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コラム

コラム:世界から手を引くアメリカ

[30日 ロイター] - 多くの米国民にとって、ブリュッセルで起きた同時攻撃は、「またか」という印象が強かったに違いない。再び武装勢力が攻撃を仕掛け、それを防ぐことができなかった。

 3月30日、多くの米国民にとって、ブリュッセルで起きた同時攻撃は、「またか」という印象が強かったに違いない。再び武装勢力が攻撃を仕掛け、それを防ぐことができなかった。写真は2014年11月。ニューヨークで撮影(2016年 ロイター/Mike Segar)

15年に及ぶ「テロとの戦争」で失われた命と資産が、これまでにも増して無駄遣いだったように見えてくる。

だが外部から見ると、米国の反応の仕方は微妙に変わりつつあるように思える。ほとんど自覚もなく、米国は世界との関わり方について、根本的な再検討を始めつつあるのだ。

そのトレンドを最も明白に示しているのは、他の多くの場合と同じく、ドナルド・トランプ氏である。あれほど「米国を再び偉大な国に」と口にしてきたというのに、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストの編集委員らによるインタビューを中心にトランプ氏がようやくその概要を明らかにし始めた外交政策には、露骨な孤立主義の気配が見られる。

これは言っておくべきだろうが、トランプ氏自身は、孤立主義と呼ばれることを明確に拒否している。

だが、細かい意味合いにとらわれていると本質を見失う。もっともっと広いレベルでは、国全体からホワイトハウスの廊下に至るまで、空気が変わりつつある。今月初めの「アトランティック」誌に掲載されたオバマ大統領のインタビューは必読だが、その1行1行から、いら立ちや後悔、そして米国にはどこまでできるのか、やるべきなのかを見直そうという雰囲気が感じられる。

数名の現・元連邦政府当局者が匿名を条件に筆者に語ってくれたところによると、米国がイラクやアフガニスタン、あるいはそれ以外の場所で達成すべき目標がもはや分からなくなっている気がする、という。表面化することはめったにないが、こうした自制的な思考は広範囲に及んでいるように見える。

こうした動向は、首都ワシントンではたやすく見逃されてしまう。何しろ、米国の外交政策コミュニティーを構成しているシンクタンクには、断固たる介入主義を掲げるところが多いからだ。

そうしたシンクタンクには、米国がその方針を貫いてくれることを望む個人、国防関連企業、湾岸諸国など外国政府から資金が流れ込んでいる。某シンクタンクの政策アナリストは匿名を条件に、「結果として、公には、自分が本当に思っているよりも介入主義的な立場をとってしまうことになる」と話している。だが、こうした機関の内部でさえ、空気は静かに変わりつつあるようだ。

異なる世界観(特にオバマ氏とトランプ氏に代表される2つ)のあいだのギャップは依然として非常に大きい。オバマ氏の中南米歴訪が明らかにしたように、彼の米国観は、世界に冠たる大国である米国は引き続き、いっそう相互のつながりを強めていく世界に今後も深く関与していく「人種のるつぼ」である、というものだ。もっとも、「アトランティック」誌のインタビューからは、彼がその立場にこれまでより留保を付している様子がうかがえるが。

一方、トランプ氏の選挙運動は全体として、地球上の他の部分を(しばしば文字通り)寄せ付けないでおくことを基本としている。彼の主張によれば、移民とグローバリゼーションは米国民の雇用を奪っており、さらには安全までも奪うリスクがあるという。外敵の抑止と近隣地域の安定を米国政府に頼り切っている同盟国があまりにも多いと、彼は言う。トランプ氏は、そうした同盟国が保護の対価を払おうとしないなら、米国は部隊を引き上げるべきだと主張する。

米国の同盟国が期待してきたポジションから見ると、これは大きな変化だ。日本と韓国の両政府は自国防衛のために自前の核兵器を製造すべきだとトランプ氏が示唆したことについて、韓国の新聞各紙は「あ然とした」と書いている。欧州諸国の政府も、北大西洋条約機構(NATO)に関するトランプ氏の発言に同様の懸念を示している。だが、どちらのケースでも、彼の発言は国内のもっと広範囲に見られる疑念を指し示すものなのだ。

今月初め、筆者は米国の外交政策と選挙についての討論会で司会を務めた。参加者の1人、アトランティック・カウンシルのアレックス・ワード氏によれば、彼自身も、外交政策を専門とする同僚たちも、バルト諸国などのNATO加盟国をロシアから防衛する戦略の研究に多くの時間を費やしてきた。だが、米国内で暮らす同氏の親戚のなかには「NATO」という略語が何を示すのかさえ知らない人もいるという。

一方、イプソスで世論調査を担当するジュリア・クラーク氏は、トランプ氏が勝つ可能性は政界の主流派が認めているよりもはるかに高いと考えており、孤立主義的な性質の強い彼の見解は、戦争と失業にウンザリしている国民のあいだで、すでに広く共感を生んでいると主張した。

米海軍大学の研究者ニコラス・グボスデフ氏は、大統領選で誰が勝つかはともかく、トランプ氏のおかげで、他の政治家があのような孤立主義的な立場をとることが、これまでよりもはるかに容認されやすくなった、と主張した。

