[マニラ 7日 ロイター] - 新型コロナウイルスの感染拡大でリモート学習を余儀なくされるようになって以来、マニラの貧困地区で暮らす10歳のジェイ・アル・カルマ君は頻繁に自宅のトタン屋根の上によじ登らなければならない。そうしないと、インターネット接続のための電波が届かないからだ。
屋根の上で、ジェイ君はプラスチック製の壊れた洗面器に座り、政府から支給された機器に十分な強度の信号が届くことを願う。
「ときどき、屋根の上で勉強しなくて済むようにSIMカードを交換して別のプロバイダーを試してみるが、家計にそれだけの余裕があることはめったにない」と母親のジョナリン・パルランさんはロイターに語った。
フィリピンの子供たちにとって、年明けには教室に戻れるのではないかという希望は霧散してしまった。ドゥテルテ大統領が感染リスクの低い地域で対面授業を試みる計画を撤回し、授業再開を無期限で延期したからだ。同国の新型コロナウイルス感染者は48万人を超え、東南アジアでは2番目の多さとなっている。
オンライン授業、自習用モジュール、テレビ・ラジオ講座への移行は、フィリピンでは困難を極めている。人口1億800万人の同国では、インターネット接続可能な世帯は全体の5分の1に満たず、必要な機器を所有していない世帯も多いためだ。教育省によれば、退学する学生・生徒の急増がすでに見られるという。
<教室は山の中、墓石の上>
マニラ南方に位置するラグナ州では、学生らが電波状況のいい場所を探して山を歩き回り、雨露をしのぐ小屋を建て、宿題で遅くまで勉強するときはそこで寝泊まりもしている。
19歳のローズマイン・ゴンザガさんが思い描いていた大学生活とは似ても似つかぬ状況だ。
「生まれてからずっと、こんな山の中で暮らしてきたから、大学に行くのは本当に胸躍ることだった」とゴンザガさんは言い、街中で独り暮らしをする計画がパンデミック(感染の世界的大流行)のせいで台無しになってしまったと説明する。
同じ地域の学生の多くと同じようにゴンザガさんも奨学金に頼っているが、授業についていけなければそれも打ち切られてしまうのではないかと気を揉んでいる。それでも、大学に通って感染リスクを負うよりも、オンラインでの受講を続けようと心に決めている。
「私にとって、パンデミックは勉強を止める理由にはならない」とゴンザガさんは言う。
バタンガス州サンファンに住む18歳のマーク・ジョゼフ・アンダルさんは、オンライン講義を受けるためのスマートフォンを購入しようと建設業のアルバイトに励んだ。インターネット接続の電波を拾うため、森のなかに勉強のための小屋も建てた。
電波が弱まると、アンダルさんはプラスチック製の椅子を手に、別の場所に移動する。雨が降れば、片手に傘、片手にスマホだ。
アンダルさんに言わせれば、選択の余地はない。「うちは金持ちではない。育ててくれた両親に報いるには、きちんと学校を卒業するしかない」
アンダルさんは、学校が再開すると聞いて安堵と恐怖の双方を感じた、と認める。パンデミック下の辛い学習環境を経て、成功しようという決意はさらに固くなったという。
「こうした境遇に負けずに自分を高めていくため、授業でもっと積極的になりたいし、もっと辛抱強くなりたい」と彼は言う。
自宅で子どもの勉強を見てやるのが困難な家庭も多い。
11歳のラブリージョイ・デ・カストロちゃんは、マニラ市内の墓地にある仮設住宅で暮らしている。ときには、墓参客向けの鶏肉料理を作る家族の邪魔にならないよう、墓石に座って勉強していることもある。
祖母のアンジェリン・デロス・サントスさんは、「学校の勉強を十分に見てやれないということは分かっている」と話す。「でも、商売をきちんとやらなければ子どもたちに食べさせてやることもできない」
「学校を卒業して良い仕事に就き、いずれはこの墓地の外での生活を見つけてほしいと願うばかりだ」
(翻訳:エァクレーレン)
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