[ロンドン 18日 ロイター] -
満期30年、50年、さらには100年といった超長期の国債を発行する国が増えている。超低金利に乗じて資金を借り入れるのが狙いだ。投資家側も、わずかでも利回りが高ければリスクを無視して買うのにやぶさかではない。
ドイツのノルトライン・ウェストファーレン州(NRW)は5日、満期100年の債券を発行して20億ユーロを調達した。フランスは18日、近く満期50年の国債を発行すると発表した。同国がこの年限の国債を新規発行するのは2016年以来のことだ。
メキシコとインドネシアも50年債を発行するなど年明けから動きは活発で、今年の超長期債の発行額は16年の水準に近づく可能性がある。この年はユーロ圏各国による満期30年以上の国債発行総額が190億ユーロと、過去最高に上った。
バークレイズのリー・カンベス氏は「16年のようになってきた」と指摘。「投資家からの確実な需要と、発行体が現在示している見通しを踏まえると、今年もこうした起債の多い年になりそうだ」と語った。
発行体側にとって迷う余地はない。超長期債を出せば、中央銀行の緩和策によって過去最低水準に押しつぶされた金利で借り入れを固定することができるからだ。
各国政府には、コロナ禍対応で急増した借り入れを平準化したいという思惑もありそうだ。ソシエテ・ジェネラルの推計によると、ユーロ圏だけでも今年の国債発行額は正味5410億ユーロと、昨年の5310億ユーロから増える見通しとなっている。
多くのユーロ圏諸国は10年の債務危機以来、低金利を背景に国債の平均残存期間を伸ばしてきた。
しかし市場全体から見ると、超長期債は依然としてほんの小さな割合を占めるにすぎない。ラボバンクのデータによると、昨年はユーロ圏諸国の国債発行額がグロスで推計1兆2300億ユーロだった中で、超長期債は約146億ユーロにとどまった。
しかし投資家側にとっては、超長期債にはリスクがある。何より怖いのは、インフレが頭をもたげて債券価格をむしばむことだ。年限が伸びれば伸びるほど、そうしたデュレーションリスクも大きくなる。
しかし世界中にマイナス利回りの債券が約17兆ドルも存在している現実を前に、ファンドマネジャーは数ベーシスポイント(bp)でも利回りの高い資産を追い求めている。そこで解決策の一つが、購入する債券の年限長期化になる。例えばフランスの既発国債で見ると、10年債の利回りがマイナス0.3%なのに対し、50年債ならプラス0.5%が得られる。
あるバンカーは「投資家は利率1%のNRW州債を買いたいわけではないが、超長期債を買わざるを得ない」と説明する。
NRW州債の発行に関わったバークレイズのカンベス氏によると、同州は3年連続で100年債を発行しており、回を追うごとに応募額と発行額が増え、タイミングもそのたびに前倒しになってきている。
<100年債の発行相次ぐ>
ウォルト・ディズニーやコカ・コーラといった企業までもが、これまでに100年債を発行した実績がある。ソブリン債を見ても、メキシコは10年に初めてドル建てで100年債を発行しており、オーストリアが100年債の発行を始めたのは17年だ。
オーストリアが昨年発行した100年債は、応募額が発行額の約9倍に達した。
ペルーとイスラエルも昨年100年債を発行。アルゼンチンが17年発行の100年債でデフォルト(債務不履行)を起こした事実にもひるまず、投資家は積極的に応募したもようだ。
モルガン・スタンレーのアナリストノートによると、新興国市場では近年、債券供給総額に占める超長期債の割合が増えて3分の1近くに達した。
しかも年限は35年以上へとさらに長期化しており、昨年の35年以上の新興国ソブリン債発行額は推計240億ドル相当と、19年の8倍以上に増えたという。
欧州で100年債を発行する国が増えると予想するアナリストはほとんどいない。よりなじみの深い50年前後にとどめるとみられ、スペイン、イタリア、ベルギーなどがこうした年限の国債を発行しそうな候補国だ。
しかしサクソバンクのアルテア・スピノッジ氏は、イタリアが利率2.5%前後で100年債を発行しそうだと予想する。
超長期債発行拡大の流れの中で、例外となるのは世界最大のソブリン発行体である米国かもしれない。
米国は昨年、1986年以来初めてとなる20年国債を発行した。伝統的な年限を狙う余地がなおあると考えている証拠かもしれない。
(Dhara Ranasinghe記者)
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