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[東京 16日 ロイター] - 日韓両政府は16日午後に首脳会談を開き、相互往来(シャトル外交)を再開することで一致した。安全保障環境が厳しさを増す中、悪化していた関係の改善に踏み出す。北朝鮮の弾道ミサイル情報などを共有する枠組みを正常化するほか、半導体の供給網の強化など経済安全保障について協議する場を新たに設けることでも合意した。
韓国の大統領が首脳会談目的で来日するのは12年ぶり。岸田文雄首相は会談後の共同会見で、「現下の戦略環境の中、日韓関係の強化は急務」とした上で、「双方が形式にとらわれず頻繁に訪問する中で、日韓関係の新たな章を開きたい」と語った。
両首脳はシャトル外交再開のほか、経済安全保障対話の新設、中断していた安全保障対話の早期再開、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の正常化で合意した。日本側は1998年に発表した日韓共同宣言を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいることを確認した。
尹錫悦大統領は「未来志向の議論ができる土台が作られた」と会談の成果を強調。両国の国益は「ゼロサムゲームではなく、互いにウィン・ウィンできるものだ」と語った。
岸田首相は、今回の尹大統領の訪日をシャトル外交の「第1弾」と位置づけ、自身も今後の訪韓を検討する意向を示した。
会談時間は少人数会合と全体会合の合計で約1時間25分。岸田首相は尹大統領の訪日について「日韓関係の正常化へ大きな一歩となった」と語った。
静岡県立大学国際関係学部の奧薗秀樹教授は、「首脳同士が単純に会うことすらままならなかったことが10年以上続いていたことを考えると、尹大統領が訪日し、国際会議の場ではなく2国間の首脳会談が開かれたことだけでも大きな転機になりうる訪問だった」と今回の会談を評価した。
日韓関係は文在寅・前政権下、従軍慰安婦や元徴用工問題を巡って悪化。特に、元徴用工問題では韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた一方、日本は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場を取り、両国で対立していた。
しかし、北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返すなど朝鮮半島を巡る安全保障環境が厳しさを増す中、昨年5月に就任した尹大統領は日本との関係改善を模索してきた。韓国は今月6日、元徴用工問題について、政府傘下の財団が被告の日本企業に代わって賠償する解決策を表明。首脳会談へ一気に動き出した。両首脳とも会見で、日本企業に対する求償権の行使は「想定していない」と述べた。
北朝鮮は尹大統領が日本へ出発する直前のこの日朝も大陸間弾道弾(ICBM)級の弾道ミサイルを発射。岸田首相と尹大統領は、「国際社会の脅威」という認識で一致した。
関係正常化に向かう中、半導体材料の輸出を巡る両国の対立も解消する見通しとなった。日本はこの日、韓国に対する半導体材料の輸出管理を解除することを決定。韓国は世界貿易機関(WTO)への紛争解決手続き申し立てを取り下げた。
(杉山健太郎、久保信博、佐古田麻優、山光瑛美 編集:橋本浩)
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