October 17, 2008 / 1:40 PM / 10 years ago

焦点:欧米の公的資金注入策に懸念の声、不良債権の全体像見えず

 [東京 17日 ロイター] 欧州や米国が相次いで踏み切った金融機関への公的資金注入策に対して、日本の金融界からは「現段階での公的資金注入は予防的措置。効果は限定的」との懸念が出ている。

 10月17日、欧州や米国が相次いで踏み切った金融機関への公的資金注入策に対し、日本の金融界からは効果は限定的との懸念が出ている。写真は10日、ポールソン米財務長官(右)とバーナンキ米FRB議長。ワシントンで(2008年 ロイター/Yuri Gripas)

 注入規模が大きいため、世界的な金融システム不安に対する防波堤の役割は果たしそうだが、欧米金融機関が保有する不良資産の全体像や最終処理のために必要な損失額は未だ明らかになっていないからだ。

 実体経済の悪化が予想外に進めば、不良債権額が膨張し、欧米金融機関への公的資金注入が追加して実施される展開も予想される。不良債権処理と資本増強のための注入が「いたっちごっこ」のように繰り返される可能性を指摘する声も国内金融機会からは出始めた。世界的な金融不安の霧は深まるばかりだ。

 <世界の公的資金注入枠は十分か>

 各国が一斉に態勢を整えた巨額の公的資金注入策。準備した注入資金の規模を見ると、米国は2500億ドル(約25兆円)、英国は500億ポンド(約9兆円)、ドイツは800億ユーロ(約11兆2000億円)、フランスは400億ユーロ(約5兆6000億円)。米国と欧州で総額6000億ドルを超える規模となった。

 国際通貨基金(IMF)は10月7日に発表した国際金融安定性報告書(GFSR)で、世界の主要銀行が今後数年間で必要とする資本増強額は6750億ドルと試算。「欧米各国で出そろった公的資金の規模は、ほぼ同水準になった」とある邦銀大手の幹部は評価する。

 ただ、懸念もないわけではない。GFSRは、米国の貸付債権と証券化商品の実現損失額の見込みを今年4月に発表した9450億ドルから1兆4000億ドルに引き上げた。IMFによると、9月末までに7600億ドルを処理(このうち主要銀行は5800億ドル)されたが、それでもまだ未処理の損失は6400億ドルに上る計算だ。

 米国の公的資金注入枠の2500億ドルの2.5倍の規模となり、これで本当にき損する資本を充当できるかどうかの懸念は払しょくできない。

 <日本に置き換えると、予防的注入だった佐々波委員会の段階との指摘も>

 もう1つの懸念は、欧米金融機関が保有する証券化商品などの不良資産の実態が、いまだ明らかにされていない点だ。公的資金注入が決まった米国の金融機関は9行だが、いずれも不良債権比率などを公表していない。「日本のケースに当てはめると、注入方法は1998年の金融危機管理審査委員会(佐々波委員会)のやり方に似ている」と金融庁幹部は語る。

 佐々波委員会は、大手銀行や一部地銀に対して1行当たり1000億円、総額約1兆8000億円の公的資金を注入。金融システム不安を未然に防ぐための予防的措置の色彩が強かったが、資産査定も行わない各行横並びとなり「金額も少なく、金融システム不安は解消されなかった」(先の金融庁幹部)。その後、投入を受けた旧日本長期信用銀行と旧日本債券信用銀行は破たんに追い込まれた。

 中央三井トラスト・ホールディングス(8309.T)の田辺和夫社長は16日の信託協会会長会見で、米国の公的資金注入の効果について「規模の上では(2003年の)りそなホールディングスへの公的資金注入をしたぐらいの段階だと思うが、違いは(米国金融機関の)損失額がはっきりしていない点だ」と分析。日本の場合、りそなへの資本注入前には、金融庁が主要行を対象に特別検査を実施し、最大損失額を確定させた経緯がある。先の金融庁幹部も「規模とスピードが違うが、欧米の資本注入のやり方は予防的措置の範囲だ」と話す。

 <今後は不良債権の処理損失と追加増資のいたちごっこの可能性も>

 時価会計の一時凍結という「劇薬を処方した」(大手銀行企画部)と言われるほどに切羽詰った信用不安だが、劇薬投与の効果が出れば、金融システム不安は一時的には遠のく可能性もある。

 しかし、実体経済の傷口が深くなっている現状で「欧米の金融機関はこれから、不良債権の処理と自己資本の強化のいたちごっこを始めるのではないか」(国内証券の銀行アナリスト)との指摘もある。

 実体経済の悪化は、銀行融資の担保価値を減少させ、銀行に追加損失を発生させる。追加損失を埋めるために自己資本の増強に走る金融機関は、さらに貸し渋りを強め、実体経済の悪化を引き起こす。これが日本経済を苦しませた負の連鎖だ。

 「欧米で始まった実体経済の悪化は、金融機関にさらなる損失計上を迫るのではないか」と大手銀行企画部幹部は言う。負の連鎖が始まるのかどうか。米不動産価格の下落に兆しが見えない中、実体経済の悪化と不良債権の膨張がスパイラル的に続く事態が発生すると、公的資金の注入額が急膨張するというのが「日本の失われた10年」での貴重な教訓だ。

 ある大手銀関係者は「米国は日本の経験に学んでいないようにみえる」と述べている。

 (ロイター日本語ニュース 布施 太郎記者;編集 田巻 一彦)

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