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〔アングル〕円安でも戻らない自動車工場、輸出増の狙いは稼働率確保
2014年12月18日 / 08:02 / 3年後

〔アングル〕円安でも戻らない自動車工場、輸出増の狙いは稼働率確保

[東京 18日 ロイター] - 円安が急速に進む中、自動車メーカーの一部で、国内生産・輸出を増やそうとする動きが出てきた。ただ、あくまで既存の国内工場の稼働率確保が主眼で、新たな能力増強の投資を計画するメーカーは見当たらない。人口が減少し、市場が縮小する日本での生産拡大はメーンシナリオにならず、今や主流となった「地産地消」のグローバル戦略の流れは、円安だけでは変わりそうにない。

<ホンダと日産自が国内生産・輸出増を検討>

「アベノミクスでの最大の『誤算』の1つは、輸出が伸びなかったことだ」と国内証券のエコノミストは指摘する。金融緩和によって円安が進行することで輸出を増加させ、国内経済を押し上げるというシナリオは、いまだに実現していない。

輸出の伸びが鈍いのは、工場の海外移転が大きな要因の1つとなっている。円安を受けてメーカーが国内生産・輸出増に魅力を感じ、工場を国内に回帰させる流れが生じるかどうかが、アベノミクスの成否の上でも焦点となる。

こうした中、ホンダ と日産自動車 は、国内での生産台数増・輸出拡大の検討に着手した。

ホンダの岩村哲夫副社長は10月の中間決算会見で「世界の各地域で、生産量の10─20%を補完、輸出入する枠組みを作る」と表明。各生産拠点に余剰能力があれば、それを生産能力の不足した地域への供給分に充てることで、世界規模での生産効率化を図る狙いがあるという。

日本もこの取り組みの一環との位置づけで、同社幹部は「(日本での生産に占める)輸出比率を10─20%に戻したい」と話している。 ホンダの2013年度の国内生産台数は約90万台。足元で輸出比率は4%弱に低下しており、単純計算すれば5万─15万台程度の生産・輸出増となる計算だ。

一方、日産自の幹部によれば、ホンダのように、生産拠点間で相互に車種を融通し合う補完体制の強化を検討しているという。とりわけ生産と開発の距離が近い日本は「ノウハウの蓄積や経験が豊富な人材が多く、柔軟な対応がしやすい」(日産自幹部)ため、生産台数・輸出比率の引き上げが見込まれるという。

<円安は追い風でも原動力にあらず>

ただ、円安が国内の生産能力増強のための投資を拡大させるかといえば、答えは「ノー」だ。こうした動きは、既存設備の稼働率向上だけに限定されそうだというのがその理由だ。

  日本の自動車メーカー各社は、長らく続いた円高や貿易摩擦への対策として、生産拠点の海外への移転を進めてきた。その進展度合いはメーカーによって異なる。

自動車業界では、1工場当たりの採算ラインは10万台程度とされる。世界各地の販売台数が採算規模に届きにくかったマツダ や富士重工業 、三菱自動車工業 などの国内からの輸出比率はいずれも5割を超えている。

トヨタ自動車 の輸出比率も約5割と依然高水準にあるが、「ランドクルーザー」のように各地域ごとに工場を設けるほどの販売台数がなくても、世界全体でニーズのある車種が複数あり、生産を日本に集約して輸出する方が効率的なためだ。

一方、ホンダや日産自は、車種構成がトヨタに比べて少ない上、世界の各地域でも採算台数の販売が確保されたため工場の移転が進みやすかった。

円安が進行した今年4─9月期の中間決算では、トヨタやマツダ、富士重など、輸出比率の高いメーカーが円安メリットを享受した。現地化がうまく進展して輸出比率が下がっているホンダは、円高への耐性がいち早く高まったものの、足元の円安メリットを享受できなかったという皮肉な状況となっている。

ホンダと日産自が国内での生産台数増・輸出拡大を検討するに当たって「当然、円安は追い風だ。円高なら、輸出を増やすという発想に、そもそもなりにくい」(関係者)という。

ただ、例えば日産自は海外移転が進んだとはいえ、輸出比率は約5割あり、為替による利益押し上げもあった。円安は追い風ではあっても、原動力ではないというのが関係者らの共通認識だ。背景にあるのは、国内工場の稼働率確保という課題だ。

