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財政・金融とも拙速な正常化避けるべき=第一生命経研・永浜氏

[東京 25日 ロイター] - 第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、ロイターのインタビューに応じ、賃金上昇・設備投資増・株高で「30年ぶりの好循環の兆し」が出てきていると述べた。第2次安倍晋三政権下の2014年、消費税率を引き上げて経済の好循環が腰折れになった「同じ失敗をしてほしくない」と語り、財政政策・金融政策ともに拙速に正常化に向かうべきではないと強調した。

第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、ロイターのインタビューに応じ、賃金上昇・設備投資増・株高で「30年ぶりの好循環の兆し」が出てきていると述べた。写真は、鈴木俊一財務相(左)と植田和男日銀総裁。2023年5月13日に新潟市で撮影。(2023年 ロイター/Shuji Kajiyama/Pool via REUTERS)

永浜氏は、政府の経済財政諮問会議のマクロ経済政策運営に関する特別セッションの有識者メンバーの1人。インタビューでは「今の海外のマクロ経済政策の潮流はアベノミクスの第2の矢(機動的な財政政策)と第3の矢(成長戦略)が合わさったものになってきており、財政規律が厳しいと諸外国に遅れてしまう」と指摘。「日本は海外に比べると財政の拡張度合いが弱い」と述べた。

永浜氏は15日の諮問会議で、財政政策について、減税を実施するのと同じ年度に別の税目の税率引き上げで税収の落ち込みをカバーする「単年度の税収中立」から「多年度の税収中立」に転換すべきだと提案した。多年度の税収中立は、減税で景気を下支えし、将来的な景気回復に伴う税収増により10年程度で税収を中立に戻す考え方を指す。

永浜氏は「GXやDX、経済安全保障などの分野に積極的に投資した企業が恩恵を受けるような減税が望ましい」と話す。多年度税収中立の下での財政規律については、政府の利払い費を対GDP(国内総生産)比で抑制していくことが「今の米国の財政運営の主流の考え方だ」とした。

<YCC、市場の安定復活なら年内に修正も>

永浜氏は「拙速に出口に向かうリスクが高そうなのは財政の方だ」とする一方、金融政策については「今のところ植田日銀のもと、拙速な出口に動く可能性は低そうだ」と語った。

永浜氏は「YCC(イールドカーブ・コントロール)修正は年内にあってもおかしくない」とする一方、「マイナス金利は、安定的に2%インフレを達成するまでは維持するのではないか」と述べた。

YCCを巡り、日銀はこれまで長期金利の許容変動幅を3回広げたが、昨年12月を除けば「長期金利はそれほど上がっていない」と指摘。永浜氏は「レンジの上限に長期金利が張り付いてしまわない限り、レンジを修正してもそれほど影響ないと考えられる。日銀はそれを狙っている可能性がある」とみる。

現在の局面では金融不安が払しょくされておらず、米債務上限問題もあるため修正は難しいものの、「そうしたリスクが後退し、市場が安定した状態になれば、植田総裁は(YCC修正に)動くのではないか」との見方を示した。

一方で「事実上の利上げといった、短期プライムレートに影響する政策は(経済への)影響が大きいので、最低でも来年の春闘の状況を見ないと難しい」とした。「来年の春闘でそれなりの賃上げが実現すれば、ゼロ金利への移行はありえる」と述べた。マイナス金利をゼロ金利に戻す程度であれば、経済への影響は限定的との見方を示した。

今年の春闘の第5回集計では定期昇給込みの賃上げ率が3.67%となり、30年ぶりの上昇率となった。永浜氏は、日本の場合、賃金が上がっても経済が正常化する上でのハードルはもう1つあると指摘。20年間にわたってデフレ状態が続いた結果、家計のデフレマインドは相当深刻化しており、「多少賃金が上がっても、節約志向は簡単に変わらず、消費が期待するほど増えない可能性がある。少子化対策等で家計負担増となれば、なおさらそうだろう」と懸念を示した。

インタビューは24日に行った。

(和田崇彦、木原麗花)

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