に投資している。今1兆ドル以上の外貨準備を持っているが、その反対側には100兆円あまりの負債、具体的には短期国債と言う形で借金をしている」

 「民間の投資ファンドがやっているようなキャリートレードと基本は同じ。円でお金を借りてドルで運用している。ヘッジをかけておらず、いわば裸でエクスポージャーを持っている。1兆ドルもあるということは、それだけ大きな為替リスクを負っている」

 ――対応策は。

 「外国のたくさんの研究や日本の研究みると、介入の効果は全くなかったということはないが、非常に限定的だった。それを前提にすると、効果がないのにこれだけリスクを負っている状況を放置していていいのか。さらにリスクを取ってやるのはもっと問題。やはりリスク減らすことが重要ではないか。ということは、売ったらどうか」

 「どの程度売ったらいいかというのは、最適な外貨準備規模がわかればいいいが、そういう基準はない。非常にプラクティカルに考えて、他の先進国が持っている程度に減らしてもいいのではないか。GDP比やその国の為替市場の規模に比べて外貨準備の規模がどのくらいかを考えて、先進国並みにしていくべき」

 「他の先進国は日本よりずっと少ない外貨準備を持っているにもかかわらず、マクロ経済運営になんら支障もない。したがって他の先進国並みに減らしたほうがいいのではないか。それでいくとラフに計算して、80%くらい売ってもいいのではないか。80%くらい売っても、まだ他の先進国より多めの外貨準備を持っていることになる」

 「もちろん8000億ドルを一気に短期間に売ると市場がかく乱するが、市場の状況みて徐々に売っていくべき。数年かけてもかまわないが、基本は状況をみてせっせと売っていくという政策が今求められているのではないか」

 ──その場合、財務省は市場に事前に公表すべきなのではないか。

 「基本的には、これからはリスクを減らしていく方針です、市場の状況をみて徐々に売っていきます、ということをアナウンスした方がいい」

 「どこまで売ると言わなくても、減らすというアナウンスはすべき。どちらにせよ、3カ月に1度、どの日にどれだけやったかわかる介入データを公表しているので、円高にするための介入目的ではなく、政府の負っているリスクを減らすためだということを初めからアナウンスすればいいのではないか」

 ──外貨準備の評価損はずっと外貨で持ち続けていれば実現しないので為替リスクは本当にリスクなのか。

 「それは、為替リスクがペーパー上のリスクに過ぎないので実体上政府は何も困らないだろうという考え方」

 「昔は企業が外貨資産を持っていると簿価で評価していたが、会社の経営の健全度を知るためには、基本的に時価評価の方がいいというように会計の考え方が変わってきた。売らなければ損が出ないので問題ないとか、例えば持ち合い株を時価でやるのはおかしいという議論が当然あったが、日本はそれをやめて変えてきた」

 「潜在的な状態でもどのくらい損しているのかを開示して、政府として潜在的損やリスクをできるだけ少なくするのは政府の責任だし、企業の場合なら企業の責任」

 ――80%を減らすという根拠は。

 「ある程度大まかな数字と考えている。10-20%くらい売ればいいというようなものではなく、リスクを減らすには、大部分を売らなければならないほど日本の外貨準備の持っている為替リスクは、大きいということで言っている。そういう意味では7割でも8割でもいい」

 「他の先進国のGDP比、為替市場比と近づけるためには、8割くらい売る必要があるという計算をしている」

 ――ドル資産を売る時に米国との関係に問題は生じないか。

 「米国の債券市場は非常に大きく、ターンオーバーも世界最大。8000億ドルを非常に短い期間、例えば1カ月や数カ月で売れば為替市場や米国債市場にも影響あるかもしれないが、ある程度の期間で徐々に売っていくなら基本的に影響は出ない。根拠の1つとして、2003年から2004年の初めにかけて日本は35兆円の円売り/ドル買い介入を非常に積極的にやったが、米国債市場でかく乱になったかというと、そういう報道もなかった」

 「昨年の半ばくらいまで、ドルで見ても売りチャンスだった。ずっと120円くらいで安定していたので、あの時期にこそ売るべきだった。実効レートで見ても非常に円安で好タイミングだった。あの時に売っていれば益も出ていて将来少しくらい損が出てもカバーできたかもしれない」

 「ドルでみると今は、必ずしも売りチャンスとはいえない。2003年からの35兆円の介入はだいたい110円くらいでドルを買っているので、それ以下で売ると損が出るが、将来大きな損をするよりは今からやっておくべき」

 「状況は変わってきたが、常に得をするために売る必要はない。将来に向けて損をなくしていくには、今のレートでも売っていくべき」

 ――政府系ファンドを日本に設立する案が自民党内の一部で議論されているが。

 「自分のもともとの考え方は、民間でできる仕事は政府が代わりやる必要はないというもの。小泉首相の時に、民ができることは民と言っていたが、それが日本経済運営の基本。外貨資産や国内資産など金融資産をうまく運用するのは民間に一番向いている仕事であり、政府の人には基本的には向いてない仕事。民間がやれる仕事を政府がやることはないというのが基本にある」

 ――民間人を呼んで運用してもらうという議論もあるが。

 「最終的に財務省の担当者が委託者で、その人たちは(委託先のファンドマネージャーが)損をしてもくびにもならないし、給料も立場も変わらない。得をしても給料も退職金も変わらない、という仕組みでうまく機能するだろうか」

 「政府系ファンドには資源型と外貨準備型と大きく分けて2つの種類がある。資源型は、国の資源の石油を輸出してそれが増えれば政府の収入になる。今資源価格が上がっているので政府の収入がすごく増えている。増えたときにすべて使うのはいい政策ではないので、将来のために運用するというのは合理的な考え方。ただ、これは日本の外貨準備とは話が違いあまり参考にはならない」

 「参考になるのはシンガポールと中国。外貨準備を運用しているのは主にこの2つだが、どちらも日本と事情が基本的に違う。中国の場合は基本的に為替を固定する仕組み。資本移動をかなり制限しているので介入の効果はある。中国の場合は強い人民元高になった場合は、中国経済に悪い影響を与える」

 「中国の場合、ドル買いもドル売りも為替市場に大きな影響を与えるので、中国としては外貨準備を減らすために売れない。そうなると外貨準備を全部米国債で運用してればいいのかという議論になる。ただ、中国が初めに投資したブラックストーンも上場後株価が落ちて中国は大損している」

 「シンガポールの場合は国が小さくオープンな経済なので、シンガポールの物価は為替レートでかなり決まる。為替レートが物価安定の手段として使っている面がある。そういう国で、外貨準備がたまっているときにそれを売るとなると、その国の通貨が高くなりデフレ圧力がかかってしまう。そうなるとシンガポールでは(外貨準備を売却することは)できないということになり、運用した方がいいのではということになる。シンガポールでは政府系企業というのがたくさんあり、政府が民間にできることもやる国がら」

 「そういうことを考えると、シンガポールがやっているからいいとか、中国がやっているからいいとかという議論は通用しない」

 (ロイター日本語ニュース 西川 洋子)

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