過激派組織「イスラム国」(IS)など武装勢力からの脅威について語る場合も、トランプ氏とオバマ氏の姿勢は大きく異なっている。だが、それも程度問題だ。

トランプ氏は、厳しい尋問手法や拷問、無差別爆撃を行うなど、従来のルールの制約を破ると得々として語っている。オバマ大統領ならグアンタナモ基地の閉鎖に失敗しただろうが、トランプ氏はそもそも、そういう施策は事態を悪化させるだけだと感じて反対している。

だが、トランプ氏のポピュリスト的な反ISメッセージには、非常に具体的な限界がある。彼は、広範囲に及ぶ安定化と「国家構築」の試みは、どう見ても成功していないと言う。彼はワシントン・ポストに対し、たとえ米軍の司令官たちからの要請があるとしても、数万人規模の地上部隊をイスラム国との戦闘のために派遣することは「非常に難しい」と話した。

2009年に大統領に就任した直後から、オバマ氏がイラク侵略に反対する一方で、アフガニスタンへの部隊増派には賛成したことは有名である。オバマ氏なり、他の多くの人々なりが、今このような戦略を支持するとは容易に想像しがたい。

トランプ氏は非常にさまざまな問題についてあまりにも極端で特異な立場を取っているので、恐らく大統領選挙では勝てないだろう。すると、次期米国大統領として最も可能性が高いのは、依然としてヒラリー・クリントン氏である。

皮肉なことに、その正統性はもっぱら国際問題に関する経験と、党内の既得権層という立場に由来している。彼女の助言者、後援者、相談相手となっているのは、民主党の外交政策関係者のほぼ全部と、共和党の外交政策関係者のかなりの部分である。もっとも彼女は、彼らの専門的能力が、必ずしも世論調査では自分の追い風になっていないことにすでに気づいているのだが。

すでに過去数年のあいだに、政情不安定な国に対する米国政府と欧州主要国のアプローチは、過去よりもはるかにコストのかからない、恐らくは効果的な戦略へと移行してきた。特にイラク、アフガニスタン、ソマリアの3カ国においては、今や明らかに、限定的な軍事支援・開発支援を提供するだけで現地政府構造の構築をめざし、できることなら幅広く地域的な支援を得る、というアプローチになっている。

いつまでも維持できない大量の外国軍に頼るという従来のアプローチからすれば、これは大きな変化である。域内の過激化を招く恐れも大幅に軽減されるし、長い目で見れば、潜在的には成功する可能性がはるかに大きい。

この戦略はシリアでも成功するかもしれない。少なくとも、米国、ロシア、他の域内主要国が、彼らが支援に努める将来の政府をどのような種類のものにするかという点でそもそも合意できれば、という条件付きではあるが。

だが、いま問われているのは、そもそもそのような種類の関与をするだけの価値があるのか、という非常に現実的な問題なのである。

トランプ氏が、1930年代以降に実施された大統領選のどの最有力候補よりも上回っているのは、過去の米国の立場を露骨に捨て去るとまでは言わずとも、これまでよりはるかに広い範囲で撤回することを示唆している点である。

貿易に関しては、彼は積極的な保護貿易主義者である。これは左翼の挑戦者であるバーニー・サンダース氏と共通する部分だ。特に中国に対しては、貿易紛争の引き金になりかねないような形で関税を引き上げると発言している。

その一方で、トランプ氏が長年の同盟国に対する支援に消極的であることは、ロシア、中国の両政府を元気づける可能性がある。トランプ氏は、ビジネスの経験から、予測不可能であることの価値を教わったという。だが、賭け金の高い核兵器を伴う対立では、予測不可能であることが美徳にならないかもしれない。

オバマ大統領はそこまで踏み込もうとはしなかった。確かに、彼の戦略の軸には、アジア、欧州双方での軍事的プレゼンスの強化があった。だが彼は明らかに、欧州諸国、特に英国とフランスに対しては、かなりのいら立ちを表明しても問題がないと考えた。

2011年にムアンマル・カダフィが失脚した後、オバマ氏の見解では明らかに欧州の裏庭に当たるリビアを安定させるために、英仏両国が自前の政策をまとめていないと批判したのである。

ブリュッセルでの事件以来、圧倒的な論調は「ベルギーの責任」を問うものであるように見える。ある意味で、これは非常に理にかなっている。何しろベルギーの情報・治安機関は、政府の他の部門と同様、機能不全で悪名高いのだ。

とはいえ、ベルギーは長きにわたって「帝国の十字路」として知られており、敵に対して自国の国境を本当に守れたことなどないことは記憶に値する。

「9.11」以来、米国が本土に対する攻撃を比較的うまく避けてこられた理由の一部は、恐らく情報・治安体制の改革のおかげだろうが、太平洋、大西洋という2つの大海で世界の他の部分から切り離されている事実も、やはり重要なのである。

こうした地理的な孤立があるからこそ、米国は時として「他の世界のことなど放っておけばいい」と考えるぜいたくを味わえるのだ。実際のところ、近年エネルギーの自立性の獲得が注目されているのも、かなりの部分、そうした願望に由来しているように見える。

米国が自らの役割を考え直しているということは、意外でもないし不健全でもない。グローバルな「1強」超大国になってからまだ25年しか経っていないのだし、特に中東に関しては、米国がネガティブな(少なくとも安定を損なう)影響を与えてきたかもしれない、という結論に達するのは簡単なのだ。

だが、たとえひどく不完全であるとしても、米国は、現状において世界の「軸」に最も近い立場としてベストを尽くして行動している。世界的な不安定の時代に、米国が再び孤立主義に陥るとすれば、それは他国にとっても幸福なことではないだろう。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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