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焦点:日本の水素戦略で鍵握る川重、供給網構築へ 運搬船で実証実験

[神戸市 26日 ロイター] - 日本で初めて液化天然ガス(LNG)運搬船を造り、そのサプライチェーンづくりに貢献した川崎重工業。40年の時を経てLNGを水素に代え、水素のサプライチェーンづくりに乗り出している。各国企業が脱炭素技術でしのぎを削る中、世界で初めての液化水素運搬船は、日本が水素戦略で世界を引っ張っていけるか、重要な鍵を握る。

 1月26日、日本で初めて液化天然ガス(LNG)運搬船を造り、そのサプライチェーンづくりに貢献した川崎重工業。40年の時を経てLNGを水素に代え、水素のサプライチェーンづくりに乗り出している。写真は22日、神戸で停泊中の「すいそふろんてぃあ」(2021年 ロイター/Yuka Obayashi)

<商用船は水素が動力>

川重の強みは、水素を「つくる」「運ぶ・貯める」「使う」という一気通貫のサプライチェーンを構築しているところにある。欧米では天然ガス同様にパイプラインで水素を運ぶことも想定されるが、アジアは船を使う運搬が重要になるとみる。西村元彦准執行役員・水素チェーン開発センター長は「規制づくりにも参画する。ビジネスモデルや規制などを含めてアジアに持っていければ、成長戦略になる」と話す。

川重が2年をかけて建造した「すいそふろんてぃあ」は、神戸工場(訂正)(神戸市)の奥で、今春にも予定している世界初の液化水素運搬の船出に向けて最終調整を行っている。これは、同社が主導し、日本と豪州政府が支援する5億豪ドル(3億8500万ドル)の実証実験プロジェクトだ。

今回の実証実験では、豪州の「褐炭」という、現地での発電などに利用先が限定されている低品質な石炭から水素をつくり、液化して800分の1の体積にし零下253度で日本へ運ぶ。液化水素を入れるタンクなどに、川重の極低温技術が生かされている。

日本に運んだ液化水素は、新たなエネルギーを使うことなく常温でガス化することができる。さらには、その際出る冷気を冷凍倉庫などで活用することも可能だ。

実証船で運ぶ75トンの液化水素は、1万5000台の燃料電池自動車に水素燃料を充填(じゅうてん)できる規模となる。

今回運ぶ水素は、製造の際に発生する二酸化炭素(CO2)を豪州の地中に埋めるという、いわゆる「ブルー水素」。同社では、再生可能エネルギーから水素をつくる「グリーン水素」の取り組みも進めているが、西村氏は「再エネは自然災害に強くない。将来、全てが再エネ由来と言うのも危険」と話し、いろいろなものからつくることができる水素の選択肢を狭める必要はないと指摘、幅広く考えていく方針だ。

今後、20年半ばまでに商用船を建造し、商用化の実証に入る。船の長さは実証実験に使う船の3倍。タンクは実証実験の75トンから2500トンへと大型化し、これを運搬船に4つ積むため、液化水素の搭載量は1隻で1万トンになる。

実証実験船は運ぶことを主目的としており動力はディーゼルだったが、商用船は、積み込んだ液化水素を動力として使う船となる。

<グリーン成長戦略で水素供給上積み検討>

菅義偉内閣は「グリーン成長戦略」を策定し、水素を「カーボンニュートラルのキーテクノロジー」と位置付けた。17年に政府が策定した「水素基本戦略」では、30年に水素輸入量30万トンを目標としていたが、昨年12月のグリーン成長戦略では、足元で200万トンの水素供給量を30年に300万トン、50年に2000万トンに拡大することを打ち出した。

川重の計画はこれまで「水素基本戦略」に沿う形で事業を進めており、30年に2隻の運搬船を持ち、22万5000トンを輸入、50年には80隻の船で900万トン輸入する計画だった。積極化した政府の取り組みを踏まえ「どのように計画を積み増していくか考えている」(西村氏)という。自社での船保有だけでなく、船の建造などでのライセンス契約も含めて水素輸入量の増加を図りたい考えだ。

また、売上高を30年に1200億円、40年には3000億円を目指すとしている水素機器関連事業の売上高計画も、「目標引き上げ検討に着手している」(西村氏)。水素関連事業での協業などの問い合わせは、海外を含め50社以上から来ているという。

<需要が先か、コストが先か>

運搬船による液化水素の運搬が、日本の水素大量導入時代の幕開けになるか──。この質問に対し、西村氏は自信を持って「なる」と答えた。しかし、水素の普及を語る上で欠かせないのはコストの議論だ。

水素の需要先として真っ先に思い浮かぶのは、燃料電池自動車かもしれない。しかし、耐久消費財である自動車の普及は遅く、需要拡大には力不足だ。

西村氏は「まず発電所だ。商用化の時には発電所の隣接地に船をつける形を想定して、現在、場所の選定などを行っている」とし、複数の企業や自治体を話し合っていると明かす。発電所で使うことで大量の需要先が固まり、コストも下がる。そうすれば、他の産業や自動車向けの普及も早まる。

液化水素実証船のプロジェクトとは別に、川重は、天然ガスと水素を自在に切り替えることができる熱発電システムのプロジェクトにも取り組んでいる。既存の設備を改造して水素も使えるようになる設備だ。

同社では、22万5000トンを輸入する2030年には、水素の製造コストは1Nm3(ノルマルリューベ)当たり29.7円、900万トン輸入する際には同18円を想定している。政府は、導入量拡大が進めば、水素発電コストはガス火力以下に低減できるとみている。西村氏は「どこにコストを負担してもらうかの仕組みが必要」とし、政府による取り組みを求めている。

*写真のキャプションを修正しました。

清水律子 大林優香 編集:田中志保

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