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コラム:アルカイダを凌駕したイスラム国の影響力

6月12日、銃で武装した男がフロリダ州オーランドの同性愛者向けナイトクラブに乱入し、49人を殺害、53人を負傷させた。この殺りくとその後3時間続いた警察とのにらみ合いの渦中で、男は警察に電話して過激派組織「イスラム国」への忠誠を表明した。

 6月14日、現在イスラム国は、世界で最も深刻なテロの脅威として、多くの点でアルカイダを凌駕している。写真は、イスラム国への忠誠を表明していた容疑者が起こしたフロリダ乱射事件の現場で法医学捜査を行う警察。フロリダ州オーランドで12日撮影(2016年 ロイター/Jim Young)

イスラム国は翌日、犯行声明を出して、オマル・マティーン容疑者は「米国内のカリフ国家(預言者ムハンマドの後継者が指導する国家)戦士の1人」であると主張した。

だが米当局によれば、たとえマティーン容疑者がイスラム国に触発されて米国現代史上最悪の乱射事件を実行したのだとしても、同容疑者とイスラム国が直接つながっていた、つまり彼がイスラム国のテロ計画者による訓練や指令を受けていたという証拠はまだ見つかっていないとしている。

マティーン容疑者は、特に神聖なラマダン(断食)月のあいだに西側諸国で「ローンウルフ(一匹狼)」型の攻撃を実行しようというイスラム国指導者たちの呼びかけに耳を傾けた可能性がある。

2年前、イスラム国の戦闘員たちはイラク第2の都市モスルに入城した。ジハード(聖戦)主義者たちは、立て続けに北部イラクの広大な地域を手中に収め、シリア領内の支配地域と統合した。

現在イスラム国は、世界で最も深刻なテロの脅威として、多くの点で国際武装組織アルカイダを凌駕(りょうが)している。西側・中東諸国の治安当局者は、国内の治安という点で、現在はアルカイダよりもイスラム国の方が大きな脅威であると見ている。イスラム国はソーシャルメディアを巧みに使い、不満を抱える数千人もの若きムスリムたちを徴募して戦列に加える能力を持っているからだ。

2013年以来、イスラム国とアルカイダは、資金、人員、名声をめぐって競合し、戦術面でも意見を異にしていた。パリ、バグダッド、ベイルート、その他の場所での攻撃に典型的に見られるように、市民の大量虐殺という点では、イスラム国の存在感はアルカイダを凌駕している。

2014年末までに、イスラム国はシリア、イラク国内に広大な支配地域を獲得した。そして支配地域において「カリフ国家」の樹立を宣言し、指導者バグダディ容疑者をカリフとして、また「あらゆる地域のムスリムの指導者」として指名した。

イスラム国は地域的な基地を設け、支配地域の統治、数千人の戦闘員訓練、石油その他の資源の密輸による収入獲得を実現している。いずれも、アルカイダの実績よりも大規模である。また、アルカイダよりも大規模にリクルート活動を展開し、ソーシャルメディアでのアピールぶりも洗練されている。

自称「カリフ国家」の樹立により、イスラム国はアルカイダよりも多くの資源を支配できるようになり、収入も増えた。イスラム国は石油と小麦の販売、支配地域住民への課税、強奪行為により資金を稼いでいる。

米財務省によれば、2014年にイスラム国は約20億ドル(約2080億円)を稼いだという。ここには、ヤミ市場における石油販売収入5億ドル、シリアおよびイラクでの初期の進撃のあいだに銀行から盗んだ最大10億ドルもの現金が含まれる。対照的にアルカイダの場合は、これまでサウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦を中心とする富裕層の個人からの寄付に依存してきた。

だが、弱体化したとはいえ、アルカイダも依然として、西側諸国、中東地域、さらにはムスリム世界全体にとって危険な存在である。近年、アルカイダはイエメンでの動きを活発化させており、シリアでもヌスラ戦線と称する強力な関連組織を確立している。ヌスラ戦線はシリアのアサド政権と戦っているジハード主義組織のあいだで支配的な存在となっている。

大切なのは、アルカイダの新たな状況に適応し進化していく能力を侮らないことだ。これまでのアルカイダもそうだった。2001年10月に米国がアフガニスタンを侵略し、ウサマ・ビンラディン容疑者とその支持者たちをかくまっていたタリバン政権を倒したとき、アルカイダは一時的に動揺した。

