February 3, 2009 / 9:01 AM / 10 years ago

白川日銀総裁記者会見の一問一答

 [東京 3日 ロイター] 白川方明日銀総裁は3日午後、金融機関保有株式の買い入れ再開について記者会見し「今回の措置は、金融システム安定の一種の安全弁の役割を果たす」とし、金融システム安定に力点を置いた措置であることを強調した。詳細は以下の通り。 

 2月3日、白川日銀総裁は、金融機関保有株式の買い入れ再開について記者会見した。昨年10月撮影(2009年 ロイター/Toru Hanai)

 ──リスク資産の買い取りの決定が続いているが、日銀の財務の健全性との兼ね合いでは難しい判断だったと推察する。そうした観点から改めて今回、リスク資産である株式を買い取ることの狙いは。 

 「今回の目的は、金融システムの安定ということであるが、そうした政策目的を実現していくということと、今質問にあった財務の健全性をどのように調和するかは非常に大事な論点だ。財務の健全性は、いつも申し上げている通り、単に日本銀行が自らのバランスシートをきれいにするという、そういう狭い意味ではなく、通貨を発行するというそういう大きな権限を与えられている組織として、それは当然健全性を確保していかないといけない。そのことが、通貨への信認を確保するという理解に立っている」  

 「(中略)財務の健全性を確保するために、今回もいくつかの措置を講じている。第1に、買い入れ総額を設定するとともに、買い入れ対象となる株式の信用度に一定の制限を設けた。第2に、株式の時価が著しく下落した場合には、減損処理を行うことにした。第3に、個別株でみて、減損処理をした後も、日本銀行の持っている株式全体として、時価の総額が帳簿価格の総額を下回る──つまり含み損が発生するという場合には、その差額に対して株式取引損失引当金というものを計上することにより、財務の健全性確保を図ることにした。政策目的は異なるが、先般発表した企業金融支援の措置においても財務の健全性を図るための措置を講じている。日本銀行全体として、物価の安定、金融システムの安定という政策目的を実現するための財務の健全性は、こうした措置によってきちんと担保されていると思う」 

 「われわれが改めて今回感じることは、金融機関の保有している株式の価格変動リスクというものが、改めて非常に大きなものであるということである。これは、個別金融機関の経営という観点からもそうだが、日本の金融システム全体からもそうである。従って、現在のような局面で年度末にかけて株価がさらに下がるかもしれないということを金融機関の経営者が意識すると、それは心理面でも行動面でも強いブレーキになってくるわけである。そういう意味で金融システムの安定性を維持するために、日本銀行としてどういうことができるのかといった場合、今回の措置は安全弁を提供するということを通じて貢献するということが背景である」 

 ──政府も株式買い取りの準備を進めているが、政府との役割分担は。

 「銀行等保有株式取得機構の株式買い取りが再開されると、同機構は日銀による株式買い入れと類似の業務を行うことになるのは事実。ただ、最近の内外の金融システムの状況を踏まえると、日本銀行としても金融機関からの株式買い入れを再開し、今後の株式保有リスクの削減努力を支援していくことが適当と判断した。政府の施策についてコメントすることは適当ではないが、日銀の措置は金融機関の株式保有リスクの削減を支援することで、金融システムの安定に力点を置いている」 

 ──これまでは金融仲介機能の回復などが理由とされていることが多かったが、今回は金融システムの安定を強調している。日本の金融界を取り巻く環境が変わったとの認識があるのか。 

 「今回の株式買い入れが日本銀行のどの政策目的に強く貢献するかを整理すると金融システムの安定になる。もちろん金融システムが安定すると経済に対してもいい影響をもたらすが、直接的な目的として意識しているのは金融システムの安定だ」

 「昨年9月以降の状況を考えると、世界の金融市場がより不安定になり、株価が現実に下落した。急速な景気後退を反映し、企業倒産あるいは信用コストが着実に増えてきているという変化はある。足元の欧米金融機関の動向を見てみると、不安定な地合いを高めていると思う。そういう意味で変化はある。日本の金融システムに対する見方を大きく変えたわけではないが、確実に昨年秋以降、状況は変化してきていると思う。注意して見ていく必要がある」 

