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焦点:インフレ抑止の痛みは世界に波及へ、新興国打撃に懸念

[ジャクソンホール(米ワイオミング州) 29日 ロイター] - 世界の金融当局トップからのメッセージは明瞭だ。急速なインフレは今後も続き、抑制には並外れた努力、おそらく雇用喪失や新興国市場への衝撃を伴うリセッション(景気後退)が必要になる、というものだ。

 世界の金融当局トップからのメッセージは明瞭だ。急速なインフレは今後も続き、抑制には並外れた努力、おそらく雇用喪失や新興国市場への衝撃を伴うリセッション(景気後退)が必要になる、というものだ。写真はブエノスアイレスのマーケットで2021年6月撮影(2022年 ロイター/Agustin Marcarian)

それでもその代償は払う価値がある。各国中央銀行は何十年もかけてインフレ対応力への信頼を築いてきた。この戦いに敗れれば、現代金融政策の根幹を揺るがすことになりかねない。

欧州中央銀行(ECB)のシュナーベル専務理事は「信頼を取り戻し維持するためには、インフレを迅速に目標水準に戻すことが必要だ」とし、「インフレが高止まりすればするほど、購買力を守るためのわれわれの決意と能力に対する国民の信頼が失われるリスクが高まる」と警鐘を鳴らす。

成長が鈍化し、人々が職を失い始めたとしても、中銀は取り組みを続けなければならない。

「たとえ景気後退に突入しても、政策路線を継続する以外に選択肢は乏しい。インフレ期待の安定が失われれば、経済への悪影響はさらに大きくなる」とシュナーベル氏は言う。

多くの主要国でインフレ率は2桁に近づき、米国を除いてピークは何カ月も先になる見通しだ。

状況を複雑にしているのは、中銀がコントロールできる範囲が限られていることだ。

例えば、ロシアのウクライナ侵攻を受けたエネルギー価格高騰で供給ショックが生じているが、金融政策はこうした事態にほとんど影響を及ぼさない。

各国政府による多額の支出も中銀の制御の及ばないところで問題を悪化させている。米カンザスシティー地区連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で発表されたある研究は、米国のインフレの半分は財政要因によるもので、連邦準備理事会(FRB)は政府の協力なしに物価を抑制できないと論じている。

さらに、長期にわたり物価押し上げ圧力を維持する新たなインフレ環境ができ始めている可能性もある。

脱グローバル化、ロシアによる戦争を受けた同盟関係の再編、人口動態の変化、新興国での生産コスト上昇といった動きはいずれも供給制約をより恒久的にする可能性がある。

国際決済銀行(BIS)のカルステンス総支配人は「これまでインフレを抑制してきた供給面の追い風は逆風に変わりつつあるとみられ、世界経済は歴史的な変化の節目にあるようだ」とし、「そうであれば、最近のインフレ圧力上昇はより長引く可能性がある」と述べている。

これらは全て、FRBが主導しECBも続こうとしている急速な利上げと金利の高止まりが何年も続くことを示唆している。

<新興国に打撃>

米国の金利上昇の痛手は国内経済を超えて新興国にも波及し、大きな打撃を与えるだろう。パウエルFRB議長が現在示唆しているように高水準の金利が長引けばなおさらだ。

ニューヨーク大学スターン経営大学院のピーター・ブレア・ヘンリー名誉学部長は「FRBにとって今が正念場だ」と語る。「過去40年で築いた信用が懸かっているため、新興国が巻き添えになるなどの影響を含め、是が非でもインフレを下げようとするだろう」。

多くの新興国はドル建てで借り入れをしており、米政策金利の上昇は多方面で打撃を与える。借り入れコストを押し上げ、債務の持続可能性の問題を浮上させるほか、流動性が米国に流れて新興国のリスクプレミアムが上昇するため借り入れが一段と困難になる。

さらに、ドルが大半の通貨に対し上昇を続け、新興国の輸入インフレを加速させることになる。

中国やインドのような大国では影響がうまく抑制されているように見えるが、トルコやアルゼンチンなど比較的小規模な国の多くは明らかに苦慮している。

国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミスト、ピエール・オリビエ・グランシャ氏は「特にフロンティア市場や低所得国の多くは、スプレッドがディストレス水準がそれに近いと見なされる700─1000ベーシスポイント(bp)に拡大している」と指摘。低所得国の約6割や新興国・フロンティア市場の約20カ国がこうした状況にあるとし、「依然として市場にはアクセスできているが、借り入れ条件は確実に著しく悪化している」と話す。

S&Pグローバルは現在、南アフリカ、アルゼンチン、トルコの金融機関の資金調達リスクを高い、もしくは非常に高いと見なしている。中国、インド、インドネシアを含む多くの国の金融機関についても、信用リスクが高い、もしくは極めて高いとしている。

コーネル大学のエスワー・プラサド経済学教授は「FRBが利上げを行い金利が高止まりした場合、スリランカやトルコなど打撃を受けるフロンティア市場がいくつかある」と指摘。

その上で「2、3年で状況が困難になり始める。FRBが長期間金利を高く維持することが明確になれば、こうした圧力はすぐにでも現実になり得る」と警鐘を鳴らした。

(Balazs Koranyi、Howard Schneider記者)

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