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コラム:米トリプル高は終焉へ、鍵握る欧米勢のポートフォリオヘッジ=高島修氏

[東京 21日] - ドル/円は110円前後で方向感を欠く商状だが、最近の為替相場予想では最高難度の展開が続いている。正直なところ、筆者自身も今の相場を読み解く確信のある答えを持ち合わせていないが、1つの鍵は欧米投資家の「ポートフォリオ・ヘッジ」が握っているのではないかと推理している。

 7月21日、ドル/円は110円前後で方向感を欠く商状だが、最近の為替相場予想では最高難度の展開が続いている。写真は米ドル紙幣。5月撮影(2021年 ロイター/Dado Ruvic)

やや複雑な取引だが、これを考慮しながら最近の相場展開を考えると、最高難度の現在の相場もすっきりと理解できるようになる。その行き着く帰結は向こう数カ月間でまず、107円前後へのドル安・円高の進行でないかと考えている。

<欧米投資家による米ドル買いの謎>

シティグループが独自にフロー環境を集計、指数化しているポジション指数を見ると、6月にリアルマネーと呼ばれる長期投資家が大規模な米ドル買いを行ったことが示唆されている。ここにはアセットマネジメント会社や年金、保険会社などが含まれ、この間、米ドル以外のほぼ全ての通貨がリアルマネー投資家によって売られた。

その中でも特に激しく売られたのが、NZドルと新興国通貨であり、米株高が進行するリスクオン環境下で、リアルマネー投資家のポジションがむしろ明確なリスクオフ型に転じたことがうかがえた。

従来、為替市場のロジックは「リスクオンは米ドル安、リスクオフは米ドル高」であったが、6月はこの長期投資家による買いが「リスクオン的な米ドル高」を演出した。しかも、この間に米長期金利は低下基調をたどった。例えば、3月末に1.7%を超えた米10年国債利回りは足元で一時、1.2%台を下回る展開となっている。

今年1-3月期のように、米株高でも米金利が上昇する局面で米ドル高が進むことは往々にしてあるが、米金利が低下する中でリスクオン的な米ドル高となることは近年ではかなり珍しい。つまり、この1カ月間は異例な米ドル高が進行してきたということだ。

その際に筆者が疑ってきたのが、海外リアルマネー投資家を中心に、米株などリスク資産の値上がりを受けて、それを保有するポートフォリオのリスク・ヘッジ手段として、為替市場で逃避通貨とされるようになった米ドルのロング・ポジションを保有することが志向されたのではないかということだった。

<ポートフォリオ・ヘッジとは>

実は、同じようなことを昨年後半にも経験した。昨年春、新型コロナ・ウイルス危機の発生を受け、世界的な金利低下となったが、そのころから海外投資家の間でよく話題になるようになったのが、「ポートフォリオ・ヘッジ」に伴う円買いやスイスフラン買いだった。

察するに、米金利の低下余地が極めて乏しくなり、価格の上昇余地をなくした米国債など安全資産が米株などリスク資産を保有することのリスク・ヘッジ機能を喪失。その代替手段として為替市場において、逃避通貨でのロング・ポジションを保有することが検討されたのではないかと思われた。

ところが、そうしたポートフォリオ・ヘッジ需要が出てきたことで、米株高が進むにつれて、円買いやスイスフラン買いが誘発されるため、皮肉なことに米株などリスク資産とドル/円やドル/スイスの相関が崩れてしまった。

こうした中で、今年1-3月期に米金利が急激に上昇し、価格が反落した米国債が従来のようなリスク資産を保有するためのヘッジ機能を回復。円やスイスフランのロング・ポジションを手仕舞う動きが活発化し、1-3月期の円やスイスフランの急落につながったと見られる。

円やスイスを見限った海外投資家は、最近では「第3の逃避通貨」として着目するようになった米ドルでリスク・ヘッジのためのロング・ポジションを作ったのではなかろうか。

米株などリスク資産の動向に敏感なのは、新興国通貨に加え、豪ドルやNZドルなどの資源国通貨(英ポンドなど含めハイベータ通貨とも呼ばれることもある)である。そのため、米株高とともに原油・資源相場が強含む中で、本来上昇するはずの資源国通貨がむしろ売られることになった。