 ──前回の買い入れ時に比べると金融システムの安定という大義名分はあいまいではないか。 

 「前回も今回も、同じように措置には意義があると考えている。前回はTier1を上回る株式保有となっている金融機関が少なからず存在した。当時、法律も制定され、Tier1の中に収めることが求められ、現実にTier1の中に収まってきた。金融システム・レポートでも詳しく分析しているが、今、大手の金融機関が負担しているリスクの中で、どのリスクが一番大きいかを見てみると、信用リスクではなく、株式の価格変動リスクが一番大きくなっている。株価はいろいろな要因で変動する。国内の景気の状況だけではなく、さまざまな要因で変動するが、現在のように国際金融市場が不安定になり、株価も下落する、そうしたリスクを常に意識しながら経営していかなければならないというのが、現実の日本の大手金融機関の状況だと思う。確かに株式保有の絶対額は減ったが、依然として株式保有リスクが一番大きなリスクという状況は変わっていない。客観情勢として世界の金融・経済が厳しい状況になっており、この課題の意味というのは、前回に勝るとも劣らない大きな課題だ 

 ──このタイミングで通常の政策委員会で決定した理由。株式持合いなどモラルハザードにつながることはないか。 

 「タイミングについては、国際金融資本市場の動きが一つの大きな要因。米欧において金融システムを巡る不安感が再び高まりを見せるなど強い緊張感を示している。そうした状況の中で年度末が接近していることがタイミングをを決めた(理由だ)」

 「今回の発表文でもうたっているが、日本銀行に株式の売却を希望する金融機関については、日本銀行は株式保有リスク削減に向けた基本的な考え方や取り組み方針、株式保有リスクに対応した自己資本保有の考え方など具体的な取り組み状況をモニターしていく。単に、このタイミングで株式を日本銀行に売って済んだ、ということではなく、日本銀行としては金融機関の取り組み姿勢をしっかりモニターしていくということが対になったものだ」

 ──前回の株式買い入れの効果をどのように総括しているか。今回の措置の企業への資金供給という点での影響は。 

 「前回の株式買い入れを行った時は、日本銀行だけでなく、政府も行った。それから日本銀行は金融政策面でも量的緩和政策を採用する、あるいはABCPを買うなどさまざまな措置を講じた。このことだけを抜き出して効果を正確に評価することはできないが、当時の金融機関の経営者、われわれの評価もそうだが、当時も最大のリスクであった株価の変動リスクを削減するという意味において、少なからず下支えの効果を持ったと思っている」 

 「このこと自体で金融機関がより積極的に融資をしていくということには、必ずしも一対一で対応するわけではないが、常に最悪の状況を意識するという要因を軽減していくことの意味は少なくない。結果として、金融機関が実際に株を売ってこなくても、年度末にかけて、いつでも日本銀行に売れるという安心感は意味があると思う」

 ──今回の決断の背景に、日本のメガバンクを中心とする金融機関の保有する株式の損益分岐点を意識したのか。仮に年度末にかけて一段と株価が下落した場合、買い入れ金額の拡大や買い取る株式の条件の緩和などを検討する余地があるのか。

 「個々の金融機関の損益分岐点の状況を意識して、今回決定したということではない。あくまでも全体としての日本の金融システムの状況をみて判断した」

 「今回発表した案が現時点では最も望ましいということで、判断、決定した。従って、今これを変更するということは考えていない」 

 ──金融仲介機能を担う金融機関による株式保有というビジネスモデルについてどう考えるか。

 「非常に難しい問いかけだと思っている。日本銀行として金融機関が株式を保有することは、一切望ましくないというように思っているわけではない。金融機関はいわゆる政策投資であれ、純投資であれ、株式の持っているリスクと採算性を十分意識し、その上で自らの体力との関係で最適な保有を考えていくというのが基本的な考え方だというように思っている」

 「そのように申し上げた上で、今の日本の金融システム、金融機関の現状をみてみると、やはり株式保有リスクが非常に大きい。信用仲介をしていくという金融機関のリスクの姿をみてみると、株価変動リスクが最も大きいというのは、やはり是正されていくべき話だというように思っている」 