アドバンスト・リサーチ・ジャパンのシニア・アナリスト、遠藤功治氏によれば、日本車メーカーの国内生産台数は約900万台に縮んでいる一方、生産能力は1100─1200万台程度ある。生産設備の稼働率は7割程度なければ黒字を確保できないとされるところ、実際の稼働率は75%程度と低水準だ。

今年4月の消費増税の影響で、国内の自動車販売が振るわないだけではない。先行きも国内市場は縮んでいく流れにある。アドバンスト・リサーチの遠藤氏はこの先、消費税が10%に引き上げられたり人口が減少したりすることで、2030年付近では国内需要は足元の500万台の約7割となる350万台程度に縮小すると試算している。

とりわけ、輸出比率が低いホンダの場合、国内需要の減少が国内工場の稼働率低下へと結びつきやすい。

日産自も国内シェアは回復の途上にあり、国内工場の稼働率確保は課題の1つとなっている。現在は軽自動車を三菱自に生産委託しているが、自社工場での生産を検討する発言も同社幹部から出ている。「国内市場がジリ貧な中で、輸出分の生産を増やそうとするのは自然」(業界関係者)との事情が透けてくる。

<地産地消の流れ変わらず>

海外展開が進み始めた当初は、プラザ合意以降の円高進行や貿易摩擦への対策という面が強かったが、その過程で現地のニーズを商品開発に生かしやすかったり、現地の雇用を創出することでブランドイメージの向上につながるといったメリットが重視されるようになった。

各国の産業保護政策によって輸入車が税金面で不利な扱いをされやすいことも、需要地での生産を促してきた。現地調達率を高めるため、部品メーカーも莫大な投資をして、完成車メーカーとともに海外にサプライチェーンを作り上げてきた経緯があり、「一朝一夕では見直せない」(先の業界関係者)。

製品体積当たりの単価が高い先端部品や電子製品などと異なり、完成車は輸送効率が低いことも需要地での生産を正当化しやすい。

一車種のライフサイクルは通常、開発開始から車種切り替えまでの計10年程度で、生産計画もこれに合わせて立てられる。「その時その時のレートによって、(生産体制の)判断を変えることは、産業のあり方からいっても、あまり考えられない」(トヨタの小平信因副社長)という発想は、業界で広く共有されている。

メーカーが重視するのは、経営の「安定」だ。為替の面からは、地産地消が進むほど、円高と円安の双方の影響が抑制できる。ホンダの岩村副社長は「(工場を進出させた)現地での(部品などの)調達率を高めたり、付加価値を高める」ことが為替変動への対策にもなるとし、これまで通り地産地消の考え方が基本だと指摘している。

<来年以降、円安デメリットも>

過度な円安進行となれば、業界へのマイナス面も意識されやすくなりそうだ。短期的には完成車メーカーにとってメリットに働く一方、「デメリットは来年、再来年にじわじわ出てくる」と、アドバンスト・リサーチの遠藤氏は話す。

この先、130円─140円と円安が進むようなら、プラスチックや樹脂、鉄・非鉄など原材料コストが上昇する恐れがある。円安デメリットを被る部品メーカーを完成車メーカーが支援する動きが広がれば、完成車メーカーの業績圧迫要因にもなり得る。

日本での生産コストが高くなる一方、国内での販売価格は容易には引き上げられないため利幅が狭くなりかねず、アジアなどコスト安の地域で作った方がメリットが出やすくなる。足元の原油安が収まって円安がガソリン価格を押し上げるようなら、国内の自動車販売にとっても逆風となる。

ホンダと日産自も、国内工場の新設などは想定していない。柔軟な生産体制を確保するため、雇用は期間工が中心となり、正規雇用の増加は見込みにくい。しかも、稼働率の向上が輸出増に貢献する体制となるのは「車種切り替えのタイミング」(関係者)のため、数年先と見込まれる。

今後、業界他社に同様の動きが出たとしても、「既存の国内工場の稼働率確保という文脈は変わらないだろう」(別の業界関係者)との見方が出ている。人口減・市場縮小の見込まれる日本では、中長期的に生産は縮んでいく流れにあり、この大きなうねりは円安だけでは変わりそうにない。

トヨタの小平副社長は中間決算の会見で「今の段階で、円レートで生産体制を見直すことは特にない。これから自動車需要が増えていくところで作りたい」と語っていた。

平田紀之、白木真紀 編集:伊賀大記

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