July 30, 2014 / 9:32 AM / 6 years ago

〔アングル〕燃料電池車「200万円補助」の重み トヨタなどの「出血」も促す

[東京 30日 ロイター] - 水素で走り、水しか出さない「究極のエコカー」とされる燃料電池車(FCV)の開発と普及の促進を目指し、政府が大型補助金の導入を打ち出した。大胆な政策決定には、自動車各社や関連産業に関連技術の開発とコスト低減の加速を促す狙いも込められている。FCVはまだ採算が見えにくい小規模な次世代の市場だ。政府からの後押しに応えるためには、企業側にも「出血」を辞さない思い切った戦略が求められている。     <事実上のコストダウン要求>   「排気ガス、CO2(二酸化炭素)も出ない、まさに環境に優しい新しい時代の車。しっかりと国としても支援していく必要がある」。

安倍晋三首相は18日、福岡県北九州市を訪れ、燃料となる水素の供給ステーションを視察、自らFCVのハンドルを握って試乗した。さらに、FCVの利用拡大を促すため、政府が購入者に対して「少なくとも1台200万円以上」を補助するとともに、全府省庁で公用車として導入することなどの支援策を表明した。     トヨタ自動車 をはじめ自動車メーカーや関連産業には、大きな追い風となる補助金制度だが、各社が手放しで喜んでいるわけではない。「しっかりとコストダウンしなさい、という裏返しのメッセージだと思う」。首相の政策表明を受けて、トヨタのFCV開発を率いる小島康一FC開発部長はこう語った。     トヨタが今年度中に発売するFCV価格は700万円程度。同社がFCVの発売時期を表明した2010年当時の価格はまだ1000万円を切るレベルだった。

同社はハイブリッド車(HV)との部品共有化などのコスト削減を推進、車両価格でもっとも大きな部分を占める燃料電池システムを08年の1億円レベルから「500万円未満」(トヨタの小木曽聡・常務役員)に抑えた。

だが、補助金を差し引いても購入者の負担は約500万円。高級セダンの独BMW3シリーズ並みにとどまっており、一般に広く普及する価格までまだ長い道のりが残っている。   補助金は販売への推進力として「ものすごく大きいが、未来永劫もらえるわけではない」。約10年にわたりFCVの開発に携わってきた小島氏は、そう気を引き締める。政府の要請に応え、FCVの価格を多くの人の手に届く水準まで引き下げるには「FCVの研究開発を継続する」ことしかなく、すでにトヨタは今年度投入する次の車の開発でさらなるコスト削減をめざしているという。

<10年後目標にハイブリッド並みめざす>

今回の補助金は「日常の買い物に対する支援というよりも、次世代技術の芽を育てるためのFCV関連産業へのカンフル剤と考えたほうがいい」と日本総研の宮内洋宜コンサルタントは指摘する。

FCVに対する補助金は、電気自動車(EV)やHVなど複数の次世代車を対象とした「クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金」から拠出される予定で、今年度予算は300億円。来年度予算にFCVの分を盛り込み、概算要求している段階だ。

しかし、今回の政府支援策がFCV市場を一気に拡大する可能性は小さい。野村総合研究所の風間智英・上席コンサルタントは、FCV市販車は、まず環境志向をアピールしたい企業やタクシーなどで導入されるなど法人向けが中心と想定する。ただ、一般への普及にはやはり大幅なコストダウンや水素を供給するステーションの整備などが不可欠だ。

調査会社の富士経済の予測では、FCVの国内市場は今年度で100台、ホンダ も市販車を発売する15年度は4000台。トヨタの見立てでも本格普及期は2020年代で、そのときの販売目標でも年間数万台に過ぎない。

複数のアナリストの試算を総合すると、導入段階の数年間は年1万台規模が続く見込みで、補助金1台200万円以上で単純計算すれば、FCV向けの補助金は年200億円以上で数年続く可能性がある。

同時に、メーカー側としても、採算レベルの達成をめざし、FCV事業を長期にわたって続ける必要がある。トヨタの小木曽聡・常務役員は、700万円で売れる台数を考えたら、「研究開発にかかったすべてのコストが回収できるとは思わない」と厳しい見通しを語る。「挑戦的な目標として約10年後くらい。モデルチェンジを2回ほど経てHV並みのコストにできないか、というのが今のビジョン」という。

<水素価格やステーションの整備も壁に>

  FCV普及のもう一つのカギは、燃料となる水素の価格引き下げと供給ステーションの整備だ。政府は規制緩和や補助金によって15年度中に100カ所以上の供給ステーション設置を目指すとともに、FCVの燃料となる水素の小売り価格を2020年ごろまでに現在の1立方メートル150円から半分程度の80円ほどに引き下げる目標を立てている。

経済産業省によると、水素ステーションは尼崎を含め41カ所が建設中だが、約3万6000カ所あるガソリンスタンドと比べると圧倒的に少なく、場所も首都圏と愛知県に集中しているのが現状だ。

大きな理由のひとつは設置費用の差だ。ガソリンスタンドが1カ所1億円以下なのに対し、水素ステーションは約5億円かかる。政府は、水素ステーション1カ所につき、設置費用として上限2.8億円を補助している。今年度の補助金予算は72億円で、来年度についても概算要求中。100カ所という目標達成に向け、総額で200億円以上の補助金を投入する構えだ。

しかし、補助金が出ても民間の「出血」は避けられない。JX日鉱日石エネルギー は補助金支給が決まっている19カ所を15年度までには40カ所に増やすことを検討しているが、「まだ先行投資的な部分が非常に強く、採算は後回し」(同社幹部)という。

今ある水素供給ステーションは実証用ばかりで、商業用は岩谷産業 が7月14日に兵庫県尼崎市で稼働させた施設1カ所にとどまっている。

  補助金の実務を担う一般社団法人次世代自動車振興センターによると、三菱自動車 の「アイミーブ」に続いて、日産自動車 の「リーフ」が発売された2010年のEV販売(プラグインハイブリッド車含む)は7346台だった。その普及は広がっているものの、市場の拡大は当初の期待通りには進んでいない。

水素供給インフラをゼロから準備するFCVはさらに普及が難しく、官民ともに大きな先行投資を覚悟した取り組みが必要との見方は多い。 (白木真紀 取材協力:久保田洋子、月森修、編集:北松克朗)

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