July 24, 2008 / 9:00 AM / 11 years ago

五輪後の中国:間違った経済政策、早期転換無ければ社会亀裂リスクも

 [東京 24日 ロイター] 中国が国の威信をかけて開催する北京五輪。8月8日の開幕を前に世界最大級のスポーツイベントへの注目度が高まるとともに、うたげが終わった後の中国経済の行方について期待と懸念が渦まいている。

 7月24日、北京五輪後の中国について、間違った経済政策の早期転換が無ければ社会亀裂のリスクがあるとの声も。写真は国家体育場(2008年 ロイター/Jason Lee)

 米国の景気減速が鮮明になる中で、13億人の巨大消費市場を抱える中国が世界経済の新たなけん引役として一段と比重を高めるのか、それとも失速してしまうのか──。シンクタンクの5人の中国専門家に、北京五輪が中国にもたらす意味と五輪後の経済見通しについて聞く。 

 富士通総研(FRI)経済研究所の柯隆・主席研究員は、中国経済は北京五輪後も当面は規模の拡大を続けるとみる。ただ、銀行の貸出総量規制など現行の経済政策は「完全に間違っている」と指摘。早期に政策が転換されない場合は、株価のさらなる下落や雇用の悪化などにつながり、社会に亀裂が生じるリスクがあると警鐘を鳴らす。

 同氏は22日に行ったロイターとのインタビューで「貸出総量規制で市中の資金が不足し、企業経営が悪化している。株価が上がるはずはない。9月のパラリンピックが終わるまでに経済政策が転換されないと、秋ごろから中国経済はすごく危ない」と語った。

 その上で中国社会の格差が拡大している問題についても、胡錦涛政権が交代する予定の「2012年ごろに山場を迎え、亀裂や衝突が生じる可能性もある」との懸念を示した。

 インタビューの要旨は以下の通り。 

 ―― 五輪後の中国経済の行方は。 

 「規模そのものの拡大は続く。2008─09年は07年ほどの高さではないにしても、10%前後の成長が続く見通し。ただ、経済の中身を検証する必要がある。今の経済政策は大きく間違っている。昨年から一気に景気引き締め政策を始動させたが、中央銀行はインフレ抑制のために引き締めたくても、通貨の安定を考えると利上げはできず、手足を縛られた状態だ。預金準備率の引き上げや手形発行による短期金融市場からの資金吸い上げを行っているが、インフレで熱は上がり、解熱剤になっていない」

 「そこで昨年7月には外科手術のように貸出総量規制を導入したが、これは完全に間違っている。市場経済と言いながら計画経済の政策を復活させたもので、多少熱が下がるようにみえても、実は体力の消耗になるだけだ」 

 ── 実際に支障は出ているか。 

 「香港や深センを訪ねたが、民間企業は流動性不足に陥っている。今後、資金繰りが悪化し、経営をやめるケースが増えれば雇用が悪化する。中央銀行はインフレ目標に対応した政策を取っており、物価に目が向く。ただ、今回の物価上昇は過剰流動性の問題ではなく、グローバルな食料・原油価格の高騰が背景。パラリンピックが終わるまでに総量規制を緩和しないといけない。水はダムに貯めてあるのに、喉が渇いて死にかけている人に水が流れていないのだから」  

 ── なぜパラリンピックまでに政策の転換が必要なのか。 

 「北京五輪は国威発揚のイベント。中国では過去100年でこれほど世界に注目されるイベントはなく、待ちに待った一大イベントだ。五輪が作り出す表面的な繁栄や高揚感の中では経済の実態が見えにくいが、パラリンピックが終わった瞬間に人々の間に喪失感が広がる。2年後に上海万博があるとは言え、市民は簡単に切り替えられず、株や経済の実態に気づくだろう」 

 ── 政策が転換されない場合はどうなる。 

 「経済政策の是非を判断する最良のバロメーターは株式相場。上海総合指数が昨年、6000ポイントを超えた時はさすがに高過ぎて調整が必要と思われたが、これほど急激に半分以下の水準まで落ち込むのは明らかに間違った政策の影響がある。政策転換がなければ株価が2000ポイントまで落ちることも十分ありうる」

 「上海の個人投資家に聞き取り調査したところ、株への信用を失っている。中国には1億人以上の個人投資家がいる。退職金を全てつぎ込み、不動産を担保に借り入れして投資する人もいたが、株の失敗で自殺者が増えている。企業の経営をやめるケースが増えて失業率が上がれば、治安も悪化する。1番のリスクは雇用だ」 

 ── 社会の格差の問題も指摘されている。 

 「中国経済は新幹線のようにものすごいスピードで走っているが、実は動いているのは最初の数両で、後ろの数十両には動いていない車両がたくさんある。結果的に車列がどんどん長くなっている。まさに格差が拡大しているということだ」

 「雇用を創出するために中国は投資主導から内需主導の経済に転換し、製造業だけでなく労働集約的なサービス業を育成する必要がある。このような変化には時間がかかるが、五輪開催前後の60年代の日本や70─80年代の韓国に比べ、中国に許されている時間は短い。また、日本や韓国に比べ中国は所得の格差が大きい。農村部中心に、約5億人が今の急激な変化についていけないでいる」 

 ── その問題はどこに向かうか。 

 「ある臨界点を超えると社会に亀裂が入り、車列が切れる。政府は切れる前に後部車両のボトムアップを目指しているが、米国と異なり、最初の数両に乗っている人はだれも後部車両のことを気にしていない」

 「格差問題は政権が交代する2012年ごろに山場を迎えるとみている。経済成長が鈍化すれば社会の不安定さや亀裂を助長することになるが、2012年までには北京五輪も上海万博も終わり、新幹線やダムなどのインフラ整備も一段落する。新たな設備投資がないと一時的調整期に入り、経済が減速する可能性もある。金持ちには痛くもかゆくもないが、後部車両の人はどうにもならず、立ち上がって天安門に向かう可能性もある」  

 ── 中国にとって北京五輪の意味は。 

 「経済も社会もステップアップしていくための1つの重要な階段。五輪のために、北京市でナンバープレートによって車両の走行を規制する交通規制が実施され、人々はきれいな空気を実感できるはずだ」

 「五輪開催により政府は以前のようにメディアを統制できなくなっている。雲南省のバス爆発事件も、昔なら報道されなかっただろう。海外からみれば依然として透明性が足りないが、ついこの間までの中国に比べれば透明性が向上し、中国人の知る権利が守られつつある。中国は古い国だがまだ若い。五輪は中国が大人になっていくきっかけであり階段だ」 

 ── 日本は中国にどう向き合うべきか。

  「中国を生産拠点と位置づけてきた日本企業にとっては、人件費や原材料費の高騰や電力不足は悩みの種だが、中国に残らざるを得ない。既に中国の巨大消費市場に向け、販売を強化する日本企業も増えているが、中国を生産拠点としてきた企業も構造転換せざるを得ない。中国で売っていかないと生き残れない。中国の景気自体より、市場を調査し、中国人の好みに合わせて技術や商品を開発し、市場を作っていくことが大切だ」

(ロイター日本語ニュース 大林優香記者;編集 田巻 一彦)

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below