December 17, 2008 / 10:12 AM / 9 years ago

改正金融機能強化法、低まる公的資金注入のバー

 村井 令二記者

 12月17日、改正金融機能強化法で低くなる公的資金注入のバー、金融庁に裁量の余地。都内で11月26日撮影(2008年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

 [東京 17日 ロイター] 金融機関に公的資金を予防的に注入する改正金融機能強化法が17日に施行され、金融庁は国内の金融機関の破たんを未然に防ぐ手段を手に入れた。「中小企業金融の円滑化」を目的とする新しい公的資金制度の資本注入要件はあいまいで、自己資本不足の懸念がある金融機関への早期注入も可能。

 金融庁は、巨額の公的資金枠とともに与えられた「裁量」で、2009年3月末にかけて金融機関の自己資本を手厚くしたい考えだ。ただ、金融機関の救済に公的資金を投入すれば行政の規律を損なうおそれもあり、監督行政は難しいかじ取りを迫られている。

 「危機ではないが平時でもない。あえて言えば非常時だ」――。金融庁幹部は、国内の金融システムの現状をこうたとえる。世界的な金融危機が、日本の株価下落と実体経済を通じて金融機関の経営に影響を与え、国内の金融機関経営については「何が起きるか分からない状況で、先行きを見通せば、十分に資本があると言い切れるところは少ない」として資本充実の必要性を強く意識している。「10年前と違って世の中は公的資金に寛容」(同幹部)との考えもあり、改正強化法を使って、金融機関の資本不足懸念を解消したい考えだ。

 旧金融機能強化法は、公的資金を注入する金融機関の経営責任を問うルールが明確で、厳しさゆえに制度の利用は2件にとどまったが、改正法は注入要件を大胆に緩和した。早期是正措置の対象となる自己資本比率4%割れの銀行(国内基準行)への注入には「ずさんな経営」の場合に限って経営責任を問うが、4%を超えた銀行にとっては、圧倒的に公的資金を入れやすくなった。

 <制度の理解に揺れる金融庁>

 ただ、金融庁の多くの幹部は「健全な金融機関に中小企業融資を積極的にやってもらうための制度だ。不健全な金融機関に健全性を回復しろと注入する趣旨とは違う」と繰り返し強調する。もっとも「健全性の基準を下回っているところにも注入できるし、結果的にそうした趣旨になるケースも否定しない」と認めている。さらに「健全性の基準を上回っていれば、ずさんな経営でも責任は問われない。これを理解して、本当に自己資本が不足する前に入れてもらいたい」とストレートに指摘する声もある。

 別の幹部は「外的な要因で弱っている金融機関が倒れたりすると、預金者や借り手の被害が今よりさらに大きくなって、マーケット全体が、がたがたになる」との懸念を示す。金融庁は、預金の全額保護の必要性を否定しているが、非常時の金融システムで、当面は金融機関の破たんを回避させたい意図ものぞかせている。

 現行の危機対応のスキームでは、預金保険法102条があるが、大手銀行や大手地銀の債務超過を想定しており、公的資金の注入の際には、首相や金融担当相、日銀総裁を招集して金融危機対応会議を開く必要がある。改正強化法では破たん前の金融機関への予防的な対応が可能とも言えそうで「預金保険法の危機対応より前の段階で、よりマイルドな形で公的資金を使うことができる」との期待もある。

 実際に新制度の活用方法は幅広そうだ。7―8%の国内基準行の自己資本比率を10%超に引き上げるために使ってもいいし、4%割れの自己資本を10%に近づけるためでもいい。健全行への資本増強か、破たんの未然防止なのか──。新しい公的資金制度をめぐる金融庁内の理解は、株価や経済情勢に応じて揺れている。

 <現時点で一斉注入は否定>

 目先の関心は金融機関の申請だ。金融庁は「是非どんどんやっていただきたい」(中川昭一財務・金融相)とのスタンスだが、ある中堅幹部が「公的資金を自ら進んで入れたがる金融機関の経営者はほとんどいない。公的資金を入れれば悪い銀行だと預金者に見られることを銀行は恐れている」と指摘するように、公的資金への抵抗が強いことを認識している。

 このため金融庁は15日に緊急の財務局長会議を開き、全国の財務局管内の金融機関に制度の周知を要請した。さらに年内にも金融機関向けの説明会を開く。ここでは「困っている中小企業のため、健全行への公的資金だ」(中川財務・金融相)と強調する予定で、金融機関の公的資金へのマイナスイメージの払しょくに努める。

 先の中堅幹部は「金融機関には公的資金を有利に活用することを考えてほしい。政府は低利で調達できるので、銀行にとっては民間ファンドより安く資本を入れられる。さらに投資ファンドのように、経営効率を向上させろとか、高配当を出せなどと要求しない」とまでアピールしており、制度のスタートにあたり、金融機関の警戒感を解くのに苦慮する姿が浮かび上がっている。

 一方、政府は1998年3月の金融機能安定化法で大手21行に公的資金を横並びで一斉注入した。「まだその段階まで至っていない」(同)が、2009年3月末に向けて株価下落がさらに進んで地銀の経営に影響を与える事態になれば、現実味を帯びる可能性もある。

 <制度の運用ルールは不透明、難しい行政運営>

 改正金融機能強化法について五味広文・前金融庁長官(西村あさひ法律事務所顧問)は「今のタイミングで信用収縮を防止するために適切だ」として、足元の「非常時」の対応として理解を示す。一方で、経営再編や経営者の交代を求める仕掛けを外しただけに「ルールが不透明」と指摘している。このため「実際の制度運用が難しい」として、金融行政の負担に懸念を示す。

 弱い金融機関を弱いままで延命させないため、公的資本を入れる時に当局はいかに金融機関に条件を付けることができるのか、入れた後に経営強化の方向へどのように持っていくことができるのか。五味前長官は「金融庁は行政指導という形で促すことは可能といえば可能だが、ルールが不透明な中での指導は大変だ。裁量行政と批判されるリスクもある」と指摘する。

 改正強化法では、公的資金を注入する金融機関に3年以内の経営強化計画の提出を求めるが、収益目標の達成を厳しくは問わない。計画終了後の目標が3割以上下回れば報告を求めるが、業務改善命令の発動は「必要に応じて」検討することにとどめた。

 監督対応はあいまいだが、金融庁の監督局幹部は「裁量行政の批判はあるかもしれないが、国民の税金をリスクにさらしているので、公的資金を入れた金融機関には、責任を持って監督する覚悟を持っている」と述べた。

 一方で、注入したことを理由にあまりに過剰な当局介入が入ると、各金融機関の活力が失われてしまうというリスクにも配慮する必要がある。公的資金注入行に対しては「経営者の資質を見極めながら、少し濃密な監督が必要なところには、監視を強化することになる」とその幹部は説明する。

 2012年3月末を期限とする新しい公的資金制度は、注入要件を緩めたことで裁量の余地は広がったが、金融庁にとっては恣意(しい)的な行政ではないかとの批判がつきまとう可能性が高まる。五味前長官は「国民の税金をいい加減な判断で投入して、追加のミルクを補給しなければ破たんするという場面が来ることを恐れる」と指摘している。

 (ロイター日本語ニュース 村井 令二記者 編集:田巻 一彦)

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