しかしすばやく組織を立て直すと、生き残ったメンバーを分散させ、インターネット上でイデオロギー的なパンフレットや戦術を広い範囲で流通させ、組織への新規加入者には、アルカイダの名の下で自律的に行動することを促した。

イスラム国とアルカイダは、他にも重要な点で違いが見られる。アルカイダは、中東諸国の体制を腐敗した「背教的」なものと見なし、こうした「近い敵」を倒したいと考えている。だが、その目標に向けてアルカイダ指導部が力を注いだのは、「遠い敵」、つまり米国や西側諸国への攻撃である。

こうした傾向は米国の海外における行動が原因の1つとなっている。数十年にわたり、米国政府はエジプトやサウジアラビアなどの抑圧的な体制を支援しており、こうした国々からアルカイダの指導者たちが生まれてきた。

サウジアラビア出身のビンラディン容疑者、その側近で後継者となったエジプト出身のザワヒリ容疑者は、いずれも最初は自国の独裁政権に対して抵抗していた。その後彼らは、米国がこうした体制の存続を支援していることを悟り、この「遠い敵」を標的とするようになる。彼らが倒そうとしていた政府を米国が支援していなければ、彼らが果たして米国を攻撃していたかどうかは、われわれには決して分からないだろう。だが、今となってはそれを言ってもしかたがない。

米国を標的とすれば、いずれ米国政府はアラブ諸国の独裁政権への支援を取りやめ、中東から完全に手を引かざるを得なくなるだろう、とアルカイダは信じている。

だがイスラム国はアルカイダの構想に賛同せず、主として「近い敵」、つまりシリア、イラクその他のアラブ諸国における、いわゆる「背教的」体制に的を絞っている。これまでのところ、支配地域の獲得・維持をベースとするイスラム国の戦略の方が大きな成功を収めている。

ビンラディン容疑者に「遠い敵」に関心を向けるよう説得し、「9.11」米同時多発攻撃の構想を助けたのはザワヒリ容疑者だった。ザワヒリ容疑者は、非合法武装グループに所属していた容疑で3年間投獄された後、1980年代初頭にエジプトを離れた。スーダン、アフガニスタンを経てパキスタンへと至り、1987年にこの地でビンラディン容疑者と出会う。

当時のビンラディン容疑者は、サウジ反体制派の資産家として、ソ連によるアフガニスタン占領に抵抗するために中東各地から集まったイスラム主義義勇兵の一団「アフガニスタンのアラブ人」の訓練を支援し資金を提供していた。このときの義勇兵らは、その後、ビンラディン容疑者のネットワークの基盤となっていく。

1980年代後半、ザワヒリ容疑者はアフガニスタン国境に近いパキスタンの都市ペシャワルにオフィスを構える。このオフィスは、アフガニスタンにおける抵抗運動のための訓練拠点および供給窓口として機能した。

このペシャワルで、ザワヒリ容疑者はビンラディン容疑者との関係を深め、イスラム過激主義運動に関するビンラディン容疑者の考えを変えていく。ビンラディン容疑者がアフガニスタンにおける抵抗運動の資金援助者から、イスラムの敵とされる者との戦い、すなわちジハード(聖戦)主義の強固な信奉者へと変わっていったのは、ザワヒリ容疑者が一役買っている。

アルカイダの影響力が衰えるなか、イスラム国は新たな地域へと拡大することで空白を埋めようとしている。2014年11月、バグダディ容疑者は、彼の自称「カリフ国家」の県を、新たに5カ国に設立することを宣言した。すなわち、サウジアラビア、イエメン、リビア、アルジェリア、エジプトである。これ以外の国にもバグダディ容疑者に忠誠を誓うイスラム国シンパはいるが、同容疑者はイスラム国の活動に対する強固な支持基盤があり、継続的な攻撃を仕掛けられる国のみを選んでいる。

だがバグダディ容疑者は、可能であればどこででも「一匹狼」型の攻撃を実行することを支持者に呼びかけている。「ああ、イスラム国の戦士たちよ、ジハードの火山をあらゆるところで噴火させよ」と彼は宣言した。「あらゆる独裁者に対する炎で地上を照らせ」と。そしてイスラム国の戦闘員たちは、もう1年以上ものあいだ、自称カリフの呼びかけに耳を傾けてきたのである。

(14日 ロイター)

*筆者はニューヨーク大学教授(ジャーナリズム論)。元「ニューズデー」紙中東支局長。サウジアラビアとイランの代理戦争についての著書を執筆中。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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