(12段落目のアサヒグループホールディングスに関する記述を訂正し ます。同社が、東京五輪のゴールドパートナ―であることを伝える映像 をCMから外しているとの記述は誤りでした) 白木真紀 山光瑛美 [東京 29日 ロイター] - 中止や延期の不安にさいなまれな がら、東京五輪・パラリンピックのスポンサー企業は半年後に迫る開会 式をじっと待っている。五輪を全面に打ち出した宣伝活動は再開できず 、スタートまで2カ月を切った聖火リレーは、感染対策を講じた新たな 形式を主催者側からまだ伝えられておらず、当初計画のまま準備せざる を得ずにいる。 国家的プロジェクトを支える使命感を背負う一方で、今夏の開催に 反対する世論は高まり、スポンサー企業は苦しい立場に置かれている。 <割り当てが決まらない接待用チケット> 「口が裂けても中止、延期という言葉は出せない雰囲気だった」─ ─。スポンサー企業の関係者は、先ごろ開いた東京五輪の組織委員会と の打ち合わせの様子をこう説明する。 東京五輪の国内スポンサー企業は68社、昨年7月の開催に向けて 契約額は過去最高の約3300億円に上った。それが1年延期されたこ とに伴い、現物出資を含めて総額220億円相当の追加拠出を求められ 、昨年12月に全社が契約を更新。総額は3500億円を超えた。 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に続く中、今年7 月の開催に再び不透明感が強まっている。本来予定していた昨年7月の 延期が決まって以降、五輪開催に向けた国内の機運は後退しつつあった 。今年に入ると緊急事態宣言が再び発令され、国内メディアの世論調査 によると、8割が大会の延期あるいは中止を求めている。 国際オリンピック委員会(IOC)や日本政府、東京都など主催関 係機関は予定通り7月の開催を強調するものの、五輪に携わるスポンサ ー企業の関係者の間では不安が広がっている。ゴールドパートナ―のキ ヤノンの田中稔三最高財務責任者(CFO)は28日の決算会 見で、開催されれば従来の五輪と同様、販促活動に活用するための計画 を組んでいると説明。一方で、「万が一、もしうまく開催できないこと も含め、その対応はいま会社で考えている」と語った。 東京五輪の組織委員会はロイターの取材に対し、日本政府や東京都 、各自治体の感染対策により、状況は改善していくと期待していると電 子メールで回答。「早く通常の生活に戻ることを期待している。今夏の 安全で安心な大会の開催に向け、関係機関と緊密に協力を続ける」とし た。スポンサー企業の宣伝活動が変化しつつあるという関係者の証言に ついては、「すべての関係者から全面的な支援を受けている」と答えた 。 <宣伝自粛の影に消費者の目> ロイターはこのほど、スポンサーを含めた五輪関係者24人に取材 。少なくとも11人は、緊急事態宣言が延長された場合に、世論がさら に後ろ向きになる恐れがあると懸念を示した。 「われわれが中止や遅延という言葉を口にすることすらはばかられ る」と、前出の関係者は言う。「(組織委に)中止や延期になった場合 、われわれの拠出金はどうなるのか、と尋ねることすらできなかった」 と、組織委との会合の空気を振り返る。 協賛したスポンサー企業は本来、大会のロゴやキャラクターなどを 使って広告・宣伝活動を大々的に展開することができる。複数の関係者 によると、昨年末の時点まで、スポンサー企業はいったん延期になった 開催機運を盛り上げようと宣伝活動の再開を検討していたという。 だが、年明けに2回目の緊急事態宣言が出た後は「トーンダウンし た」と、関係者の1人は話す。ロイターが取材したスポンサー企業のう ち、6社は五輪を活用した宣伝活動を自粛あるいは延期していると答え た。コロナ禍で開催に慎重な世論が広がる中で、開催をイメージした前 向きなテレビCMを流せば、消費者から「不謹慎」と指摘されかねない ためだ。 アサヒグループホールディングスの関係者によると、同社 は昨夏の大会延期後、開催に向けた詳細が明確になるのを待つため、予 定していた広告・宣伝の一部計画を先延ばしした。ゴールドパートナ― であることを伝える映像は、今もテレビCMで使っている(訂正)。 競技のチケットを確保し、顧客を招待・接待できることもスポンサ ー企業になる利点だが、中止あるいは無観客開催になればそのメリット も失われる。「観客を入れるのか入れないのかなど、全然決まっていな い。それが決まらないとチケットの販売、スポンサーに対する割り当て についても決まらないから、企業側は怒ってると思う」と、大会関係者 の1人は言う。 <聖火リレー、淡々と準備> 企業は3月25日に始まる聖火リレーの行方にも気をもんでいる。 10年前に発生した東日本大震災からの「復興」を世界にアピールする 東京五輪の聖火リレーは、福島県を出発し、121日間かけて全国を回 る。聖火リレーの協賛企業は大会そのもののスポンサーとは別で、沿道 で自社のサンプル品を配布したり、運営に必要な機材を提供したりする など運営に協力する。 しかし、コロナの拡大に歯止めがかからない中で、感染対策は必須 。当初計画通りのコースを走るのか、沿道の観衆はどうするのか、新た な実施形態について、まだ詳細を聞かされていないという。「昨年開催 するはずだった計画を前提にして淡々と準備を進めている」と、協賛企 業の関係者は言う。 閑散とした沿道をランナーが1人で走る可能性もあることから、そ の映像をそのまま流しても「絵にならない」と懸念する関係者もいる。 「どういう形で聖火リレーを報道してもらうか考えなくては、という話 が出ている」と、同関係者は話す。 準備を進める組織委はロイターの問い合わせに対し、「聖火リレー の感染対策は検討中」と回答。予定通り3月25日に実施するとした。 2020年の夏季大会が東京に決まってから8年。長野県で開いた 冬季大会以来となる日本での五輪開催に向け、スポンサー企業も国が威 信をかけたプロジェクトの準備を支えてきた。コロナの感染拡大で1年 延期が決まった後も、異動せずに五輪担当を続けている社員は多い。 「まさかもう1年いるとは思わなかった」と話す関係者の1人は、 自らをベトナム戦争を戦った米兵に例える。「日本のためだと思って一 生懸命毎日仕事をしているが、国民からは、お前ら間違っていると言わ れているように感じる」 (白木真紀、山光瑛美 Ju-min Park、斎藤真理 取材協力:Sam Nusse y、山崎牧子、安藤律子、清水律子、新田裕貴、梅川崇、竹本能文、平 田紀之 編集:久保信博)
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