 「なぜ株式の保有がなかなか減らないのかということを考えた場合に、最終的に一般企業の株式を誰が保有するのかという問題と密接に絡んで、それが表裏の関係にある。この5年間もそうで、個人の株式投資あるいは機関投資家の役割についていろいろな議論があったわけだが、われわれも金融機関のこの問題だけを捉えて問題が解決するというように思っているわけではない。これは、中央銀行という意味でも、政策を考えていく当局者という意味でもそうで、一般企業経営者もそうだが、現在の状況について、時間をかけて是正していかないといけないという意識を持つ必要があると思う。そのためには、今までそれが実現しなかったわけだから、そうした動きが進みやすいような環境を制度的にも作っていくということが必要だと思っている。それが何であるかについては、これから関係者がさらに知恵を集めて議論していくべき話だと思う」

 ──政府から株買い取りを早めにやってほしいとの要請があったのか。買い取り総額を1兆円とした根拠は。

 「政府からタイミングについて要請があったかということだが、それはない。金額については、前回は当初2兆円に設定し、最終的に3兆円になった。今回は、前回に買い入れた株式の一部として1.2兆円の残高を保有していることや、前回の買い入れ開始時に比べて金融機関の株式保有額が減少していることなどを総合的に勘案して1兆円という規模にした。金融機関の株式保有額は、当時に比べて大手行と地域銀行の合計で4割減少している。そうしたことを勘案して1兆円という金額にした」 

 ──日銀の今日の決定は株価下支えを、どの程度考えたものなのか。もうひとつ、日銀が株式の持ち合いシステムを温存する役割を果たすことにならないか。

 「株価対策、下支えという意味合いはない。あくまでも金融機関の株式の保有リスクを削減するという努力を支援するもので、株価対策ではない。2つめだが、日銀は確かに株式を買い入れるが、今回発表にもあるように、これは一定期間の後、株式を売却していくということが決まっている。売却する手続きも直前まで、今年の秋まで売却していたが、売却の手続きも決めている。したがって日銀が株式を買うことで、将来にわたって現在の持合体制を温存するということにはならない。株式を金融機関自身が売却したいが、色々な理由でなかなか売れないという時に、日銀が一定期間保有するというものなので、懸念されているような事態にはならないと思う」

 ──景気対策として政府紙幣を発行したらどうかという議論があるが、中央銀行としてどう考えるか。

 「政府紙幣の発行は、その仕組み如何によって、実質的には将来の返済が必要な資金調達である国債の市中発行と同じことなのか、あるいは通貨の信認を損なうほど大きな弊害を伴う無利息の永久国債の日銀による引き受けということと同じなのか、そのいずれかになるというふうに思う。政府紙幣が現在の貨幣、コインと同じ仕組みで発行されるケースを仮定して考えると、次のようなことになる。現在の貨幣、コインは市中から日銀に還流してきた段階で、政府においてこれを回収するための財源が必要となるという仕組みなので、政府紙幣もこれと同じになる。したがって、この場合、政府紙幣の発行は結局は、政府紙幣が戻ってきた段階で資金調達が必要になるという意味で、これは国債の発行と実体的に変りないと思う」

 「他方、政府紙幣が市中から日銀に還流してきたときにも、仮に政府がこれを解消せず、日銀に保有させ続けるという形で政府紙幣が発行されるというケースを仮想的に考えてみると、この場合、確かに政府は回収のための財源を必要としないことになる。しかし、この仕組みも日銀に無利息かつ償還期限の無い政府の債務を保有させる点で、これは無利息の永久国債を日銀に引き受けさせるということに等しく、これは大きな弊害が生じる。弊害の中味だが、日銀券の裏づけとなる日銀の資産として、無利息かつ転売不能な資産を保有することになり、円滑な金融調節が阻害されたり、日銀の財務の健全性が損なわれることへの懸念を通じて、通貨に対する信認が害される恐れがある。また政府が、日銀による国債の直接引き受けと同じ仕組みにより、恒久的な資金調達を行うことが、国の債務返済にかかる能力や意志に対する市場の懸念を惹起して、長期金利の上昇を招く恐れがある。政府紙幣の発行については政府が判断する事項ではあるが、以上言った点を踏まえると、非常に慎重な考慮を要すると考えられる」

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