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インサイト:ESG投資に看板倒れリスク、実地調査が不可欠との声

[ロンドン 7日 ロイター] - 市場ではESG(環境・社会・企業統治)で高い評価を得る企業に投資する動きが広がっているが、きれいな投資をしたいなら、泥まみれになって現地調査を行う必要がある――。

 9月7日、市場ではESG(環境・社会・企業統治)で高い評価を得る企業に投資する動きが広がっているが、きれいな投資をしたいなら、泥まみれになって現地調査を行う必要がある――。スイスの銀行J・サフラ・サラシンでサステナブル・ファイナンスを担当するサスジャ・ベスリク氏(写真)の言葉だ。写真はインド・ビスカパトナム近郊の村を訪れた同氏。2017年10月、提供写真(2020年 ロイター)

スイスの銀行J・サフラ・サラシンでサステナブル・ファイナンスを担当するサスジャ・ベスリク氏の言葉だ。

ベスリク氏は以前、投資先の企業に医薬品を納入しているインド南部の工場付近で水質汚染が悪化しているとの報告を受け、カメラマンを伴い、現地の村を調査。10日間にかけて村人に話を聞き、工場近くの川でサンプル用の水を採取した。

サンプルは空港で没収されたが、同氏は工場近くの川に浮かぶ泡を撮影した動画を現地企業や海外企業27社に送付。「動画を送ったすべての企業から1週間以内に反応」があり、大半の企業が問題の解決に真剣に取り組む意向を示したという。

1年後、再び現地を訪れると、工場の多くで「水処理施設の能力が上がっていた」という。

ベスリク氏がインドを訪れたのは2017年と2018年だが、ESG投資では、外部の評価を実際に確認する重要性がこれまでになく高まっている、というのが同氏の主張だ。データプロバイダーが下す評価は、当該企業の自己報告を基にしていることが少なくないという。

<高まる需要>

ESGで高評価を得る企業への投資需要は、かつてないほど高まっている。モーニングスターによると、ESG投資専門のファンドは、運用資産が1兆1000億ドルと、2016年の2倍以上だ。

ESG投資は、何よりもリスクを緩和する手段として利用されている。バンク・オブ・アメリカの推計によると、S&P総合500種指数採用企業だけでも、「ESGを巡る問題」により、過去7年間で総額6000億ドル以上の時価総額が吹き飛んでいる。

最近の例では、不正会計疑惑が浮上したドイツのフィンテック大手ワイヤーカードWDIG.DEや、取引先の工場の労働条件が劣悪だと報じられた英国の衣料品販売ブーフーBOOH.Lが、株価の急落に見舞われた。

ワイヤーカードは6月に経営破綻。ブーフーは7月にサプライチェーンの外部調査を実施した。

ベスリク氏は現在、コンゴ民主共和国のコバルト採掘を調査中だ。コバルトはハイテク企業や自動車メーカーが利用するバッテリーの主要部品だが、児童労働や環境破壊を巡る疑惑が浮上している。

<元ジャーナリストを採用>

投資環境が変化する中、ESGの調査員に転じたのはベスリク氏だけではない。

フォントベル・アセット・マネジメントのESG部門トップ、スディール・ロクセネット氏は、調査報道を担当していた元ジャーナリスト3人を採用し、従来型のアナリストチームを補強した。主な仕事はESGスコアの確認作業だ。

例えば、スイスの食品大手ネスレは、あるデータプロバイダーからESGで「AA」の評価を得ているが、フォントベルは2018年、ネスレの米ミネラルウォーター子会社が水を過剰に利用しているとのメディアや非政府組織(NGO)の報告を問題視。

ロクセネット氏は、ネスレ全体の環境への取り組みを評価し、同社への投資を続けているが、水問題専門の弁護士、水理地質学者、環境調査員に相談して、水集約度(売上高100万ドル当たりの淡水の使用量)を減らすようネスレに働き掛けた。

フォントベルの働き掛けが理由かどうかは不明だが、ネスレの水集約度は減少傾向にあるという。ネスレは専門家チームが一貫して状況を監視し、環境保護に取り組んでいると説明している。

ロクセネット氏は、ESGスコアだけでは問題点を把握できないケースがあると指摘。「米ミネラルウォーター部門は規模が小さく、ネスレの他の部門はサステナブルだ」と述べた。

同氏は、データが入手できない場合は独自調査が必要になるとの認識を示している。

<業界は成長途上>

ESGスコアを算出しているサステナリティクス、MSCI、リフィニティブは、当該企業が開示した情報に加え、メディアやNGOの報告など、外部の情報を利用していると説明。TruValue Labsなど、一部の企業は当該企業のデータの利用を控えているという。

それでも、ESGスコアに欠点がないわけではない。

情報開示が限られている中小企業は、多国籍企業と比べてスコアが低めになることもある。中小企業が比較的新しい再生エネルギー政策を導入しても、大手たばこ会社のスコアを下回るケースも考えらえる。

また、データプロバイダーによって、スコアが大きく変わることも多い。ラザード・アセット・マネジメントのグローバルリサーチ担当共同ディレクター、ネイサン・コクレル氏によると、格付け会社によって信用格付けが大きく異なるケースは全体の0.1%にとどまるが、ESGのスコアではこの比率が25%に達するという。

例えば、金融情報会社Qontigoのアンソニー・レンショー氏の2019年の調査によると、米電気自動車大手テスラの環境スコア(100%が最高)は10%─65%まで幅があった。フォードやゼネラル・モーターズ(GM)より高い評価をしているデータプロバイダーもあれば、低い評価をしているデータプロバイダーもあったという。

サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコの評価も、MSCIでは平均BBだが、サステナリティクスではESGに「深刻な」リスクがあるとされている。

前出のブーフーも、一部のデータプロバイダーから高い評価を得ていたが、新聞報道を受けて、株価は3日間で50%近く下落した。メディアの間で以前からサプライチェーンの問題が指摘されていたにもかかわらずだ。

サステナリティクスのリサーチ部門トップ、サイモン・マクマホン氏は、ESGスコアが「かなり不完全な、時には矛盾する、時には質の低い」情報に基づいていることを認めた上で、評価手法は改善していると指摘。

「ESG業界はまだ成熟しきっていない。野球の試合で言えば9回のうちまだ1回だ」と述べた。

MSCIの広報担当は、ESGスコアは投資家が資産査定で利用する数多くの要素の1つとすべきであり、投資を推奨するものではないとコメントした。

<ESG投資の現実>

一部のファンドマネジャーは、独自調査でESGの評価を行っている。

トリオドス・インベストメント・マネジメントのハンズ・シュテーゲマン氏によると、鉄道会社は温室効果ガスの排出量が少ないため、ESGで高い評価を得ることが多いが、投資先のカナダの鉄道会社がシェールガスを輸送していたことが分かり、この鉄道会社株の売却につながったという。

また、企業文化も重要な要素になり得るが、ESGスコアだけでは判断が難しい。

J・サフラ・サラシンのベスリク氏は「ESG投資の看板と実態にはギャップがある。いつかブーメランのように跳ね返ってきて、業界全体が打撃を受ける」との見方を示した。

(Tommy Wilkes記者、Sujata Rao記者、Simon Jessop記者)

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