その結果、原油・資源相場と豪ドルなど資源国通貨の相関も崩れ、そもそも金利差やリスク選好との相関を失った為替市場の状況をより複雑に見せる結果にもなった。

だが、そうした最高難度の商状もこのように投資家のポートフォリオ・ヘッジの存在を考慮すると、多少なりとも理解が容易になる。

こうしたヘッジ行動は価格上昇が進む米株などリスク資産をヘッジしたいという「リスクオン環境」における投資家の「リスクオフ的なメンタリティ」によって誘発される。

昨年の米金利低下局面での円買い、スイス買いに続き、こうした動きが最近、改めて活発化した背景には、6月の米公開市場委員会(FOMC)でのタカ派サプライズを受け、2年など中期ゾーンを主体とする米金利上昇による米株反落をトリガーするようなリスクに対し、警戒感が高まったためではないかと思われる。

<米トリプル高の次に来る現象は何か>

もちろん市場参加者の投資行動はそれぞれであり、全ての投資家が米ドル買いに動いてはいないことは言うまでもない。1─3月期の金利上昇の後、古典的なヘッジ手法である米国債を買い持ちにすることを選択した投資家もいたはずだ。これが為替相場でのドル高とともに、米国債価格の上昇、すなわち10年のような米長期金利の低下を促してきた可能性がある。

こうした中で米株、米国債、米ドルのトリプル高が演出されたが、恐らくその出発点にあるのは、ほぼ一本調子に史上最高値更新を続けてきた米株だ。その将来的な価格調整リスクをいかにマネージするかということが欧米投資家の間で大きな課題になっており、様々なマーケットにその余波が及んでいることを感じさせる。

つまり、今のグローバル・マーケットの中心には米株高がある。枝葉末節に目を奪われ、この本質的なところを見落とさないようにしたい。

とは言え、昨年、円やスイスのロングが機能しなかったように、そうした逃避通貨買いはその行為自体がリスク資産と為替相場の期待された相関を崩してしまい、ヘッジ手段としての機能性を低下させるものになってしまう。

上述した通り、為替市場ではこのところ「米ドルは逃避通貨」との認識を深めているが、これは昨年の「米株高などリスクオン─米ドル安」との見方の裏返しとして、やや安直に「米株安などリスクオフ─米ドル高」との認識が導かれた可能性が高い。

だが、経常赤字国通貨の米ドルを円やスイスのような経常黒字国通貨と同じように逃避通貨として扱う、その根拠は薄弱であると感じる。

こうした点を踏まえると、今後、特に警戒しておかなければならないのは、本格的な米株安が発生した時に生じうる「リスクオフ的な米ドル安」だろう。米株下落に際して、ポートフォリオ・ヘッジで抱える米ドル・ロングの損益確定のため米ドル売りが誘発される可能性があるからだ。

正直なところ、どこでその動きが出てくるか予測が難しい。米株高トレンドがなかなか崩れない中、そうしたリスクシナリオにいつ転じるかの予想は難しいが、為替相場における次の大きな値動きは、米株安への相場転換の下で生じる可能性が高いと思う

S&P500指数などが50日線や100日線など重要なテクニカル・ポイントを割り込むようになった時にはその都度、持ち高調整的な米ドル売り戻しが発生することに警戒感を高める必要があろう。

その場合、米ドル安は円やスイスのみならず、やはり経常黒字国通貨である対ユーロでも生じうる。米株安のようなリスクオフは全面的な米ドル高との先入観で見ていると、足をすくわれかねないので注意しておきたい。

ドル/円は目下、昨年後半の基調的なレジスタンスだった50日線がサポートとなってきたが、そこから下振れし始めた。もう一段下がると100日線も割り込む。その場合、200日線(107円前後)への下振れに警戒感が高まるだろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

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