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アングル:海面上昇のリスク、「計画的撤退」を検討する米加州

[ワシントン 20日 トムソン・ロイター財団] - 三方をサンフランシスコ湾に囲まれたリッチモンド市の住民にとって、海のそばで暮らすのは日常だ。だが、気候変動に伴う水位の上昇によって海がますます間近に迫る恐れが生じており、トム・バット市長もその懸念を隠そうとしない。

 7月20日、三方をサンフランシスコ湾に囲まれたリッチモンド市の住民にとって、海のそばで暮らすのは日常だ。写真はサンフランシスコのオーシャンビーチ。2020年3月撮影(2021年 ロイター/Stephen Lam)

海抜の低い半島に位置するリッチモンド市を代表して、バット市長は「海は実際のところ、リッチモンド市のかなりの部分を侵食してしまう」と語る。リッチモンド市の人口密度の高い地区やエレガントな海沿いの邸宅、断崖上のコテージを太平洋と隔てるのは、わずかに道路1本、あるいは細長いビーチだけだ。

リッチモンド市の一部地域は、今世紀中に海面が約90センチ上昇することで危険にさらされると推測されている。だが、カリフォルニア州付近の太平洋の海面は、気候変動により今世紀中にもその2倍以上も上昇すると予想されているのだ。

太平洋沿岸各地の地方自治体では、防潮堤の建設から生物を活用した沿岸部保護に至るまで、想定しうる解決策が議論されてきたが、いずれも巨額の費用を要し、コストを賄う方法を見出した例はない。ただし「これまでは」という限定付きだ。

カリフォルニア州で新たに提出された法案では、リッチモンドなどの市当局が、希望する売り手からリスクの高い沿岸部の不動産を買い取り、居住が不可能になるまで元のオーナーなどの借り手に賃貸するための資金を長期低利で貸し付ける回転融資基金が設立される。

この構想は、沿岸部の都市が海面上昇からどう逃れるかという課題に対処する最初の戦略的取組みとされる。バット市長などの地方自治体首長にとっては、賃貸料により歳入を維持するという効果もある。

この法案の提案者でもあるカリフォルニア州のベン・アレン州上院議員は電話取材に応じ、「これは地方政府関係者が直面している非常に面倒な政治的難問だ」と語った。

ロサンゼルス周辺地域を選挙区とするアレン議員によれば、地方当局者は、沿岸部の不動産オーナーから、豪奢な邸宅を含む不動産を守るために防潮壁を建設できないかとの問い合わせを受けているという。

だが防潮壁の建設については賛否が分かれており、コストの高さや環境への影響、耐用年数が比較的短いといった批判がある。

<「計画的撤退」>

フロリダ州マイアミビーチ近くでの集合住宅崩落事故を受けて、ここ数週間、海面上昇が沿岸部の都市や建物に及ぼす脅威は注目されつつある。この崩落事故については、複数の専門家が、気候変動が1つの要因になった可能性があると示唆している。

非営利団体「憂慮する科学者同盟」による2018年の報告書によれば、全米では約30万戸の沿岸沿いの住宅(約1180億ドル相当)が2045年までに浸水頻発のリスクに晒されるという。この報告書では、今世紀末までに1兆ドル相当の住宅が同様のリスクを抱えると見ている。

研究を主導した「憂慮する科学者同盟」の気候・エネルギー政策担当ディレクター、レイチェル・クリートゥス氏は、「水面下に沈む前に、こうした浸水事象が頻発するようになり、物件の価値は大幅に低下する」と語る。

アレン議員が提出した法案は、カリフォルニア州議会の一方の院で可決され、現在は他方の院で審議中だ。海を寄せ付けないように努力するのではなく、海面が上昇する太平洋から都市を退避させる可能性を提供する趣旨だ。

州機関であるカリフォルニア沿岸委員会のサラ・アミンザデー委員はこの法案に賛成票を投じ、「これは今までにカリフォルニア州で見られた最も画期的な提案の1つだ」と語る。

「今後20年ないし50年で沿岸全域に防潮堤を築くのは望ましくないし、その資金もない。したがって、対策の主軸は『計画的撤退』ということになる。つまり、内陸部への移転により、沿岸に余裕を持たせることだ」

「今回の政策提案は、どうすれば計画的撤退が成功するか考える最初の1歩になる」

トムソン・ロイター財団が閲覧した文書によれば、アレン議員の法案はサンタモニカ市の他、ロサンゼルス周辺の20近い自治体を代表するサウスベイ地域自治体協議会の支持を受けている。

<富裕層救済との批判も>

だが、この法案のアプローチに対しては批判もある。カリフォルニア州の海岸沿いに点在するビーチハウスや邸宅には数百万ドルもの価値があり、そうした不動産を保有する、米国で最も富裕な人々に事実上の補助金を与える仕組みである、と主張する人もいる。

「公的資金を必要もなくムダ遣いして、沿岸部の不動産のオーナーをリスクある投資から救済するものだ」と語るのは、非営利団体「公正な経済のための戦略行動」で政策アナリストを務めるチェルシー・カーク氏。

「オーナーたちは、自らの私有財産の価値が低下していく中で、それをどう処分すべきか判断するために必要な情報を持っている。むしろ、手頃な価格の住宅を切実に求めている数十万人のカリフォルニア州民を支援するために予算を使うべきだ」

リッチモンドから南に数百キロ離れたロサンゼルス郡ハモサビーチ市では、ジャスティン・マッセイ市長がこの法案の仕組みについて、自治体の歳入を維持しつつ浸水の被害を受ける住宅オーナーを救済するものとして歓迎している。

ただし同市長は、前述のカーク氏同様の懸念も口にしている。

「唯一の問題は、海面上昇のリスクに晒される地域に(略)建設された私有財産を救済するために公的資金を使うという点だ」とマッセイ市長は言う。

「憂慮する科学者同盟」のクリートゥス氏は、回転融資基金は検討に値すると述べつつも、それが長期的なソリューションになるのか疑問を呈している。

ある地域で多くの住宅がこの制度の対象になってしまえば、「突然、荒廃したコミュニティーのように扱われるのではないか。そこに取り残されるのは誰なのか」とクリートゥス氏は言う。

沿岸部の住宅が居住不能になった場合、そこの住民はどこに行くのか、という疑問もあるとクリートゥス氏は言う。別の場所に新たなコミュニティーを公正に築くために、また別の回転融資基金を設けるという戦略が出てくるかもしれない、と同氏は示唆する。

「インフラを移動させて人々を危険な地域から救い出すことが目標であれば、そうした最終的な措置が必要になる」

(翻訳:エァクレーレン)

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