June 22, 2009 / 7:34 AM / 11 years ago

新エネつなぐスマートグリッド、需要制御にはプライバシーの問題も

伊賀 大記記者

 6月31日、次世代送電網「スマートグリッド」が脚光を浴びている。写真はドイツの高圧送電線。3月撮影(2009年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

 [東京 22日 ロイター] 次世代送電網「スマートグリッド」が脚光を浴びている。オバマ米大統領が景気対策の柱のひとつとして打ち出したことで一気に注目が集まった。

 天候次第という不安定な発電方法である太陽光や風力からの「質の悪い」電気を安定させるほか、電力需要をコントロールし省エネにつなげるという究極の送配電システムだ。ただ日本ではすでに世界最高レベルの「スマート化」が進んでいるほか、需要コントロールには個人のプライバシーに抵触するなど問題も多い。短期的には新興国などへの技術輸出がビジネスとして有望視されている。

 <新エネルギー普及が電気を「質悪」に>

 緯度40度より北にある土地は冬に偏西風が吹きやすく風力発電に適している。東北電力(9506.T)はその地域特性を活かし風力発電を拡大させており、現在47万キロワットの風力発電を電力網に組み込んでいるが、蓄電池を付けて電力を平準化したとしても118万キロワットを超える規模になると現在の送配電システムでは問題が生じる可能性があるという。風の強さで発電量が変化する風力発電からの「逆流」で周波数が安定しなくなり「電気の質」が落ちるためで、製紙パルプ工場などでは紙の品質が不ぞろいになるおそれがある。

 費用対効果に関し議論はあるが、CO2排出量削減のため太陽光発電や風力発電など「ECO」なエネルギーは政府の後押しもあり、今後も増加する見通しだ。麻生太郎首相は2020年の温室効果ガス削減の中期目標について2005年比で15%減の削減を目指すと先日表明した。2020年に太陽光発電を現行の20倍にすることを目指すという。

 だが、このまま新エネルギーによる分散型電源が増加すれば、現状の送配電システムでは、いずれ問題が生じる可能性がある。

 日本の太陽光発電は2008年3月末で約192万キロワット規模。世界最高レベルの送配電システムを持つ日本でも太陽光発電で1000万キロワットまでは対応できるが、それ以上導入が進むと不安定化のおそれがある。さらに電力の不安定化が進むと欧州でみられたように大規模停電の可能性も出てくると想定されている。

 「スマードグリッド」と呼ばれる次世代送電網は、こうした分散型電源時代における不安定な電気を情報通信機器を組み込み(スマート化)、安定化させる次世代の送電網(グリッド)だ。

 具体的には、送電ネットワークの監視や停電範囲を最小化する自動制御システムの導入や、一般家庭や工場などに蓄電池を配備し、新エネルギーからの不安定な電気を安定化させる一方、スマートメーターやスマート分電板を使って消費電力をコントロールすることなどが考えられている。

 米国のオバマ大統領が景気刺激策の柱のひとつとして、再生可能エネルギー向けの新たな電力系統建設などを含む「スマート・グリッド」プロジェクトのために45億ドル(約4500億円)を充てる計画を示したことなどから、一気にマーケットの注目を集めることになった。

 <米計画の90%は日本で達成済み>

 ただ「オバマ大統領の計画の90%は日本で達成されている」(UBS証券シニアアナリストの伊藤敏憲氏)といわれるほど、日本の送電・配電システムはすでにスマート化(高度化)している。

 1軒あたりの年間停電時間(2007年)は東京電力の4分に対し米国は97分だ。米国では送電線も古く停電も多いために、この際一気にシステムを変えてしまおうとしていると言われている。

 一方、日本では送電ネットワークの監視や停電範囲を最小化する自動制御システムはすでに導入されている。このため現時点でのビジネスチャンスというのは日本国内ではそう大きくないとみられているが、世界最高レベルの日本の省エネ技術を海外に輸出できるという期待はある。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は今年4月に米国のニューメキシコ州政府経済開発総局との共同主催で「スマートグリッド」に関する日米共同ワークショップを開催した。日本からは三菱電機や日立製作所、パナソニックなど20社近い企業が参加した。

 同米州内でスマートグリッドが導入されるかは現在検討中だが参加企業の公募には多くの日本企業が応募するとみられている。

 欧米の電力網は日本とシステムが違うため、日本の技術をそのまま「輸出」するのは難しい。また電力システムは安全保障にもかかわってくる問題であり、海外企業をそう簡単に入れるわけにはいかないという事情もある。

 ただ、省エネ技術が必要とされるこれからの時代、石油ショック後の日本が培ってきた世界最高レベルの省エネ技術を外交カードとしても発展途上国などに売り込むべきだとUBS証券の伊藤氏は主張する。「これまでの環境外交は日本の失敗だ。日本の資金で外国の省エネが進んでも一般の人は誰も日本のことをほめてくれないし事実さえ知らない。もっと外交カードとして有効に使うべきだ」という。

 企業でも中長期ではスマートグリッドを有望な一分野とみており、日立では制御系機器などの電力システムと通信機器の2つの技術を持つメリットを活かしていく方針で、2015年度のスマートグリッド関連事業の売り上げは800億円(うち海外は160億円)を計画している。

 <電力の需要コントロールは覗き見か、プライバシーの問題>

 スマートグリッドの究極の姿は需要コントロール「DSM(ディマンドサイド・マネジメント)」だ。エアコンで電力需要がピークになる夏の暑い日。電力会社などからのコントロールで、必要のない機器の電源を切ったり、エアコンの温度を下げたりする──そんな姿だ。

 また普及の緒についた電気自動車のバッテリーを蓄電池として使うアイデアもある。一般家庭の太陽光パネルや風力発電機で発生させた電気を電気自動車のバッテリーに貯め、太陽の照らない夜などに使ったり、電気自動車を持たない家に融通する構想が持ち上がっている。

 だが、そうした未来の社会に至るまでには解決すべき問題も多い。物置と同じくらいの蓄電池を庭先に置ける家庭は多くないだろう。今の蓄電池の性能ではそのくらいのサイズが必要になる。コンパクトなサイズで何回もの大量の充電・放電に耐えられる蓄電池はまだない。 

 またDSM導入には国民のコンセンサスが不可欠だ。家庭のどの機器のスイッチがオンになっているかまでコントロールする側は把握できるためプライバシーの問題が出てくるためだ。ある電力会社が試しにDSMを女子社員の家に実施したところ、いつ風呂に入って寝たかまでわかってしまうと不評だったという。電力需要のピーク時に供給電力を抑えるといっても、どの機器への電力を抑えるかという同意を予め得ておく必要がある。電力会社側にとっても「管轄の世帯全部をコントロールするのは技術的にも大変だ」(大手電力会社)という。

 夢を買うのが株式市場のロマンのひとつであり、関連銘柄には短期筋の物色もみられる。ただ「収益としてあがってくるのは10年先」(国内投信ファンドマネージャー)と投資に慎重な長期資金も多い。

 <4月のNEDOの日米ワークショップに参加した主な企業>

三菱電機(6503.T)、日立製作所(6501.T)、パナソニック(6752.T)、三菱重工業(7011.T)、住友電気工業(5802.T)、東芝(6502.T)、東京電力(9501.T)、富士電機システムズ、シャープ(6753.T)、清水建設(1803.T)、伊藤忠商事(8001.T)、日本ガイシ(5333.T)、東京ガス(9531.T)、関電工(1942.T)、NTTファシリティーズ、京セラ(6971.T)、富士通研究所(米国)

 (ロイター日本語ニュース 編集 橋本浩)

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below