[ロンドン 16日 ロイター] - スイス金融大手クレディ・スイスはスイス国立銀行(中央銀行)から臨時で540億ドルの資金供給を受けたが、同社の株価は16日もほとんど上がらなかった。
信頼感の回復には程遠く、市場は本格的な金融危機に発展することを恐れている。市場関係者は中銀の資金供給について、同社が次の対応を錬るまでの時間稼ぎにしかならないと考えている。
今後考えられるクレディ・スイスのシナリオは以下の通り。
◎改革を続行
一連のスキャンダルや多額の損失に見舞われたクレディ・スイスは、数年前から経営再建に取り組んできた。ウルリッヒ・ケルナー最高経営責任者(CEO)は16日、業務合理化に向けた「戦略的変革」を続けると表明し、特に富裕層向けの資産運用業務に注力するとした。
従って、中銀が流動性を供与している間は再建戦略を続行するのが魅力的な道かもしれない。
ただ一部のアナリストは、市場の信頼感が失われた以上、経営陣は最終的に別の決断を迫られる、と予想している。
JPモルガンのアナリストチームは16日の調査ノートで「カウンターパーティー(リスク)の懸念が浮上し始めたため、現状維持はもう許されなくなった」との見方を示した。
◎切り売り
スイス第2位の規模を持つ同行は、既に人員削減やスリム化を進めており、事業を切り売りして新規資金を調達する選択肢を検討する可能性もある。
鍵を握るのは、業績低迷が続く投資銀行部門の行方だ。債券・株式トレーディング事業の縮小や、投資銀行事業全体の解体を迅速に実行する選択肢もある。
10月に発表した事業見直し計画の一環として、同社は買収助言およびレバレッジド・ファイナンス事業を分離し、新設の「クレディ・スイス・ファースト・ボストン(CFSB)」に統合する方針を示した。CFSBについては買い手を募っている。
既存部門の売却による資金調達は、さらに魅力が大きいかもしれない。
あるシニアバンカーによると、クレディ・スイスは分割したほうが評価額が高く、既に高レベルの買収交渉が行われているという。
このバンカーは、国内のプライベートバンク大手ジュリアス・ベアが一部事業に関心を示すかもしれないと述べた。またブルームバーグ通信は先月、ドイツ銀行が資産運用事業に目を付けていると報じた。
バンカーは、イタリアのウニクレディトなど他の欧州大手銀も関心を抱く可能性があるが、規制当局の説得など複雑な問題が絡むため、買い手の腰が引けるかもしれないと語った。
投資銀行KBWの計算によると、クレディ・スイスの国内リテール銀行部門には120億スイスフラン(129億ドル)余りの価値があり、グループ全体の時価総額を超える。
バンカーは、スイス中銀が流動性供給に乗り出す際、おそらくクレディ・スイスに事態打開策とその日程を示すよう迫っただろうと述べた。
ただ、経営陣とスイス当局は、クレディ・スイス全体の規模は縮小するとしても、世界中の富裕層を相手にし、黒字を出している同社のプライベートバンク事業は維持したいと望むだろう。
資産運用会社RBCブルーウィン・ドルフィンの首席ストラテジスト、ガイ・フォスター氏は「荒波を乗り越えて独立経営を続けたとしても、それで回復力が失われるのなら本末転倒だ」と話す。
◎身売り
事業の切り売りには時間を要する可能性があり、市場は待ってくれないかもしれない。より決然とした解決策は、競合他社によるクレディ・スイス全体の買収だ。
アナリストは、クレディ・スイスより規模の大きい国内ライバル企業UBSが、買い手の最有力候補だと言う。ただスイス当局の支持を得て、競争阻害の問題もクリアする必要がある。
アクシオム・オルタナティブ・インベストメンツの調査責任者、ジェローム・ルグラス氏は「UBSが非常に乗り気だったとは思わないが、現在の株価なら話は違ってくるかもしれない」と語った。
クレディ・スイスはクレジットに、UBSは株式にそれぞれ強く、両社は投資銀行部門で相互補完的な関係にある。
しかしルグラス氏によると、買収となれば事業の重複に対処するため資産の売却を迫られそうだ。別のバンカーは、資産を売却したとしても当局は納得しないかもしれないと語った。
◎破綻処理
クレディ・スイスが破綻処理に向かう可能性が高いと考える関係者はほとんどいない。安定し、成功した金融拠点としてのスイスの名声が傷つく上、世界中の金融市場を動揺させるからだ。
同社のカウンターパーティーが同社との取引をやめたり、預金者の取り付け騒ぎが起こったりした場合、スイス当局は全預金の保護や直接的な資本注入などの救済策に乗り出すとアナリストは予想している。
しかしこうした対策はスイスの納税者を多大なリスクにさらし、2008─09年の金融危機をほうふつさせる。
もっとも、クレディ・スイスは依然として難局を安全に乗り切れると信じる市場関係者もいる。RBCブルーウィン・ドルフィンのフォスター氏は「危ない綱渡りだが、渡り切れる可能性はある」と語った。
(Pablo Mayo Cerqueiro記者、 Emma-Victoria Farr記者、 Amy-Jo Crowley記者)
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